第21話 シエルの夢
心配しているだろうと、ラエルにルーを連れて行くと連絡した。
わかったと、何かあったら直ぐにガットを向かわせると言ってくれた。
頼もしいな。まあ、俺もウルラに着いて来てもらっている。
東の街までの移動に一時間半か……揺れる馬車の中で目を瞑り考える。
昨日は殿下に連れ回されたあと、遅くまでベルーガにかかる魔法を調べていた。
窓から入る空が明るくなり、少し仮眠をとろうと、眠り始めたときに部屋にルーが現れた。
夢か現か、はたまた幻か……わからず、自分の欲望のままに従った。
それが本物だと、気づいたときにはかなり驚いた。
「スースー、むにゃ、むにゃ」
今は馬車に揺られて、いつの間にかフードから出て、俺の首筋でだらしなく、よだれを垂らして眠るルー。
可愛いな。
ベルーガの体に残された魔法陣の写描きに触れて、その魔法陣がルーの魔力に反応したのか? そればかりは調べないと俺にもわからない。
だがあの魔法陣……所々わからないところもあるが、描いていくうちに奥に眠る記憶が蘇った。
あの魔法陣には見覚えがあると。
戦争の原因を作った、忌々しい女が使っていたものだ。
♢
俺が生まれはヘクセ大陸にある、周囲を森や山に囲まれた小さな、小さな魔法の国、ブルッホ。
生まれるものはみな、量にもよるが魔力を持って生まれる国。
優しき心を持つ国王と王妃がいる幸せの国だった。
その国の小さな村で生まれた俺とラエル。周りからは呪われた黒髪の双子だとか、異端児兄弟と呼ばれていた。
村の人々からは煙たがられていたが、魔法学者の父と母とで、村はずれの一軒家に住んでいた。
もちろん学校には通えず、父が先生となり魔法の使い方や、魔力調整などを教えてくれた。
俺達が五歳になる頃には念話を使い、二人で話すようになっていた。
俺達は学校に行けずとも幸せだった。
二人で魔法を勉強して父の書庫に籠る、食事は毎食みんなで食べて、どんな些細なことでも話す、そんな毎日を送っていた。
そんな何の変哲もない、幸せな日々が変わる。
俺達が七歳のときに王妃が亡くなった。国中が喪に服し、国王は嘆き悲しんでいたはずだった。
しかし、一ヶ月足らずで次の王妃が決まったのだ。嘆き、悲しんでいた国王はなぜ? ……国民は戸惑い、驚いていた。
だが、しだいに心優しき国王陛下がお選びになったのだからと、新しき王妃を歓迎した。
季節は初夏、王妃の誕生を祝う日。
王都では盛大な祭りが行われて、大勢の国民が集まり新しい王妃を祝った。
俺達も目立たないように、魔法で髪色を変えて両親と王都に来ていた。
王妃お披露目。国民が見渡せるバルコニーに国王陛下と王妃が現れた。
国民は歓声を上げ新しい王妃に喜んだ。
俺達もと両親と共にバルコニーが見える、ところまで進もうとして足が止まる。
〈なんだあれ? 人か?〉
〈わかんないけど、気味が悪いね〉
その日、バルコニーに現れたのは虚な目をした国王陛下と、真っ赤な紅を唇に引き、真っ黒なローブドレスを身に纏った王妃の姿。
その王妃の周りには黒い霧状の元が見える、それは弟にも見えたらしく異様な光景だ。
その王妃は口を開く。
「愚民ども、魔力を持つ子供を私の元に寄越しなさい、美味しく食べてあげる」
その言葉に国民は危機を感知し、子供を連れて逃げようとしたが、王妃が手を上げた途端、空には大きな魔法陣が浮かぶ。
吸い込まれるように、空に子供達が浮かんでいく、両親は俺達を守ろうと抱きしめたが……その両親の周りに黒い霧が立ち込め始めた。
「クッ!」
苦しみの声を上げて、バタリと横の家族が倒れる。次々と大人達が倒れていく、無防備になった子供達は何も出来ず空に浮く。
〈ラエル、やばいぞ!〉
〈兄さん……!〉
「シエル、ラエル……逃げ……な……」
両親の腕の力が抜けてバタリと倒れた。俺達は離れないように手を繋ぎ、俺は怯える弟を守るように抱きしめた。
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