第20話

 先輩が新しいローブを身に付ける。

 今日はカロール殿下と東の街に私を探しに行くと言っていた。


「集合の時間だ。ルー行くぞ」

「え、私も付いて行ってもいいの?」


「なんだ、来ないのか? ここに一人じゃ寂しいだろ?」


 と、机の上にいた私に手を伸ばした。先輩は危ないって言って、私を部屋に置いていくと思っていた。


「行かないのか?」


「行く! 東の街に行くのは初めてだわ」

「じゃ、俺のフードの中で隠れてろよ。あいつがこの姿のルーを気にいると面倒だからな」


 私を手の上に乗せて肩の上に置いた。そこから先輩のフードの中に入る。

 行くかと部屋を出て、先輩は王城の馬車置き場に向かった。


 馬車置き場に付くと唖然たした。カロール殿下の愛用の馬車の他に、騎士が数人乗る、荷車が二台も用意されていた。


「先輩、この大人数で行くの?」

「ああ、いつものことだ」

 

 いつものこと⁉︎ 私を探すために先輩だけではなく、騎士まで使うなんて……


 殿下はこんなことをせず、他にやることがあるのではないですか? 


 次の国王となる方が何をなさっているの! と言いたい。


 

「シエル時間までに来たな、早く乗れ」



 先輩が近づいたことが分かったのか、既に馬車に乗っていた殿下は窓を開けて、先輩を急かす。

 はぁと、ため息を吐き、カロール殿下と同じ馬車に乗り、反対側に腰を下ろした。



 前にはカロール殿下が座っていた。久しぶりに見る、彼は少し痩せているように見えた。


 

 しかし、心は動かない。何にも感じない。


 あの時……婚約破棄の日に、全ての想いを置いて来た。


 初めてお会いした、婚約者候補の時の彼。


 選ばれて、婚約者となった時の彼。


 学園に入って、離れて行った彼。



 彼の瞳をみて「カロール殿下、お慕いしておりました」と、最後の言葉に全て込めたの。



 私はもう二度とあなたを好きにはならないと、言い切れる。


 だって、新しい気持ちが芽生えてるの。



(先輩……)



 フードの中から黒髪の先輩を見つめた。

 疲れているのか、目を瞑り眠っているようだった。


 その姿を近くで眺めたくて首元に移動した。



(先輩、気持ちよさそうに眠ってる)


 その姿をしばらく眺めた。


 馬車の揺れと先輩の規則正しい寝息に、ふわぁっと、欠伸をしてそのまま目を瞑った。


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