第13話 魔法屋での男達の話 (シエル視点)

「あ、ベルーガ?」

「しまった、脅かしすぎたか……」


 しかし、ベルーガに言ったことは、あながち嘘ではない。


 額に浮かぶ数字と体に残る魔法陣。王城の書庫で調べるために、魔法陣を書き写しておくかとペンを握る。

 ラエルはレジカウンターを離れて奥に行き、タオルの入ったカゴを持ってきた。


「兄貴、ベルーガをここに寝かせるね」

「ああ、寝かせてやってくれ」


 そのとき外からコトっと、小さな物音が聞こえた。はぁ……まだ居たのかと、ため息がもれる。ヤツの側近の騎士と国の魔法使い。


 ここに居ても情報は聞かさないぞ。防音壁を二重掛けしたし、俺はそんなヘマはしない。



〈ねえ兄貴。あの人達まだ帰らないんだね〉

〈そうだな。何か掴むまで戻るなとでも、あいつに言われているんだろう〉



「うわぁ、兄貴大変だね」


 殿下から解放されて城の部屋に戻っても、毎日騎士と魔法使いに見張られている。

 やつらは一晩中俺の部屋の前に立つ、ほんと面倒だ。


「そうだ兄貴。明日の午後なんだけど、カリダ食堂に氷の配達があるけど持って行く?」


 明日の午後にカリダ食堂かぁ。久しぶりにルーと話がしたい。


「もちろん、行く」

「うん、わかった。明日の二時過ぎくらいにここに来てくれる? 配達の氷を用意しておくから。それと、兄貴は僕の予備の指輪返してね」


 ちっ、ラエルは気付いていたのか……。


「まだ、貸してくれラエル」


 昼の開いた時間にカリダ食堂に行きたいが、火属性の指輪ではすぐに俺だとわかってしまう。


「そんな簡単にバレないって、学園にいた頃と髪の色も違うのに」

「念には念をだろう?」


「兄貴さぁ、ルーチェさんを連れて逃げちゃえよ。兄貴ならできるだろう?」



 くっ、痛いところを突くなぁラエル。



「ラエルの言う通り逃げるなら簡単に出来る。あの場所で日々楽しく働き、笑うルーを見たら言えない。いま手に入れたルーの幸せを俺は壊したくない」


「そこまで、彼女のことを考えてるんだ。優しいな兄貴」


 優しいか……俺達は人嫌いな兄弟だもんな。ラエルも俺達の好きな魔法を見て、あのルーの微笑みを見たらお前も分かると思うよ。


 俺は胸ポケットから、銀のヘアピンを出してラエルに見せた。


「それって、この国に来たばかりに、兄貴が女の子から貰ったヘアピン?」


「うん、これをくれたのがルーなんだ。そのとき俺はパフォーマンスのために、道化師の面を付けてたからルーは知らない」


 すぐにベルーガの婚約者候補を見つけて、自国に帰るつもりだったし。

 ましてや、こんな諦めれきれない気持ちを知るなんて、思いもしなかった。



 ♢



『あなたの魔法がもっと見たいわ』


 この銀のヘアピンを見ると思い出す。

 魔力がないと言われても魔法が好きで、笑った顔が可愛いルー。その彼女が一年遅れて魔法学園に入ってきた。


 俺はベルーガの婚約者探し。ルーはあの殿下の婚約者。二人で仲良く歩く姿。ルーがあいつに寄り添う姿を遠目に見ていた。



 なのにあいつは、ほんの一ヶ月ぐらいで他の女性に目移りをして、ルーに冷たくあたるようになった。


「くそっ、ルーは何事にも真剣だった。俺はどうしてもあいつは許せない!」


「兄貴?」 


 いきなり声を荒げた俺に驚くラエル。


「あ、すまん。学園の時のことを思い出してカッとなった」

「学園って兄貴がベルーガの婚約者候補を探しに、通った魔法学園の時のこと?」


 そうだと俺はヘアピンを元の胸元に戻した。今思えば面倒でも学園に通ってよかった。


「ラエルも通えばよかったのに」

「え、僕は無理だよ。でも、兄貴の学園の話は初めてだから聞きたいなぁ」


「あぁ、いいぞ」


 俺はラエルに話した。ルーと殿下の話、一ヶ月で殿下が他の女性のところに行ったとか。


 ルーの努力に、ルーの涙の話をした。


「その殿下って、今日ここに来たあの人だよね。同じ男として許せない。婚約者がいながら他の人だなんておかしいよ!」


「ラエルもそう思うだろ。しかしな周りの貴族は違ったんだ。貴族はその女性を庇い、ルーを悪者にしたんだ……この国の若い貴族はおかしい」


 その後もラエルと紅茶が一杯、一杯と飲み干し話をした。

 ラエルは俺の話に相槌を打ったり、意見を言ったりルーの話だけど、久しぶりに兄弟での話ができた。



「そうだ。ルーチェさんが付けていたブレスレットって、兄貴が作ったんだよね」



「あぁ、そうだ」

「そのブレスレットって、あの人に反応するように使ってあるみたいだけど……」


「ん、まあ、ルーに頼まれたからな」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る