第12話 魔法屋での男達の話 (シエル視点)

「ベルーガ、国の状態は今どうなってる?」


「国か……俺を除いてみんな石にされた」


「石化の魔法か?」

「それはいつの話?」


「二ヶ月前、俺の誕生会に開かれた舞踏会のときにだ……舞踏会の終盤に差し掛かった頃。いきなり黒い煙が会場に立ち上がった。広間のみんなは宴に酔っていてその隙を突かれた。立ち上がった煙を吸った者達は、次々と石に変わっていったんだ……その後に、笑いながらナタリー嬢が広間に入ってきたよ」


 魔力と素質を十分に持つナタリー様。そのナタリー様に魔法を教える者が現れたのか。

 いくら俺達が魔法を教えようとしても、まったく話を聞かなかった癖に……な。

 よほど、ベルーガとの婚約取り消しが効いたのか……


 まぁ俺からしてみれば、ナタリー様の自業自得だよ。


 ベルガーの話を最後まで、聞いていれば今頃、幸せに笑っていたのにな。

 やらかした分の、落とし前はしっかりとらせる。逃さないぞ。


「それで、なぜ? ベルガーは石にならなかったんだ?」


 国王陛下と王妃、側近、騎士、メイド達。舞踏会に来ていた貴族達は皆、石化の魔法で石に変えられたのだろう? 



 もしかすると……王都の中の人々も石化しているかもな。



「それはな、シエル……俺の力を封じて側に置くため。あとは可愛い子犬の姿がいいと、ナタリー嬢は言っていたよ。まぁ、隙をついて逃げたんだけど」


「でもさ、国からこの国まで来るのに、船でモール海を渡らないといけないのに、よく子犬の姿で船に乗れたね」


ラエルの言葉にベルーガはレジカウンターの上を走った。


「こうやって走って、走って。王都から離れた港町の貨物船に紛れ込んだ。船内で見つかってもこの姿が役立ち、船長と船員達に可愛がられて、食事には困らなかったんだ。船を降りても、この国で可愛い子にも会えた」


 可愛い子? 

 

「親切で優しく、可愛いガリタ食堂のルーチェちゃん」


 ルーチェちゃんだと⁉︎


「おい、ベルーガ! 俺に喧嘩を売ってんのか?」

「そんな、恐ろしいこと言うなよ。あの子寝顔も可愛んだ」


「あぁ、ルーは可愛いよ。お前が言ったこと全部、俺も知ってるぞ……ベルーガ?」


「ちょっとベルーガ、兄貴を茶化さないで。兄貴も落ち着いて、濃度の濃い魔力が溢れてるよ。この店がなくなるとルーチェさんが悲しむよ」



 それもそうだな……子犬ならいつでもヤレる。


 

 喉が渇いたとラエルが言い。今度は紅茶にするかと俺は奥に入る。

 お湯が沸くまでのあいだ、俺はベルーガに聞こえないように、ラエルに念話で話しかけた。



〈ラエル、ちょっといい?〉

〈なに、兄貴?〉


〈ベルーガにかけられた、ナタリーの魔法のことなんだが。お前はベルーガの体に刻まれてる、魔法陣を見たことあるか?〉



 ベルーガの体には薄らと魔法の残りが見えた。



〈あの黒い魔法陣ね。多分……初めてかな、あとで兄貴に聞こうと思ってた〉


〈そうか、ラエルも知らないか〉



 魔法には自身の姿を変える、変身魔法はある。

 でも、人を動物に変える変化魔法は難しいとされる……思いあたるのは呪い、魔女、秘薬、魔族、黒魔法くらいか?

 

 嫌な昔を思い出す。やっかいだ、できれば関わりたくない。



〈兄貴……それにアレ、やな予感しない?〉

〈アレな、どう見てもアレだよな〉

 

 

 今はルーのこともある、かなり首を突っ込んでいる以上解決したい。



「おい、お前ら。俺に聞こえないように内緒話をしてるな? 言いたいことがあるなら、ちゃんと言え!」

 


 わかったと、紅茶をいれて戻りベルーガに気持ちを伝えた。


「すまない、ベルーガ。俺はいまは無理だ。ルーをあいつから逃したい。待ってくれるなら、一ヶ月……二ヶ月以内に終わらす」


「シエル……お前のそんな表情を初めて見た」


「国王陛下や王妃、ベルーガ達には大変お世話になってる。でも、僕は兄貴の手伝いをしたい」


「ラエルまで……」



「それとな、お前。ナタリーの呪いにかかってる」 

「えっ、ナタリーの呪い? 嘘だろ?」



「嘘じゃないよベルーガ。この国まで来るのに十五日以上かかってない?」


「うーん、かかったかなぁ?」


「七十九。お前の額にドクロマークが浮かび、そこに七十九と赤い文字で、浮かんでるんだ」



「額にドクロ? 七十九? まじ? ……ナタリー嬢は、そんなに俺の事が嫌いなのかぁ」



 ベルーガは驚きの余り、白目を剥いてパタリと倒れた。

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