第38話

 ウルラが「ここだ」と合図するように、西奥の建物の上を飛び回っていた。

 俺は「わかった、後は一人でやる」と、ウルラに手を上げて合図を返した。


 到着した、教会の入り口に見張りの騎士はおらず、誰かがはったのだろう結界が見える。



「ご丁寧に結界の魔法かよ」



 杖の先端、赤い魔石をコツンと結界を張る魔法陣に当てた途端に。

 結界はいとも簡単に「パリィィィン」と音と共に消えていく。


 なんと旧式で弱い、結界魔法だ。

 しかし、この旧式魔法は気になる……


 だが今はこっちが先だと、結界の解けた観音開きの扉を押して中に入った。



(⁉︎)



 ライトの魔法で照らされた教会の中で。

 カロールと、花嫁姿のルーは祭殿に立ち、手を繋ぎ見つめ合っていた。



 その姿に胸がズキリと痛む。



「ルー……」



 小さく漏れた声に、驚いたかのようにルーはこちらを振り向いた。



「シエル? どうして、ここに?」



 ん? 声はルーだけど、シエル? 今、ルーは俺をシエルと呼んだのか?



 はっ、はははっ、なんだ真っ赤な偽物ではないか。


 似せるなら、もうちっと努力をしろ!



『え、今呼ぶの? もう恥ずかしいのに……シ、シエルさん。これじゃ、ダメ? シエ、、……やっぱり無理、先輩は先輩なの!」



 ふっ、本物のルーはこうだな。

 俺の名前を呼べず、耳と頬を真っ赤にするんだ。


 この、とんでもない偽物め。



「「お前はルーではない! 誰だ?」」



「誰だって、ルーチェだよ。シエルは何を言っているの?」

「お前も良く知っている、ルーチェ嬢ではないのか!」


 カロールの意見はどうでもいい。 

 しかし、知らない奴に名前を呼ばれるのは、イラっとして気持ち悪いな。



 これで聞くのは最後だ。



「お前は誰だ? と聞いている」


「ルーチェよ!」


 偽物め。

 少々、ルーを痛めつけているようで気が引けるが、こやつが術を解かぬなら仕方あるまい。

 杖を床に魔石をコツッと当て、奴の旧式魔法を解くのではなく。



(強引に剥ぐ!)



「「ぐくっ、シエルなにをする!」」



 体全体に激痛が走るであろう? 

 奴の足元の魔法陣からは、無数の手が伸びていて、偽物の皮膚を剥ぐ。



「「いぎゃぁ! いてぇ‼︎」」



「その激痛に耐えれないのなら、自分でかけた魔法を解け、それしか道は無いぞ」


 俺は優しくはないので、悲鳴を上げようが、術は解いてやらん。



 ♢

 


 静かな教会に上がる奴の悲鳴。

 隣の腰抜けカロールは怯えているのか、震えて見ているだけだ。

 ルーを、好きだと言っておきながら動ごけぬとは、助ける気はないにだな。


 それとも魔力が足らず見えていないのか? 



 奴はとうとう激痛に耐えれず「【解除】」と魔法を使った。

 それと同時にラエルからの通信が入る。



 奴の魔法が、解けていく様を見ながら、ラエルと会話を始めた。



『兄貴、ルーチェさんを東側の部屋で、見つけたよ』

『そうか見つかったか。それで? ルーは怪我をしていないか?』


『ルーチェさんに怪我はなさそうだよ。ちょっとベルーガ、ガット、ルーチェさんを取り合いしないの!』


 ラエル、気を利かして小声で言っているが、丸聞こえだ。

 そっちは俺抜きで楽しそうだな。


 こんな事は速く終わらせて、ルーの所に行きたい。



「「くそっ!」」

 

 ん? どうやら、奴の旧式魔法が解けたようだ。


「はぁ、はぁ。いてぇ、いて、酷いなシエルさん。なんて魔法だ。体を引き裂かれるかと思ったよ」


 涙を流し体をさすりながらも、俺を睨み付けた。



 正体はルーの弟、イアンか。

 で、「その旧式魔法はどうした」と効く前に、カロールがイアンの肩を掴んだ。



「なぜ、ここに弟のお前がいる? ルーチェ嬢は何処にやった?」


「姉さんは殿下が用意した部屋にいるよ。でも、シエルさんの仲間に見つかったみたいだ」


 カロールに悪気なく言うイアン。

 その態度にキレた、カロールは大声を上げた。


「「見つかっただと? 何もかも、お前に任せれば上手くいくと言ったから任せたのに、これはどいう事だ?」」



 息の荒くさせたカロールを、冷静に見つめるイアン。



「ははっ、殿下は何も出来ないくせに煩いな。殿下は邪魔なので、終わるまでお眠りください!」



 イアンは右手でカロールの顔を掴んだ途端に、倒れるようにカロールは床に崩れ落ちた。



「殿下、一人では何も出来ないくせに」



 うむ。これはまた旧式魔法だ。

 


(若いイアンに、なぜ? その魔法が使える?)



 旧式魔法。


 忌々しい魔女、奴が使用する独自の魔法。

 奴が記した魔導書を読まねば、誰にも使用する事が出来ない、奴だけの魔法だ。


 

(おや? イアンの右腕の色、他の肌の色と違わないか?)



 あの右手! 

 まさか、こんな所に奴が?



 いや、奴は国王陛下と魔道士達によってばらばらにされた体を、大陸の霊力の高い森や湖などに、封印したと陛下に聞いていたのだが……


 

 こればかりは、一人で判断はしない方がいいか。



『ウルラ、いるか?』

『あぁ、すぐ近くにいる』


『悪いが。今すぐ、ラエル達がいる部屋に行き、ラエルだけを呼んできてくれ?』


『了解した』


 ラエルの判断も仰ごう。

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