第39話

 シエルに頼まれて、ラエルを迎えに向かった東の部屋。


 ワレの瞳で見たものはすべてを、シエルも術で見ることが出来る。

 好いておる、小娘が気になったのであろうな。


 いい傾向だとワレは思う。

 ようやく人の様な感情を持った主人に。


 

 ♢



 小娘が捕まっている扉が開いて覗けば、椅子で寛ぐラエルと甘えん坊が二人いた。


 この状況を教会にいる主人。シエルに見せても良いのだろうか?


 小娘が捕らえられる鳥籠に入り、小娘の膝の上を独り占めしょうとしたのだな。


 勝ったのは子犬のベルーガ王子か。

 その横でガットは腹天でべったりとはな。ワレも仲間に入り……いや、辞めておこう。



 来たことを伝えるべく羽で扉を叩く。

 ワレに気付いた、ラエルがこちらを向いた。


「ウルラ、どうしたの?」

「教会にいる、シエルが呼んでいる」

 

「そうなの? 念話すればいいのに……あぁ、そうか。兄貴らしいな」


 わかったよ行こうかと、ラエルは微笑んで、椅子から立ち上がった。


「ルーチェさん、二人をよろしくね」

「はい、わかりました」


 べったりなベルガーとガットは、ルーチェさんの守りとして置いていくのか。


「気を付けてな、ラエル」

「あるじー! いってらっしゃーいっす」


 なんて気の抜けた王子と使い魔だ。

 ワレは部屋に入り、このだらしない状況をシエルに見せるべく、鳥籠の前で羽ばたいた。


「福ちゃん⁉︎」

「ウルラ、やめろ!」

「後で怒られるっす!」


「ふん、もう遅い」


 慌てる二人を残して、ワレはラエルと共に部屋を後にした。



 ♢



 ウルラに行かせて正解だな。奴らめ、ルーが優しいからと甘えやがって。


 特に約束を守らないベルガーは、後で覚えていろ。



 術を解き前を向くと、祭壇のイアンは俺を睨む。


「シエル! 貴様は許さん!」

「ふん、どう許さないんだ?」


 コツンと床に杖を当てた、奴に向けて衝撃波が飛んでいく。


「こんなの止めてやる! ……ぐっ!」


 奴は右手を使い、衝撃波を押さえようとしたが、旧式魔法では無理だろうよ。


 止めれず、吹っ飛んだ体はステンドグラスにぶち当たり、ステンドグラスが粉々に割れ落ちる。


 イアンは落ちる寸前に魔法を放った。



「【毒蛇】」



 奴は右手から黒い紐状なものを、俺に向かって飛ばした。

 それは無数の毒蛇となり俺に襲いかかり体に噛み付く。


(この毒、どのくらいの効力なんだ?)


 抵抗する事なく蛇に噛み付かれ、毒が体に回る。



(あぁ……なんだ)



 蛇の牙に噛まれる痛さだけか。

 国王陛下の特訓の方が、はるかに致死量手前で、凄かったなぞ。 

 やる気満々の陛下には、さんざん叩き込まれたものな。


 ふっ、ふふ、面白い。



「「貴様の毒など俺には……きっ、、」」



 ゴチッと、後ろからこつかれた。



「いっ! ……不意打ちとは卑怯だぞ! ラエル!」



「だって、兄貴の方が悪役に見えるよ。今の兄貴を見たらルーチェさん引くと思うよ」


「そうなのか?」

「そうだね」


 ぐっ、ルーに引かれるのは困る。



「ところで? 兄貴が僕をここに呼んだ理由は何?」



 俺はイアンを指差し。


「祭壇に立つ、ルーの弟イアン。あいつは旧式魔法を使う」

「旧式魔法だって?」


 旧式と聞いてラエルの顔つきが変わる。

 俺達はその魔法を使う、魔女に苦い思い出しかないからな。



「へぇ、そうなんだ、兄貴やるの?」



 ラエルの目付き、やばいな。

 

「それだけはやめておこう。奴は仮にもルーの弟だ。ラエルに見てもらいたいのは奴の右腕だ」



「右腕?」

「鑑定スキルで奴の右腕を見てくれ」



 俺よりも鑑定スキルが高いラエルの方が、正確な答えが出せるだろう。

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