第2話
「シーグル、伝言を伝えてくれてありがとう。少しだけみんなと待っててちょうだいね。」
施設長が優しい笑みでシーグルに話しかけると、当のシーグルは返事もろくにせず再びどこかへ走って行った。その様子を見ていたヨハンナの先輩職員のライラは困った顔を浮かべながら施設長の方へ歩いて来る。
「まだ緊張が解けないみたいですね…そう言えば施設長、ヨハンナが来ないんです…まさか何か事件にでも…?」
「ヨハンナは大丈夫よ。今日来る時にここの扉の横に生まれたばかりくらいの赤ん坊が入った籠が置かれていたのをヨハンナが発見してくれて、今物置にその子の洋服を取りに行ってもらってるの。」
「そうだったんですか…でもわざわざこんな山奥にあるこんな孤児院にわざわざ置きに来るなんて…」
「あら、それは皮肉に聞こえるわね?でもここまで連れて来たと言う事は町の孤児院に預けると言うのは出来なかったんじゃないかしら?」
「皮肉じゃないですって。そう言えばヨハンナって確か物置嫌いって言ってなかったですか?大丈夫かしら…」
ライラは苦笑しながら物置のある方を見つめた。
「あら、あの子物置苦手だったのね。悪い事しちゃったわね…あ、そうそう。赤ちゃんはヨハンナがマルグレットと名付けたの。良い名前よね。」
嬉しそうな顔でライラが何回も頷く。
「長ぁ、お洋服着せました!それと予備のお洋服も持って来ましたよ。あ、ライラ先輩おはようございます!」
ヨハンナがライラに挨拶しながら軽い足取りでこちらに歩いて来る。腕にはまだ眠っているマルグレットと、マルグレットが入っていた籠に沢山の服が入っていた。
「お疲れ様、ヨハンナ。急にお母さんになったみたいに見えるわ。」
ライラが微笑ましい笑顔をヨハンナに向けると、ヨハンナは照れた顔でマルグレットを見た。
「それにしても、マルグレットは凄く大人しい子ですよ。あんなに薄暗い物置に入っても泣かないんですもん。偉いですよね。」
「物置は日差しが入らないのは知ってるけど、物置まで蝋燭を置く事が出来ないのよ…最近更に物価とか高くなっちゃったでしょう?この狭い孤児院でさえも満足に蝋燭が置けないのよね…」
「施設長、なんか言い訳に聞こえます…」
ライラが苦笑しながらヨハンナの腕で寝ているマルグレットの頭を優しく撫でた。
「あら、おチビちゃん達が見てるわ。早くご飯にしないとね。」
施設長がそそくさとキッチンに向かっていった。ライラは扉の隙間からこっそりと覗いている子供達を見て小首を傾げた。
「シーグルだけ居ないわね?どこに向かったのかしら。」
「シーグル、お部屋に行ったよ?」
クリクリとした目が特徴的で可愛らしいジーウが男の子用の寝室を指差した。
「それなら誰かシーグルを呼びに行ってくれる?もうすぐお昼って伝えておいてね。」
「僕が呼んでくるからみんな先に行ってて。」
大柄でおっとりとした顔をした、この孤児院の最年長のユッシがのそのそと寝室に向けて歩を進めた。
「ねえ、その赤ちゃん誰?」
ジーウがヨハンナが抱っこしているマルグレットを指差した。
「この子は今日から家族になるマルグレット。可愛いでしょ?」
ヨハンナが少し自慢気に腰を下ろすと子供達がそろそろとマルグレットを覗きに来た。
「シーグル寝室には居なかったよ。一応お手洗いも探してきたけどそっちも居なかったんだ。」
ユッシが心配そうな顔でのそのそと戻ってきた。その時、タイミングを見計らったように施設長の短い叫びが聞こえた。
「ひゃっ!びっくりした…!シーグル、そんな所に居たのね?」
「向こうに居るみたいね。良かったわ。じゃあみんな行きましょ。」
ライラが苦笑しながらジーウの手を引き、食卓へ向かって行った。
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