第6話

 すぐに福ちゃんは暗闇に消えて行った。


「わたし達も帰ろっか」

「キャン」


 子犬ちゃんを抱えて階段を上がる。

 玄関を開けて入り口近くのランタンに火を灯した。それを持って部屋中のローソクを灯した。

 

「灯はこれで、いいわね」


 夕飯の準備に取り掛かると言っても、先ほど買って来たパンと紅茶を淹れるだけ。

 子犬ちゃんには居場所にとタオルを引いて、お皿にお水を出した。


 そうだ、さっき買ったパン屋の袋を覗く。


(これは……)


 大好物のくるみパンが七つとチョコパン五個に食パン一斤。

 今日の夕飯と明日の夕飯で食べれちゃう分だけど、お給料日、前なのに買いすぎた。

   

 ……ふぅ。


 途方に暮れてもお腹は膨れないので、紅茶を淹れる準備を始めた。

 窓を開けて、小さな折りたたみテーブルにアルコールストーブと五徳を出して、小さなヤカンに水を入れてお湯を沸かした。


「キューン」

「ほんと、お腹がすいたね」


 わたしのはいいとして、子犬ちゃんには果物があったかな? 

 棚の上に置いた果物カゴを見ると、おやつのバナナとリンゴが入っていた。

 カゴを下ろしバナナは半分、リンゴも半分小型ナイフで剥きお皿に移した。


「どうぞ、子犬ちゃん」

「キューン」


 子犬ちゃんはひと鳴きして、お皿に飛び付く、それを眺めてからわたしもくるみパンを頬張った。


「うん、美味しい」


 ふわふわなパンにカリカリのクルミ。

 次はチョコパン、その次はくるみパン。


 自分の食事に夢中で子犬ちゃんから目を話した隙に、子犬ちゃんは足らないと果物のカゴに頭を突っ込んでいた。


「あ、子犬ちゃんダメ。それは君用の朝食だよ」


 そう伝えても子犬ちゃんは朝食の分も欲しいと鳴いた。


「キュンキューン」

「甘えてもダメなものは駄目。子犬ちゃんはこのバナナ一口で終わり、わたしもこれを食べたら終わりね」


 子犬ちゃんにはバナナをあげて、わたしはパンを頬張り紅茶を飲み干して、パンの袋とカゴを置いた……くっ、名残惜しい。

 本音はもう少し食べたかったけど、子犬ちゃんに我慢をさせたのだからね。


 でも、このまま起きていたら絶対にお腹が鳴る、そんなときは寝るに限る。


「そろそろ寝よっか」

「キュー」


 玄関のランタンを持って、ほかのロウソクを消した。

 ワンピースを脱洗濯物カゴに投げ入れて、髪を下ろして、パジャマ代わりのシャツと短パンのラフな格好になり。

 いつもならベッドに寝転んで読書の時間なのだけど。今日は子犬ちゃんをベッドの上で撫でた。


「キュー!」


 子犬ちゃんは尻尾を触るとやったなーと、飛びついて来る。


「きゃっ!」


 ビックリして倒れたわたしに近寄り頬を舐めた。


「子犬ちゃんたら、この!」

「キュ⁉︎」


 そのまま子犬ちゃん抱きしめて、頬と頬をくっつけグリグリした。


「ふわふわで温かいね」

「キュンキュン」


 引っ付いても嫌がらず、しっぽを振る子犬ちゃん。


「明日にはちゃんと飼い主さんを見つけるからね」


 そのままふわふわな子犬ちゃんを撫でていたら、疲れたのか子犬ちゃんは寝息を立てていた。


「ふふっ、おやすみ子犬ちゃん」


 わたしもランタンの炎を消してベッドに潜る。今日はあの人のことがあったけど。

 子犬ちゃんと福ちゃんに会えて楽しい一日を過ごせた。


 これで良い夢が見れたらよかったのだけど、やはりあの人を思い出したせいなのか。

 いつもの夢を見ることになった。

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