第31話

 掃除を終わらせて、鍵を使い魔法屋さんに向かった。何時に行くかは言ってないけど。

 昨日の帰り際に先輩が、魔法屋さんに伝えると言っていた。


「いらっしゃい、ルーチェさん」

「キュン」


「お邪魔します、魔法屋さんと子犬ちゃん」


 草色のワンピースとおさげ髪、手にエプロンとお財布を持って扉を潜った。


 なぜか魔法屋さんの格好。いつもの目隠しと黒いローブではなく、シャツにベスト、ズボン姿だ。


 魔法屋さんは青い瞳を細めた。


「兄貴に聞いてますよ。オムライスの材料を買いにいきましょう」


 子犬ちゃんはお留守番で、二人で買い物に出ようとしたけど、キュンキュンと後ろを付いてくる。



「すぐに戻るから、子犬は店でお留守番」

「キューン」


 嫌だと鳴いて、子犬ちゃんたらジャンプして、私の足に引っ付いた。



「きゃっ、子犬ちゃん⁉︎」

「こら、子犬。ルーチェさんに引っ付くな!」


 離れず、置いて行かないでと、可愛い瞳で訴えてくる。仕方がないと子犬ちゃんを抱っこした。



「大人しくしてるんだよ」

「キューン」


「まったく、何も買わないからなぁ」


 施錠して港町に繰り出した。



 ♢



 私達が買い物に出掛けた、すぐに奥の扉が開く。


「ラエル? 子犬? これはルーのエプロンか。いないのか? 買い物に行ったのか、一足来るのが遅かったようだな」


 今日は酷く嫌な日だ。一度に二人も、会いたくない人物と出会った。

 

 一人は牢屋で可笑しくなった女。もう一人はルーの弟だ。


 牢屋の帰り、俺の部屋の前に白銀の髪、シャツにズボン姿の若い男がいた。


(あいつがウルラが言っていた変な男か……)


 ウルラから変な男か部屋の前をうろついている、と連絡を受けていた。


 奴は戻ってきた俺を見つけると、貼り付けた笑顔で近付いてきた。


「あなたが、シエル様ですか?」


 俺の名前を知ってるのか……それも様付け、誰だ? 目が笑っていない、笑顔が不気味だな。

 しかし、王城にいる者を下手にむげには出来ない。


「私はただの一端の見習い魔導師です。様は付けなくていいですよ」


「そうですか、失礼しました。以前、姉上がお世話になった方だと、お伺いしたので」


「姉上?」


「すみません、名乗るのが遅れました。私はイアン・ローザンと言います。これから城に止まり、カロール殿下とご一緒に姉上を探す手伝いをしますので、僕の事はイアンとお呼びください、シエルさん」


 ルーの弟か。

 前に殿下が人と会うと言っていたのは、イアンの事か……また、面倒なのを呼んだな。


「イアンさん、よろしく」

「はい、よろしくお願いします」


 イアンはまた礼をすると去って行った。



 何をしでかすかわからんな……ウルラに見張りを頼むか。




 ♢


 


 買い物に出て、一時間くらいたったかな? 魔法屋さん戻ってきた。

 

「バカ子犬。お前とは二度と買い物に行かないからな」


 ほんと、子犬ちゃんのお陰でクタクタだよ。お腹が膨れて、今は私に抱っこさて眠る子犬ちゃん。



 お食べ物屋さんの前でよく足が止まった。欲しい物を食べるまでその場を動かない。


 魔法屋さんは仕方がなく、買ってあげていた。


「ルーチェさん、買った荷物を冷蔵庫に入れてくるね」

「ありがとうございます」


 魔法屋さんの奥に入って行くと、レジカウンターに黒い影が見えた。


「あれっ、兄貴来てたの?」

「先輩?」


 ラエルさんの呼びかけにも反応なし、まさか先輩が腕を組んで、レジカウンターに頭を置き丸まって寝ていた。


 子犬ちゃんを抱えたまま、先輩に近付き、そっとその寝顔を覗く。

 先輩が熟睡してる。懐かしい学園の書庫でもたまに、同じ格好で寝ていた。


「先輩」


「……んっ、ルー?」

「起きました、おはよう先輩」


 まだしっかりと目が覚めていないのか、先輩の眠そうな、赤い瞳が私を見ている。


「ルーは懐かしい髪型してるな」


 先輩の手が伸びて、優しく私のおさげ髪に触れた。その仕草にドキッとした。


「よく学園ではこの髪型でしたものね」  


「ふわふわで、いつも触りたいと思ってた」

「さ、触りたい!」


「キュ?」


 私の驚き上げてしまった声に、子犬ちゃんは驚き。眠そうな先輩の瞳がしっかり開く。そして、自分の手を見て驚いていた。


「すまん、寝ぼけてた。ラエル、子犬、ルー、お帰り」


 いつもとは違う先輩を垣間見てしまい、私の頬は真っ赤に染る。


 それを子犬ちゃんは欠伸をして、その横では魔法屋さんが笑って見ていた。

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