第28話

「先輩、何でもいいから下着を掴んで投げて!」


 はぁ? と言ったけどタンスから何枚かをごそっと掴み、枕元に置いてくれた。

 ゴソゴソと着替える、その中に見覚えのない白いシャツも置いてある。


 着てみると袖が長く、丈も長いし、薬品の香りもした。


「これって、先輩のシャツ?」

「そうだ、俺ので悪いがそれを着て、あとは自分で着替えてくれっ……」


「うん、わかった」


 ワンピースに着替えたわたしと、わたしの姿のままの先輩。なんだか変な感じだ。

 

「魔法の効果が切れたのか、ルーが元の姿に戻ってよかった……そうだ、体の辛いところや、変なところはないか?」


「ないですね、あると言ったらお腹が空いたくらいかな」


 と、先輩の前でお腹をさすった。


「はははっ、お前らしいな。そうだ食材の残りを、店の人にもらったから焼いてきた」


 先輩が持ち上げたトレーの上には、美味しそうな狐色のハンバーグが二つと、パンが乗っていた。

 

「うわぁ美味しそう、先輩も食べよう」

「いいのか? ルーなら、それ全部食べれるだろう?」


 そりゃ食べれるけど、一人より二人で食べた方が美味しいに決まってる。


 先輩と並んで座って、ハンバーグをパンに挟み、ハンバーガーにして頬張った。

 

「美味しい。ハンバーグ肉厚で、最高!」

「あぁ、美味いな……飲み物は紅茶でいいか?」


「はい」


 さっきもだけど、先輩がポンと手を叩き、わたしの姿のまま魔法を使った。

 それはまるで、わたしが魔法を使ったみたいに見えた。


「ルー?」

「あれっ、あれれ……」


 いつのまにか涙が流れていた。使いたくても、魔力のないわたしでは使えない憧れの魔法。

 使ったのはわたしじゃないけど、もしも、わたしが使ったら、こんな感じに見えるんだ。


 キラキラして素敵すぎるよ。ポタポタと頬を流れる、涙が止まらない。


「ごめん、ルー。俺が軽率だった」


 違う、違うよ。これは嬉し涙なんだ。わたしは首を横に振った。


「ううん、ありがとう先輩。わたしがもし魔法が使えたらこんな感じなんだって。実際だと絶対に見れなかった、それを見せてくれてありがとう」

 


 興奮して、手を広げて先輩に抱きついた。それを受け止めて、ピクッと体を揺らした先輩に、さらにギュッと力一杯に抱きついた。



「ルー、他の魔法も見るか? なにが見たい?」


「えーたくさんあって困る……あ、ライト、ライトの魔法が見たいです。先輩!」


 わかったと、薄暗くなった部屋に丸い魔法の灯が灯る。前に貰った、杖で出した一つのライトの光じゃなく。


 今はライトの光が部屋中を埋めた。



「綺麗、綺麗、先輩すごい!」


「ああ、綺麗だな……お前が」


「えっ、先輩、何か言った?」

「いいや、喜んでもらえて嬉しいよ、次はなにがいい?」


 次はね……。



 ♢


「ルー、勘弁してくれ」

「えっ?」


 先輩が時計をみろと指さす。気付けはかなり遅い時間になっていた。

 先輩は魔法を解くために、急いで魔法屋さんを部屋に呼び、魔法を解いていつもの黒いローブ姿の先輩に戻った。


「ルー俺達は帰るよ、おやすみ」

「ルーチェさん、おやすみなさい。子犬は寝ちゃったから預かるね」



「おやすみなさい、先輩、魔法屋さん」


 

 魔法の扉が閉まり、一気に静かになる部屋。先輩と二人で楽しかった。


 

 ルーがベッドで眠った頃、シエルも楽しかったと部屋に帰ったが、自分の部屋の中を見て頭を抱えて、頬を赤らめた。


 それはソファーの近く、ルーの忘れ物が落ちていたからだった。

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