第27話

 部屋の中で、ローブを羽織った先輩が騒ぐ。


「無理だ、無理だって!」

「下は先輩のを履けばいいの。タンスの二番目を開けて、せめて、上とキャミソールを着てよ。そのままシャツは着ないで!」


 先輩は下をさっと履き逃げた、その後ろを私はお願いと追っかけた。


 捕まえたのは子犬ちゃんと魔法屋さん。


「キュン、キュン」

「そうだよ。兄貴、着てあげなよ。ルーチェさんが恥ずかしいだけだよ」


「くっ、二人して人ごとだと思って! あーくそっ! わかった着ればいいんだろ!」


 先輩はタンスの二段目を開けて、中身を知り目を瞑って。そっと閉めた。

 側にいた、私を捕まえて肩に乗せた。


「どれをつけるんだ?」

「左側のレースのチューブトップと、その隣の白のキャミソール」


 チューブトップは伸びる素材だから、下からでも大丈夫なものを選んだ。全部の着替えを終えた先輩は疲れ切っていた。


「先輩、話し方も気を付けてね」

「わかってる」


「兄貴、店を開ける時間だから戻るね。そうだ、ルーチェさんと兄貴に念話で話せる。兄貴には髪飾りで、ルーチェさんには髪飾りの石を置いていくよ」


 この両手に持った青く輝く石で、先輩と念話ができる⁉︎ 念話って声を出さなくても、相手と話せるって先輩に聞いたことがあるわ。


「じゃ、仕事が終わったら教えてね」

「キュン」


 魔法屋さんは子犬ちゃんを連れて、店に戻って行った。扉が閉まり二人だけが残る部屋……。貰った、この石を持ちながら心の中で話せばいいの?


〈先輩、先輩聞こえる?〉


 早速話しかけてみた。


〈聞こえてるよ、俺も行ってくるな。何かあったら話しかけるから、ルーは寝るなよ〉


〈寝ないよ。ずーっと先輩に話けちゃおっかな〉


 少し意地悪くいうと、先輩は私をベッドの上に乗せてくれて。


「そうしてくれると私は嬉しいわ。仕事にいってくるね」


 うひゃ、私だ、そっくりだった。


「先輩、ありがとう」


 大船に乗ったつもりであとはまかせておけ、と頭を撫でて部屋を出ていった。



 先輩はなんなく仕込みを終わらせて、みんなと朝食を食べているようだ。


〈ずるい、朝食がハンバーガーだなんて〉


〈これは、かなり美味い。ルーにはくるみパンとチョコパン置いてったろ〉


〈そうだけど……羨ましい〉


 バンスに肉厚のハンバーグと、自家製のピクルス、レタス、トマト、きゅうり。味付けのケチャップが美味しいの。とベッドの上で暴れていた。


 先輩のため息が聞こえた。どうしたんだろう? 


〈ふうっ……さっきからこいつ。ルーにいつもこんな感じなのか? 頬についてるとか、髪飾りが可愛いとか言って、髪に触ってきやがった〉


 ん? 頬? 髪? 今のは先輩の独り言? 


〈先輩、ニックに何かされたの?〉


〈あぁ? ……あ、そうか。大丈夫だよ〉


 店が開店すると言って、先輩との念話は終わった。

 今日のメニューは、おろしハンバーグと、パンとスープ。自分でハンバーガーが作れるセットだろう。


 これまた人気なんだよね。まあ、食堂のご飯はどれも美味しい。


〈おい、ルー。店って毎日、こんなに大変なのか?〉


 お昼時になり、お客さんが増えたのだろう。


〈そうだよ、すごいお客さんでしょう〉


〈あぁ、すごい客だ。メニューが一品だから助かってる〉


 わかる。前までは日替わりと他のメニューもあったのだけど、日替わりの出る量に他の料理が間に合わなくなるからと、大将さんが一品にしたんだ。


〈お冷お冷〉〈どの客だった?〉〈疲れた!〉 たまに聞こえてくる、先輩の独り言を楽しみ、お昼の一時過ぎ。


〈ルー、日替わりが無くなったって、終わったのか?〉


〈うん、終わり。あとは後片付けをして今日は終わりだよ〉


 そうか……と、話す先輩の声が遠くに聞こえた、仕事が終わりを迎えて気が抜けた。



 先輩の念話には私の寝息が聞こえていた。ルーも疲れたのだなっと、先輩は起こすことをしなかった。



「ルー、終わったぞ」


 先輩の声だ、帰ってきたんだ……ふわぁ、どうやら寝ちゃったみたいだ。先輩にお帰りなさいを言わないと。


 ベッドの上でもぞもぞ動いた。その直後、ガチャンとお皿が重なる音がした。


「うわぁ⁉︎ ルー! 起き上がるな。そのまま寝ていろ」

「どうしたの大声だして、先輩?」


 起き上がりるとベッドの近くには、慌てた様子の先輩の背中が見えた。


「いや、あ、ルーは落ち着いて自分を見ろ、落ち着くんだぞ」


 変な先輩だなぁと自分を見た……あれ、ペタペタ、ハムスターじゃない肌、裸だ? 


「……私、元に戻ってる?」


「ルー。先に謝る、すまん」


 謝ったということは先輩に裸を見られた⁉︎ 声にならない悲鳴をあげて、慌ててベッドに潜ったのだった。

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