第22話 シエルの夢

 次に目を覚ますと牢屋の中にいた。近くに弟、他にも俺達を含めて十人いるようだ。


(ここは、城の地下の牢屋か?)


 鉄格子の窓から入るわずかばかりの光。

 日はまだ高い、となると。俺達が王都の広場から連れさらわれて、余り時間が経っていないようだ。

 

 両親は大丈夫なのか? そして、これから俺達はどうなる?


〈シエル兄さん〉

〈ラエル〉


 隣で気絶していたラエルが目を覚ます。次々と他の子も目を覚まし始めた。みんなはこの状況が分かると怯えて泣きだした。

 それを見て、恐怖、心細くなり泣きたくなったのを、唇を噛んで我慢した。


〈僕、怖いよ〉

〈大丈夫だ、俺が付いてる〉


〈兄さんだって震えてるよ、怖いんでしょ〉

〈あぁ、怖い〉


 牢屋に入れられてしばらく経ち、コツコツとヒールの音。鎧の金属が擦れる音。

 複数の足音が聞こえてきた。



(誰かが、ここに来る)



 そうして現れたのはランタンを持った騎士と王妃だ。王妃はさっきの黒いローブドレスと、頭からはすっぽり、真っ黒い薄手のベールで顔を隠すように被っていた。


「この子達が一番魔力を持っているのね」

「はっ、そのようです。王妃様」


 王妃は鉄格子に近付き、俺達を吟味するかのように見回した。

 その目線が俺達二人の前で止まる。俺たちを舐めるように見立てた後、隣の俺達よりも年下の男の子を指した。


「この子と、そうねあなたも来なさい」


 王妃は俺もと言った。


〈兄さん!〉

〈大丈夫だ。ラエルはもっと奥の方で顔を隠して身を潜めろ〉


 騎士に手を掴まれて連れて行かれる俺、同じように付いてこようとしたラエルに向かって念話した。


 その時、王妃は俺の顔を見て口元がこうを描く。


「へぇ、貴方たちは兄弟なのね。それも双子。魔力量もかなり持っているのね」


 しまった王妃の魔力は俺たちより上で、俺達の念話が聞こえたようだ。


「二人いっぺんもいいのだけど、一人ずつ大切にいただきましょう」


 来なさいと、王妃は俺の手を掴んだ。うげっ、気持ち悪い。



 王妃が言っていた『食べる』とは魔力のことだった。少ない者は剣や魔術の訓練をさせ、戦争の道具としての駒にするようだ。


 その戦争を止める唯一の国王は話すことなく動くことなく、虚な目をして王の間に座っていると、見回りに来た騎士が言っていた。



 嘆く様に呟かれた、だれも王妃には逆らえない。

 しかし、王妃は魔力を使用続けると老婆の姿になる、そうなれば若い魔力を吸い若返る。


 俺も呼ばれて幾度なく王妃に魔力を吸われた。一度吸われると気を失い、次の日は一日中ベッドで過ごすこのになる。


 となると、その日は呼ばれることなく自由に動けるのでは? 

 そう考えた俺は、父に貰った魔力を徐々に回復してくれるクロックの実を口に含み、魔力がなくなる寸前にこっそりかじった。


 徐々に魔力が回復していき動けるまでになる。

 あとは姿消しの魔法をかけ、部屋を出て書庫に籠る。新たな魔法を覚えるために、実がなくなるまでこの方法を取り、時間ある限り必死に本を読んだ。


 ここから逃げるのは簡単。だがその後だ。

 みんなは逃げ出さないように、王妃の所有物の証として、予めクロユリの焼印を胸に押されている。


 俺の胸にもクロユリの焼印がある。花言葉は【呪い】それを消すためには、魔法で焼き切るしかないと試して見だが、今の俺ではまだ無理のようだ。



「今年の納税です」


 残された大人達はと言うと、服従の魔法をかけられ王妃の為にと働き、多額の税金を納めさせられていた。



 ♢



 城の中で過ごして、そろそろ一年が経つ。


 王妃は国王陛下を操り、隣国と戦争を始めた。王妃にはどうしても手に入れたい、極上の魔力があるらしい。


 それさえ手に入れれば、このヘクセ大陸を我がモノにできると、王妃は言う。



〈おい、ラエル〉

〈なんだい、兄さん〉


 さすが俺達だ! 一年の間に王妃に聞こえないように、念話も出来るようになった。

 俺は書庫でラエルは牢屋で話しながら、お互いの属性の魔法を覚えた。



「皆のもの覚悟はいい、私のために存分に働きなさい」


「おぉ!」

「王妃様のために!」


 ついに王妃は動き、近くの国との戦争が始まる。王妃が城を開ける日が続く。

 逃げるならそのときだと計画を練っていた。


 俺は炎の魔法を使い、胸の焼印を焼いて軽い処置をした。


(これでしばらくは、王妃から俺の居場所が分からなくなるはず)


 思った通り、王妃は俺の魔力をあてにして、戦場に連れて来た。

 俺はその王妃の隙をつき側を離れて、転送の魔法を発動した。


 俺は出口。


 その同じ時刻。ラエルも牢屋で残ったみんなに「必ず迎えに来る」と残して転送の魔法を発動。


 ラエルは入り口だ。


〈行くよ、兄さん〉

〈来い、弟よ。逃げるぞ!〉


 互いの手を繋ぎ走った。王妃は逃げた俺たちに気付き黒い蛇を放つ。


〈兄さん!〉

〈泣くな、ラエル歯を食いしばれ〉


 俺達は迫る恐怖心に打ち勝ち、振り返らず森や道を走った。



〈おーい、そこの少年達!〉



(⁉︎)



〈おーい、聞こえているかな? そこの君達こっちだよ〉



 呑気な声で俺達に念話を飛ばす人が現れた。


〈誰だ? 俺達を捕まえるきか?〉

〈大丈夫、そんなことはしないよ。安心して左の森の中に飛び込んでおいで〉


 俺達は分かったと、その声を信じて飛び込んだ。目の前に旗をなびかせた大軍がいた。


 俺とラエルはというと、その真ん中に立つ、金色の髪に碧眼の男に抱き抱えられていた。


 男は微笑み、俺達の頭を撫で回す。


「よく逃げて来た。君が兄のシエル君で弟のラエル君だね。あとは任せろ!」


 男はすぐに救護班を呼び俺たちを預けた。その中に両親がいた。


 見た途端に俺は泣いた、弟も泣いた。


 両親の腕の中で、ようやく助かったと思った途端に、胸の痛みに俺は意識を失った。




 目を覚ました頃には全て終わっていた。王妃は幽閉されて、国王は王の座を退いていた。そして、助けてくれたあの人は大国ストレーガの現国王陛下だった。


 自ら兵を引き隣国を助けに来ていた。 



 国王は言う。 


「いやぁー、君達の念話は実に役に立ったよ」


 城へ密偵を送ったところに俺達の念話が聞こえたらしい……やはり、上には上がいた。

 両親もだ、特に母にはあの王妃の服従の魔法が掛からなかったらしい。


 隣でかかってしまった父を殴って目を覚まさせて、王妃の追手から逃げながら隣国に入り、ストレーガ国まで逃げ延びた。


 母は元々ストレーガ国の公爵の娘。父との結婚を反対されて出て行く! と父を連れて駆け落ちしてしまった。

 公爵様は娘が帰って来たと喜び、父を許し俺達も迎え入れてくれた。



 俺の怪我が落ち着いて来たある日。



「兄さん、やっぱり僕、怖いよ」

「ラエル。俺達を助けてくれた国王陛下だ、俺は怖くないぞ」


 と呼び出された城で、国王陛下に息子のベルーガの付き人兼、友達になってくれと頼まれたのだった。




 ガタゴトの揺れる馬車。

 首筋にチクリと痛みが走る。どうやら寝ていたらしく驚き顔を上げた。

 その勢いで俺の膝の上に転げ落ちたルーと、冷ややかな目をした殿下……。


「ようやく起きたか……珍しくよく寝ていたな、シエル」


(うげっ……そうだった)


「すみません」

「呼んでも起きぬほど、昨日はあの女と楽しんだと見える。その分、今からしっかり働けよ」


 

 あの女? あ、今朝のことか……。



「それと、そいつはなんだ?」


 殿下は膝の上に転がるルーを指差した。俺は両手でルーを救い上げて元の位置に戻すと、ルーも驚いていたらしく、すぐに首筋に隠れた。


「これは俺の使い魔です」

「使い魔か……使えるのか?」


「えぇ、優秀な使い魔です」


 そうかと、殿下は興味が無いのか外の景色に目を移した。


 それを見て、ホッと二人で胸を撫で下ろした。

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