第36話
ボソボソと、女性と男性が近くで話してる。
「この子は支配できない……特殊な子なのね」
「姉さんが特殊だって? そんなことありえない!」
(特殊?)
……
……
「んっ……」
目覚めると冷たい床に、鉄格子が見えた。
ここは牢屋の、なか? 体を起こすと近くで、影が動く。
「だれ?」
「やはり目覚めたか、姉さん。ここは王城、カロール殿下が姉さんの為に用意された部屋だよ」
「イアン……? カロール殿下が用意した、私の部屋?」
だとすると、ここは牢屋ではないんだ? でも、この鉄格子は?
「え、とりかごの、な、か?」
「素敵な姉さんの部屋だよね」
私は鉄格子を叩き。
「何が素敵な部屋よ! 鳥籠の形のような牢屋じゃない」
「姉さんにはぴったりだよね」
(くっ)
イアンはさっきとは違い、質の良さそうな、ジュストコールを身につけて。
鳥籠の前に一人がけのソファーを置き、あたかも私を見張る様に深く腰掛けていた。
「私を捕まえて、どうする気?」
「どうするって? 今から姉さんは、カロール殿下と結婚式を挙げるんだ」
「「結婚? 絶対に嫌よ!」」
「そう言うと思ってね。支配魔法を何度もかけてもらったんだけど、姉さんて魔力が無い癖に、魔法がかかりにくいんだってさ」
「私に魔法がかかりにくい?」
イアンは頷く。
「気絶した姉さんに「【支配魔法】」をかけて操り、さっさとカロール殿下と式をあげちゃおうと思ったんだけど、魔法がかからず操れなかったってわけさ。だから次の手に移る事にしたよ」
それは何? と聞く前に、コンコンと扉が叩かれた。
イアンは返事を返すと、メイドはイアンに話しかけ始めた。
「イアン様、カロール殿下のご準備が整いました。ルーチェ様のご準備はお済みでしょうか?」
「あぁ、準備は終わってる。直ぐに向かうと、カロール殿下に伝えてくれる」
「はい、かしこまりました」
メイドとのやり取りの中で、イアンは準備は終わったと言ったけど、私はまだ汚れたワンピース姿だ。
「姉さん、心配いらないよ。魔法のかからない姉さんではなく、僕が式に出るから心配しないで、ここで待ってるといいよ」
男のイアンが式に出る?
「まっ、そこで見てなよ、ね、え、さ、ん「【再現】」」
再現? そう唱えたイアンの足元に紫色の魔法陣が出現した。その魔法陣は黒い光を放つ。
それは先輩が私に変わった時と、似ている様に感じ? でも何か違う、黒い光を纏いイアンの足元から変わっていく。私はそれを見て声を上げた。
「やだ! やめて、イアン!」
ガシャンと鉄格子を握った。
「ねっ、姉さん。こんなに簡単に変われるだろう」
魔法陣の光が消えて、そこにいたのはあの舞踏会と、瓜二つの私がいた。
「はははっ、おかしっ! 何て顔してんだよ。この魔法のお陰で、いとも簡単に姉さんを見つけれたんだけどね。式が終わるまでそこで大人しくしててね」
ダメ、イアンが部屋から出て行ってしまう。ガシャン、ガシャンと、力任せに鉄格子を揺らした。
「イアン、私はカロール殿下とは婚約破棄してるの、結婚なんてしたくない!」
扉の前で足を止めて、振り向いたイアンは笑っていた。
「書類も受理されてる事も知ってる。でも、心配はいらないよ。カロール殿下は心変わりされたんだ。姉さんを優しく迎れてくれるよ」
「「イアン!」」
止める私の言葉を無視して、パタリと音を立てて、扉は閉まってしまった。
♢
深呼吸しろ、落ち着け……怒りに取り込まれるな。
鉄格子は怒りで吹っ飛ばしたが、その後は落ち着きを取り戻している、はず。
ウルラ、ラエル、ベルガー、ガット達は相変わらずうるさい程、話してくるが、な。
「俺は、大丈夫だ」と、だけ返しておいた。
それと鉄格子を飛ばした時、近くの牢屋の奴が煩く声を上げた。
「何々? 爆発音がしたけど? 何の音? 何が起こった⁉︎」
そう言えば、ここにいたな……ニヤリ。
(こいつを使おう)
鉄格子近くで騒ぐ、奴の額を軽くこついた。
「騒ぐな、落ち着け」
「いたっ、何? あれ? シエルだ。こんな所で何してんの? その格好、捕まったの? うけるぅ~!」
「「うるさい!」」
相変わらずの見た目が……カロールはほんとうに、こいつに何もしてやっていないんだな。
「お前に言う必要はない。だが、お前の願いを言ってみろ、一回だけ叶えてやる」
「私の願い? シエルと結婚」
「却下だ」
「ラエルとの結婚」
「無理だ」
なんでよと、頬をみっともなく膨らました。
「膨れるな、無理なものは無理だ」
「わかったよ、フラグも立ててないし。じゃあー、カロール様と結婚したいかなぁ」
おぉ、これは思うように転んだ。
「よし、それなら叶えれる。願え、カロールと一緒になりたいとな。また後で呼びにくる」
「えぇ、ここから出してくれるんじゃないの⁉︎」
煩く鉄御足を揺らしたが今は足手纏いになる。邪魔者は必要ないと、振り向かず地下牢から出た。
♢
俺を捕まえようと、襲ってくる騎士を眠らせながら進んでる。
「【スリープ】」
(いつまで続く、イライラする)
赤い魔石の杖振りかざして「【スリープ】」を唱えて、騎士がバタバタと眠りについていく。
次から次へと騎士が湧きやがる、足止めを喰らいイライラが募る。
一気に炎の魔法でこいつらを焼いて仕舞えば早いが、そのことを後で知ったルーは、果たして俺に笑ってくれるか?
俺はルーの悲しい顔は見たくないんだ。ルーにはずっと俺の側で、笑っていて欲しい。
「「ルー待っていろ、俺が迎えにいく!」」
迫ってくる騎士を次々眠らせた。
♢
これはまた、煩いな。
下を走らせたガットが、疲れた、暗くて怖いなどと、煩く騒ぐ。
「あるじ、あるじ、もう走れないよ、抱っこして」
ガット……お前。
「ウルラ悪いんだけど、ガットも乗せてもらっていい?」
「仕方ない、ガットが「高い所は怖い」と暴れぬよう、気をつけください」
下で動けないと、転がったガットを拾った。
「うわぁ、温かい温かいよ。あるじ、あるじ」
ラエルに抱っこしてもらって、ご満悦なガット。
「まったく、いつまで経ってもガットは甘えん坊だな」
ガットはその言葉に反論する。
「なに言ってるんすか? ベルーガ王子もあの子にベタベタしてましたよね、甘えてましたよね。一緒ですよ」
「そうなんだ、ベルーガ。兄貴に知られないようにね」
うぐっ、と声を詰まらせて、ベルーガ王子は黙った。
ガットもあの場面を見ていたのか、さすがだ。ガットの気配消しはワレでも見抜けぬ。
しかしな、その才能を持っておるのだから……助けにこぬか、ガットよ。
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