第2話ホームレスとネグレクト

 七福神から借金をした岩岡、しかし岩岡はどうやって人助けをしようか悩んでいた。

「スマホも解約してしまったから、友達にも連絡は取れない。ましてやこんな格好の俺に金を渡されても、不審に思われてしまう・・。」

 岩岡は考えているうちに、空腹感を感じた。

「もうすぐ炊き出しの時間だ。」

 この地区では月に二回、炊き出しが行われている。目的は地域交流のためだが、単身の老人・生活弱者・岩岡のようなホームレスには、とても有難いイベントだ。炊き出しがあるのは、岩岡がいるこの公園。本日のメニューはにゅう麺とおにぎり、数量限定で御代わりはダメ。

「すいません、お願いします。」

「はいどうも・・・、あら!岩岡さん。」

「あっ、橋本さん。お久しぶりです。」

 橋本涼子は岩岡より十年年上の、気さくなおばさん。主人の隆夫さんは、公園から近い所にある食堂を営んでいる。

「斎藤さんから武さん離婚したって聞いたけど、ホームレスになっていたなんて・・・。」

「はい、今はかなりキツイ生活をしています。」

「そう、もしよければ今度の機会に家にこない?特別でタダにしてあげる!」

「ありがとうございます、また参ります。」

 岩岡はにゅう麺とおにぎりを持って、設置されたテーブルに腰を下ろした。二日ぶりの食事なので、かなり美味しさが身に染みた。

「美味い、やはり食事はいいものだ。」

 岩岡は食事のありがたみを初めて知った、するとすぐ近くにいた小学二年生の男子が泣いていた。どうやらうっかり、おにぎりとにゅう麺を落としてしまったようだ。

「うわーーん!」

「大丈夫かい?あーーっ、よしよし。」

 涼子さんが男子の、肩をさすりながら慰めていた。

「可哀そうに・・・、待てよ?」

 岩岡は七福神からもらった仏像を今こそ使う時だと思った、しかしどう金を出せばいいか分からなかった。

「出したい金額を思い浮かべて、三回振るんじゃ。」

 突然大黒様の声がした、とりあえず「千円ください。」と念じて仏像を三回振ると、千円札が出てきた。

「ほんとだ!これなら・・・。」

 岩岡は泣き続ける男子に駆け寄り、千円札を見せるとこう言った。

「そう泣くな、おじさんがコンビニで買ってあげるから一緒に行こう。」

「いいの?・・・本当にいいの?」

「ああ、もちろんだ。早く行こう!」

 男子は腕で涙を拭って立ち上がった、そして岩岡に連れられコンビニに向かい、おにぎり二つと唐揚げとお茶を買った。そして公園に戻った男子は、とても早い時間で買ったもの全てを平らげた。

「どうだ、腹は膨れたか?」

「うん、ありがとうございます。」

「そうか、良かったな。」

 岩岡はそういうと立ち去って行った、そして仏像に心から拝んだ。

 それから三日後、あまりない自身の金で買った缶コーヒーを飲んでいると、あの時の男子がブランコに揺られながら泣いていた。

「また何かあったのかな?」

 岩岡はそう思い、男子に近づいた。

「あの、どうしたんだ?」

「あの時のおじさん・・・、何もないよ・・。」

「そんなわけない、君のような子供が平日のこんな時間に、公園にいるのはおかしい。」

「おじさんも、仕事とか無いの?」

「無い、それどころか帰る家もない。」

「・・・・、おじさんも可哀そうだね・・。」

 岩岡は「この男子は何か訳ありだ」と察した。

「なあ、何か話さないか?」

 と岩岡が言った時、「あっ、見つけた!」と中学三年生の少女の声がした。

「逃げなきゃ、おじさんごめんね!」

 男子はそう言って逃げようとしたが、少女に追いつかれてしまった。

「ほら、両親の所へ行くよ!」

「やだ、やだ、やだ、やだーーーっ!」

 少女は男子を無理矢理、連れ去ってしまった。岩岡は、何か言いたかったが何もいえなかった・・。

 そしてその日の夕方、決定的な出来事があった。岩岡が仕事を終え公園に向かっていると、男の怒鳴り声がした。

「てめえ、俺によくも恥をかかせたな!遠足に行けないからって、家出とはどういう度胸してるんだ!」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい!」

「謝ればいいもんじゃねえ!」

 ある家の中から物凄い怒声と泣き声、ただ岩岡はその泣き声に聞き覚えがあった、あの男子だ。

「あいつ、虐待を受けていたのか・・・。」

 そう思った岩岡は、居ても立っても居られない状態になりその家のドアの所へ行くと、拳でドアを連打しながら怒鳴った。

「おい!やめろ!おい!やめろ!」

「うるせえなあ・・。志野、ちょっと出ろ。」

「ハアーーッ、だるいんだけど・・。」

 不承不承父の命令に従う志野は、玄関を開けると岩岡の姿に驚いた。

「あ・・あんたは・・・。」

「君、あの子のお姉さんだね?お父さんはどこにいるんだ?」

 志野は父親の大輔を呼びに行った。

「父さんに用事だって。」

 大輔は「面倒くさい・・・」と舌打ちをして、玄関に出た。

「どなたですか?」

「岩岡武だ、お宅から子供の悲鳴が聞こえたから様子を見に来た。」

 大輔は岩岡の服装を舐めまわすように見た後、こう言った。

「お前、児童相談所の者じゃないな?」

「ああ、しがないホームレスだ。」

「部外者は帰れ!」

 大輔は大声で怒鳴ったが、岩岡は険しい顔のまま引かない。

「帰れって言ってんだろ!」

「その前に質問があります、息子さんはあなたにどんな恥をかかせたのでしょうか?」

「聞こえてたのか?」

 岩岡は頷き、志野は呆れている。

「今日、こいつの遠足の日だったんだけど早朝に家出しやがった。」

「なるほど・・・、それで用意はしたのですか?」

「何のだよ・・・。」

「遠足のです。」

「弁当以外は息子にやらせた。」

「弁当はどうするつもりだったのですか?」

「五百円渡した。」

「まさか現地調達ですか?」

「こちとら志野の将来で頭がいっぱいなんだ、卓也というガキにつきあっていられないんだよ!」

 男子の名前は卓也だというのがわかった、岩岡は仏像を取り出して「一億でろ」と念じた。すると一万円札の小山が出てきた。

「な・・・なんだこれは!」

「うそ!あんた、億万長者だったの!?」

 岩岡は腰を抜かした大輔に言った。

「この一億はあんたにやる、この額なら大切な志野をお嬢様にできるだろう。その代わり条件がある。」

「まさか・・、お前金貸しじゃねえだろうな・・・?」

「卓也をこちらに渡すか、卓也に暴力は二度と振るわないと約束するかを選べ。」

 大輔はあざだらけな卓也を見て、こう言った。

「お前、岩岡の所へ行け。今日限りで勘当だ。」

「嫌だ、お父さんとお母さんと一緒が言い!」

「俺の言うことが聞けないのか!」

 大輔は卓也の胸ぐらを掴んだ、すっかり一億円の魔力にかかっている。

「ううう・・・、行きたくない・・。」

 すると大輔は無言で卓也を、岩岡の前に連れ出した。

「卓也を連れてってください。」

「でも・・、嫌がっていますよ。」

 岩岡の意見も聞かず、大輔は強引に岩岡と卓也を外へ出し、玄関のカギをかけてしまった。

「父さん、入れてよ!父さん、父さん、父さんーーーー!」

 岩岡はこの時、金で人を幸せにする難しさを知った。そしてかなり後悔した。



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