第40話

 杖を構えてラエルは「【鑑定】」イアンの分析を開始した。

 

「止めろ! 僕を見るな!」


 ラエルの鑑定ほど怖いものは無い。

 動かない様に痺れを放ち、周りには幾つもの目ん玉が体の隅々まで、はたまた中まで覗かれる。


 鑑定が終わる頃には震えが止まらなく、トラウマにもなる者もいたな。

 自分の弟ながら少し怖く感じる。


「終わったけど、どこから言えばいい?」

「そうだな辺境地に移ってからだな」



「「やめてくれ!」」


 イアンは声を上げるが、ラエルの痺れが抜けておらず、まだ動けないみたいだな。


「気にせず話せ」


「わかった。名はイアン・ローレンス元公爵家の長子。身長は……三ヶ月前にパン屋のリカちゃんに働かず、お金のない人なんて嫌と、振られる。両親は働かず金に困る、一ヶ月前、魔石鉱山に盗みに入り右腕を魔女に喰われる」


 魔女に喰われたのか。


「奴の右腕は……忌々しい魔女ヘレシーのだよ」


 やはりか、ヘレシーは復活していたのだな。

 魔女ヘレシー……その名は、忘れておらぬぞ。


「そうか。ラエル奴を捕らえるぞ。もしや、ナタリー様に甘い言葉で取り入り、俺達の国をやったのも、そいつかも知れぬ」

「わかった、兄貴」

 

 ラエルと共に封の魔法を唱えるべく、奴に向けて杖を構えると。


 するりと、奴はイオンの右腕から離れた。

 イアンはラエルの【鑑定】で大打撃を受けたのか、どさりと床に倒れて気を失ったようだ。



『あーヤダヤダ。お前達のおかげで、私の魔力がたらなくなっちゃったじゃない』



 右腕だけの癖に余裕があるのだな魔女ヘレシー。


 まったく舐められたものだ。



『次の寄生先を見つけなくてわね。でも、ここはいい。魔力が高いあなたとあなた、そして少し離れたところに、もう一人いるわね』


 ヘレシーは楽しむ様に東の塔を指差す。



 へぇ、ルーの存在に気づくか、だが俺が、お前を簡単に行かせるわけないだろう。


 コツンと杖を床に当てる。



「【束縛のいばら】」



『あら? その魔法私が作った魔法よ。効くわけ……ギャァァーーー⁉︎』


 ふっ、自分の魔法に効いたのだな。


【束縛のいばら】俺が定めた目標物に触るとスイッチが入り、ついでに雷魔法が発動する仕様に変えておいた。


 国王陛下に、散々お前の魔導書を読んでおいた方がいいと読まされたが、お前の旧式魔法など使いたくない。


『くっ! なんて嫌な男! 女性に優しくしなさいと習わなかったの!』

「女性ね。俺は優しい方だぞ」


『はぁ?』


 

 ラエルの方がなんというか、えげつない。



「【霧毒蛇】」



 ヘレシーの右腕に細かな蛇が噛み付く、それは致死量寸前迄の毒、ラエルは器用に気絶をさせない。


 さっきの観察で、そんな隅々まで見たのか。


 

『いやぁ! こんな非道なお前らなど相手していれないわ! ……そうよ私にはもう一人いるの!』

 

 奴の右腕は飛ぶ、しかし教会から出る事は叶わなかった。

 ヘレシーが触った所がぼふっと爆発が起こり、黒焦げになったヘレシーが落ちてきた。


 ラエルは落ちた右腕を見下ろして


「右腕しかないけど、自分の結界魔法も見えないなんて、十年足らずで魔力が弱くなったね? それ、蛇、蛇!、ぐるぐる巻き!」


 ……うわぁ無邪気だ。

 ラエルが結界を張ったことは分かっていたが、爆発の印は見えなかった。

 また新しい魔法を編み出したのだな。後で教えてもらおう。




 あとはカロールだな。気絶したまま目を覚さぬ奴の元に近く、これはまだ目覚めぬな。


(ん? これは?)


 聖書台の上の紙を手に取る。

 これは誓いの書か? 国王陛下と王妃の名と、保証人の名、カロールの名と印が押してあった。

 王子とは一度結婚をしてしまうと、離縁がし難いと、ベルガーに聞いだことがある。


(離縁が難しいか)


 そろそろ、あやつの出番だなと杖の先端で床を叩く。

 魔法陣が現れて地下牢屋から呼び寄せた。


 現れた奴は昼寝でもしていたのか、寝転んだままの姿で目の前に現れた。


「こいつ……」

「え、ここは? どこ?」


 状況が見えておらず、焦る奴に言う。


「さぁ、お前の出番だぞ!」

「あーシエル! 遅い! おそっ、いたっ、痛い、何するのよ!」


 奴とお前の一度きりの結婚式だ。

 この姿ではさすがに、かわいそうだなと全て元通りに戻した。

 

「嘘っ⁉︎ 全て元の綺麗な姿に戻ったぁ⁉︎ そしてここは教会! この中の誰かと結婚が出来るの? まさかラエル⁉︎」


 祭壇から、楽しげにヘレシーの右腕をぐるぐる巻きにする、ラエルを見た。


 ラエルは微笑んで違うと首を振る。


「ごめんね、君の相手は僕じゃないよ」

「そうなの、じゃぁ!」


「俺でもない。お前の相手はこの国の王子カロールだ」


「げぇ……」


 なんだその嫌そうな顔は?

 そりゃそうだな、半年以上放置で地下牢屋に入れた奴となんか嫌になったか?


 カロールの罰はこれにするはずだったが、違う物にするか?

 記憶を塗り替えるか、全て消すか?


「まっ、いいっか。元々結婚するつもりだったし、贅沢できそうだし!」


 贅沢か……いいのだな。


「だったらこの紙に、名前を書いて拇印を押してくれ」


 リリーナは名と拇印を押した。

 あとは、誓いのキスで終わりか。


 コツンとカロールの目を覚ます。


「んっ、ここは? あっ? リリーナ嬢?」

「カロール殿下とリリーナ様の結婚式でございます。署名も終わりました。さあ、誓いのキスを……」


 頭を下げる俺に、焦るカロール。


「カロール様~!」


「ちっ、ちが……わない。なんて幸せだ、俺のリリーナ嬢」

「私もです、カロール様!」


 二人は幸せそうに誓いのキスをした。


「おめでとうございます、カロール殿下! リリーナ様!」

「おめでとうございます!」


 二人の結婚を拍手で祝った。

 リリーナ、奴には元から魅了魔法が使えた、その魔法レベルを上げた。


 カロールはリリーナの魅了に、簡単にかかったのだ。

 その魔法が切れるのは明日になるか、いつになるかはわからない。


 切れてからが見ものだろうな。

 まぁ、二人で幸せになってくれ。

 右腕は国に持ち帰るとして、残るはイアンか……このまま、ほっといてもいいが。


 おっ、そうだ。コツンとイアンに杖を当てた。


「【永久変化】」


 魔法陣が現れて、奴の体が男性から徐々に女性に永久に変わる。

 男ではわからなかったが、ほんの少し、ほんの少しだけ、ルーに似ていている様な気がした。


 お前が魔女に喰われた右腕は戻してやれぬ。

 これからの人生は女性となり、カロールの側室にでも、してもらえばいい。男のままでいるよりは、いいかも知れぬぞ。


 見つめ合う二人と女性となったイアンを置いて、祭壇を降りてラエルのところへと向かった。


「ラエル、終わったのか?」

「うん、終わったよ兄貴!」


 見たことのない清々しい笑顔だな。

 お前が持つ、それが元、右腕だったとは誰も思うまい。


『ウルラ終わった、帰ろう』

『わかった』


 結界をラエルに解かせて、俺達は教会を後にして、ルーのところへと向かった。

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