第37話

 ワレ達は城の庭園に降り立った。何やらバタバタと騎士やメイドが、真夜中なのにも関わらず働いている。


「ガット、怖かったら戻るんだよ」

「大丈夫っす、あるじの役に立ちたいっす」


「お前なら人族には見つからないと思うが、無理ならやめておくのだぞ」


「そうだ、怪我するなよ」


 頑張るっすと、暗闇に身を隠してガットは消えていった。


 残ったワレは空から、ラエルとベルガー王子はラエルの姿消しの魔法で姿を消して、城の中を探す。


「見つけたら、通信ね」


 ラエル……ガットにその事を言うのを言い忘れてるぞ。

 ガットが怖くなって戻ってくると思っているのか、それとも怖くなって通信で、すぐにでも話しかけてくると思っているのだろう。


 まったく甘い主人だな。


「ルーチェさんと兄貴を探そう!」


 ワレは空高く飛び上がった。



 ♢



 一人になった部屋の中、力任せにガシャンガシャン鉄格子を鳴らした。



「「誰か来て!」」



 部屋の前を足音が行ったり来たりと、騒がしいくせに、私の声は届かない。


 この部屋からの声は無視をする様に、カロール殿下に言われているの?


 しかし、カロール殿下はこんな大事な事を起こして。

 いくら第一王子だとしても、国王陛下と王妃は黙ってはいないはず。


 イアンだって捕まれば、自分の身が危なくなるのに。


 ガチャッと部屋の扉が開き、騎士が二人入って来た。

 見張りが来たのかと思ったけど、彼らは部屋の椅子に座り、休憩を始めたようだ。



「「ここから出して」」



 聞こえるように声と鉄格子を鳴らしたけど、彼らは私の方を振り向かない。



 

(もしかするとこの鳥籠は、イアンの魔法で姿を消されてるの?)



 前で寛ぐ騎士達は会話を始めた。


「まったく、カロール殿下は人使いが荒い」

「そうだ、休みもなく働かされている。でも、それも今日で終わりだ」


「あぁ、やっと終わるな」


 用意された水に、菓子を摘みながら彼らの話は続く。

 

「でも聞いたか? 国王陛下と王妃は魔法で明日の朝まで眠らされたらしいぞ。記憶とも消したと言っていたな」


 記憶?


「先ほどの話か? この騒ぎに何事かと国王陛下と王妃が部屋から出てらしたな。陛下と王妃の記憶を消したのか……次に目が覚めた時には、既にカロール王子とルーチェ様の婚姻が済んでいると、言うわけだな」


「そうだな……一度は、他の女性と一緒になるべく婚約破棄までして、手放されたルーチェ様をまた捕まえるなどと、殿下のお心は誰にもわからないな」


「おかしいと分かりながらも、ただの騎士の俺達には何もできない」

「だよな。おっ、【魔法通信】だ。西の砦で魔法使いが一人、暴れているらしい、向かうぞ!」

「おぉ!」


 魔法使い?  もしかして先輩?



 彼らが出て行って、数分後。



「「ひやぁっ、怖いっす。もう、俺っちは無理っす」」



 閉まった、扉が再び開く。

 その入り口から、飛び込むように黒い塊が、部屋の中に転がり込んでくる。


「あっちもこっちも人族ばかりっす」


 体勢を低くして、キョロキョロ部屋の中を見回して、誰もいなとわかるとホッとしたようだ。


「いやぁー怖かったぁ」


 転がり込んできた黒猫の尻尾が二本とも、興奮? 恐怖? なのかパンパンに膨らんでいた。


「可愛い、猫ちゃん」

 

 私が発した声が聞こえたのか、音の方向に耳が傾く。


「誰かいるっすか? 今、女性の声がしたっす」


 声は聞こえても、私の姿までは見えないのか。

 私が捕まる鳥小籠の前を背を低くして、尻尾を揺らし警戒している。


 でも、声が聞こえるのよね。



「ねぇ猫ちゃん、私の声が聞こえるの?」

 


「「うにゃっ⁉︎」」



 話しかけてみると、黒猫ちゃんは驚いたのか、ぴょんと上に飛び跳ねた。


「ま、ま、また女性の声が聞こえた。だぁ、誰か? こ、こ、この部屋に? いるんすか?」


 見えない私に威嚇しているのか? 

 ぴょんぴょんと跳ねて、体も尻尾もぷっくり膨らまして、大きく見せている。


「やるんすか? 俺っち、負けないっよ!」


 そう、口では言ってるのだけど、体は出口近くに向かっている。


「ふふっ、可愛い黒猫ちゃん」



「えっ、俺っち、か、可愛いっすか?」



 今度は前足で顔を掻き、照れてる仕草? を始めた。


 この黒猫ちゃん、表現豊かで可愛い。

 この黒猫ちゃんに癒されちゃった。




 ♢




 ルー、この城の何処にいる? サーチ魔法を使いだいが、騎士が邪魔だな。


 カリカリといつもポケットに忍ばせている、魔法回復のクロックの実をかじりながら進んでいた。


「カロール殿下の命令だ。ここより先は貴様の立ち入りを禁じる」



 それは、もう、何回も聞いたよ。



「これではらちがあかん! 次から次へと【スリープ】」


 

 一気に城ごと燃やしたい! イライラと焦りが混合していた。



『あー、あー聞こえてますっす? 俺っち、ガットっす。シエルさぁ〜ん』

 


 突如、聞こえてきた陽気な声に気が抜ける。



『なんだガットか、何にか用か?』

『ひぇ〜。声がいつもよりも凄みを増して、怖いっす』


 お前はいつも正直で、相変わらずの怖がりだな。

 

『どうした? ラエルに何かあったのか?』

『あるじは元気っす! 俺っち、シエルさんの大事な方を見つけたっす』


 大事な方? ガットは城に来ているのか?


 だとすると


『ルーの事だな? ガット! ルーは何処にいるんだ?』


『うひょっ、すみやせん。始めての城なので、この部屋が何処かまではわかなんないっすが。何処かの部屋の中で捕まってるっす!』


『そうか、怪我などしていないか?』


『ルーちゃん、怪我はしていないっすか? うん、わかったっす。……していないみたいっす。今、俺っちの頭を撫でてくれてるっす』


 ルーちゃん? ガット、ルーに甘えているな。

 羨ましい、俺だってルーに早く会いたい。

 この目で無事か確かめたい。


『ガットはラエルを呼べ、あいつならお前の場所がわかるから』

『わかったっす』


 取り敢えず騎士達を眠らせながら、ラエルからの連絡を待つか。



『シエル、シエル、聞こえるか?』

『ウルラか、どうした?』


 今度はウルラか……呑気なガットとは違い。

 こちらは何やら、声が沈んでいるな。


『お主に伝えにくいのだが……カロールと小娘の式が西奥の教会で始まる』


 カロールとルーの式が始まるだと?


 今、ガットとの会話で、ルーは何処かの部屋の中だと言った。

 しかし、ウルラは西奥の教会でカロールと式が始まると言った。


『そうか、教会に入ったのは本当にルーなのか?』

『そうだ、この目で見た。カロールと腕を組み、教会に入っていった』



 ガットの方はラエルが行くだろうから、ここから近い、教会のほうを見に行くか。



『ウルラはそのまま、その場で監視を続けてくれ、今そちらに向かう』


『了解した』


 どうやら、ルーが二人いるみたいだ。

 果たして、どちらが本物なのだろうか?


 確かめるためにも、教会に急ぐとするかな。

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