第30話

 休みの日の朝。

 福ちゃんとの朝の挨拶の後、あるもので軽めに朝食を済ませた。

 

 そのあとは部屋の窓を全開にして、掃除を始める。

 空は雲ひとつもなく良好。裏庭で青空の下にお布団を天日干して。次はタライに井戸水を組み、衣類を洗濯石鹸で洗う。


 洗った服を全て干した。それが終わると部屋に戻り、天井からホウキではたき、せっせと床を拭く。


 早く掃除を終わらせて、買い物に行かないと。


「先輩と魔法屋さん、子犬ちゃんに。オムライス美味しいって言ってもらうんだ。それと、みんなでご飯が食べたい」


 昨日、先輩と食べた夕飯は美味しかった。

 子犬ちゃんは魔法屋さんが気に入ったのか、昨日は帰ってこなかったし、先輩に今日も会えるのは楽しみだ。


 残りの掃除を頑張っちゃおう。

 


 ♢


 

 時は同じ頃。先輩こと、シエルは大きなため息をついていた。


「奴め、俺の有休はないのか? いつも借り出されて、魔法研究もまともに出来ていない。今日の午後の休みを取るにしても愚痴口と文句を言いやがって! なにが、自分行くのが嫌だからと、あの女の様子を見てこいだと、自分の騎士か従者に頼めよ」


 そいつは側室の入る離れにいたのではないのか? いつのまに地下牢に移ったんだ?


『あやつの言うことはわからん。ゲームだとか、俺を運命の王子だとか、騎士と側近が攻略対象だとか、私のことを好きでしょう……などと言う、気味が悪いからシエル見てこい』


 お前が選んだ相手のくせに、何という言い草だ。ルーは、こんな奴のために頑張っていたのか。



『オムライス作るね』


 今日はワンピースにエプロン姿で作るのか、いいなぁ。隣で俺も手伝うか、一応料理はできるからな。


 さっさと終わらせて、魔法屋に行こう。


 城の奥に行き、地下牢に向かうために、石造りの螺旋階段を降りた。


 牢屋の近くに見張りの騎士はいるが、誰もこないと朝から酒を飲み寝ている。誰も好き好んで、こんなところの、見張りはしたくないだろうな。


 薄暗く、じめじめしてカビ臭い。しかし、よくこんな所に、一度は好意をよせた女性を入れたものだ。


 



 俺が近づくとガシャンと、牢屋の鉄格子が鳴った。


「カロール様? 私をここから出す気になったの?」


 元男爵令嬢イーリン・ローレンスか、見るも無残な姿だな。卒業式のあの日から着替えもしていない。


 ざまぁ、だと言いたいが。女性のこんな姿は誰でも見たくないものだな。


「誰? あ、あぁ、隠しキャラのラエル? ちょっと違う? 学園でラエルとはフラグ立てれなかった……」


 こいつは会ったこともない、俺の弟の名前を言った。どういうことだ? それよりもこいつに、弟の名前を呼ばれたことが腹ただしい。


 イラッとした。一応、俺達はこいつの年上だ。


「俺はラエルではない。なぜ? 弟の名を知っている?」


「弟? だとすれば、あんたはシエルなの? どうしてここにいるの? あんたは魔女に操れているはずなのに? 私がラエルと手を組まないと、あなたと国が助からないはずなのに? じゃー王子のベルーガは何処にいるの?」



 こいつが、決して知るはずないことををベラベラ話しだす。だが、俺達の名前はあっていた。俺がというより。俺達が兄弟で魔女の所にいたというか、捕まっていたのだが。


「では、ベルーガの事を知っているのか?」


「簡単よ。茶髪で琥珀色の瞳の第一王子、ベルーガ・ストレーガよね」


 なに! ベルーガのフルネームまで知っているのか……変な感じだ。予知夢? 先読みの力? 神通力か。


 いや、こいつが神通力を持っていたら、この状態を予言して、逃げることもできたはずだ。


「ゲームを何周もしたから簡単ね。でも、おかしいのよ。全然ゲームの通りにならないし、ヒロインは私なのに、悪役令嬢ルーチェが入るはずの牢屋に私が入るなんて!」


 ルーがこいつの代わりに牢屋に入るだって? そんなわけがあるわけない。


 ガシャンと奴が音を出して、俺に向かって手を伸ばした。離れた位置にいた俺には届かず、空をかいた。


「この際、シエルでもいいわ。私をここから出しなさいよ、可愛い私が出たがってるわよ、あなたの胸の傷だって、私の力で治してあげる」


「胸の傷だと……」


 俺は黒いローブを広げて、目線を落とした。そうだ、ここに傷はあったんだ……魔法で焼いた、あの傷が綺麗に消えてしまったんだ。



「あるでしょう? 私が直してあげる」


「結構だ、俺には傷はない」


「なんでよ! ここで会って、私がいつのまにか直したの? ほら、私の力って凄いでしょう、出して、出してよ」


「わかった、牢屋から出たがっていたと殿下には伝える。しかし、傷は、あなたと会う前からない。あなたが消したわけではないので、勘違いですよ」


 昼前になったし、もう良いだろうと牢屋から離れた。後ろでは違う私が消したの、私の力だとわめていた。


 俺たちのことで、気になることは言っていたが、二度と会いたくないな。


 さてと、ルーのオムライスを食べに魔法屋に向かうかな。


 俺の足はここにくる前よりも軽い。

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