第24話
「シエル、明日は休みにする」
カロール殿下は城に着くと一言それだけ言い、労いの言葉もなく、護衛や従者を連れて自室へと帰っていった。
その後ろ姿を城の馬車着き場で見送り、ふうっと息を吐き。先輩は肩になる私に話しかけた。
「明日は休みか……ルー、書庫によってから魔法屋に行こう」
「うん」
夕方過ぎの時間だからか書庫の中は、夜に来る人ようにと、入り口には火のついたランタンが掛けてあった。
先輩はランタンを使うことなく【ライト】の魔法で灯りをだして書庫に入っていく。
書庫の中は、高い位置にしか窓がなく薄暗った。
懐かしいわ。私もよく書庫に来ていた、本を読むときもあったけど。
もっぱら、映画のワンシーンに出てきそうな世界。書庫の独特の雰囲気を楽しむために来ていた。
しかし、今日はいつもよりも迫力を感じた。それは小さなハムスターの姿だからなのか、雰囲気の違う書庫にドキドキしていた。
先輩は迷うことなく奥の本棚に行き、目的の本を手に取りめくる。
なんの本なのか気になり、肩から覗くと、それに気づいた先輩が小さく笑った。
「そんなに真剣に覗いても、ルーには難しいだろう? この本が読めるか?」
「ううん、読めないわ。見たことのない文字だもの」
「そうだろうな」
先輩はもうひと笑いして、読んでいた本と近くの本を手に取ると書庫の出口近く、誰もいない受付の貸し出し帳に本と名前を書き、書庫を後にした。
ろうそくの炎が揺らめく廊下を進み、先輩の自室に戻る。先輩は書庫から借りた本を持ったまま、袖口をあさり鍵を取り出した。
その鍵を部屋の壁に近づけて、現れた魔法屋さんに続く扉をガチャリと開けた。
「兄貴、お帰り」
「あぁ、ただいま」
私達が来たのが分かったのか、出た先の倉庫にはローブのフードを取り、目隠しをしていない、黒髪に青い瞳の先輩に似た男の人がいた。
先輩の双子の弟さんだ。
先輩は切れ長の瞳だけど魔法屋さんは優しい瞳。
そして根本的に違うところを発見した。
「先輩、先輩。双子だって聞いていたけど、瞳の色がちがうんだね」
ひょこっと先輩の肩から顔を覗かせた。
そんな私を見て魔法屋さんは、先輩から話を聞いていたはずだけど、瞳を大きくした。
「これは珍しい。兄貴が通り扉の魔法を失敗したのも初めてのことだ。朝、子犬だけ扉から出てきてびっくりしたよ」
まるで面白いものを見るかのように、魔法屋さんの青い瞳が私を眺めた。
「おい、ラエル。珍しいからってあまり見るなよ」
「ごめん、ごめん。ルーチェさんにかかった変化の魔法は完全じゃないね。少し魔法陣が所々擦り切れてる」
変化の魔法? 魔法陣が擦り切れてる?
「ああそうだろ。それな、俺が描いたやつなんだ、少し読めないところがあって、完全じゃない」
「だったら、一日か二日で魔法がきれて元に戻るかな? ……よかった」
「ほんと、よかったよ」
楽しそうに二人は兄弟の会話をしている。仲の良い兄弟なんだ。
「そうだ、ルーチェさんお弁当ありがとう。美味しかった」
洗い終わったお弁当箱がレジカウンターに乗っていた。その隣ではカゴの中で子犬ちゃんが、丸まって寝ていた。
「子犬はお昼のお弁当の時もそうだったけど、夕飯も食べ過ぎて寝てるよ」
子犬ちゃん食べ過ぎって……。そうだと、魔法屋さんが奥から紙袋を持って来る。
「はい兄貴、夕飯まだだよね。子犬は僕が預かるから、それを持ってルーチェさんの部屋に帰りなよ」
私の部屋に帰る⁉︎ と同じく驚いたのは先輩。
「はぁ? どうして俺が? ルーの部屋に?」
「あれ、わかんない? 魔法を失敗した兄貴のせい。それに、兄貴のことだから部屋の中に魔法陣を描いた紙を散乱させたんじゃないの? だから、ルーチェさんが触れちゃったんだよね」
うっ、と声を上げて魔法屋さんに反論できない、だって図星だものね先輩。
「兄貴だって、不完全な魔法は危険なのも分かってるよね、ルーチェさんに何かあっては遅いんだよ。元に戻るまでちゃんと見てあげないと。何かあったらすぐに連絡してすぐに駆けつけるから」
と、魔法屋さんに夕飯と空のお弁当箱を渡されて、追い出されたのだった。
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