第5話(手直し)
床に転がって部屋の中で伸びている、子犬ちゃんに近寄った。
「ごめんね、子犬ちゃん」
わたしは港街で魔晶石の色に焦り、近くにいた子犬ちゃんを連れてきてしまった。
だって子犬ちゃんは、子犬ちゃんで大人しく抱えられていたから、まったく気が付かなかった。
「キャン」
すぐに子犬ちゃんは目を覚ましてひと鳴きした。起き上がると鼻を鳴らして、部屋の中を歩きまわる。
その子犬ちゃんの元気な姿を見て怪我はしていないようだと、ホッと胸を撫で下ろした。
しかし、この後どうする?
早く戻らないと、港街で飼い主さんが子犬ちゃんを探しているはず。
「キューキュー」
子犬ちゃんは飼い主さんの心を知ってか知らずか、呑気にわたしのベッドでふみふみ大会を始め、それが終わると枕の上に寝そべった。
のんきな子犬ちゃんとは正反対のわたしはというと、外に出る、出ないと、ぶつぶつ玄関をうろうろしている。
まさか、港街でブレスレットの色が変わるなんて、思っても見なかった。
でも、お守り代わりに財布に入れておいてよかった。
このブレスレットは、王子とヒロインの邪魔をしないと決めた、わたしが先輩に頼み込んで作ってもらった物だ。
編んだ革紐に、穴の開いた魔晶石が通っているブレスレットだ。
このブレスレットは王子が近付けば、王子の魔力に反応して、色が変わる仕組みになっているのだと聞いている。
「あ、街まで出るなら、洗濯物をしまわないと」
湿気っちゃうと、下に降りて仕事用の服を取り込み。部屋で鉄製の鍋にお湯を沸かして、シワを伸ばしてハンガーに掛けた。
時刻は夕暮れ前、買い物にしても視察にしても、港街にはいないだろう。
「さぁ、飼い主さんを探しにいくわよ!」
念の為にブレスレットはつけたままで、ベッドでくつろぐ子犬ちゃんを抱っこした。
「キュー?」
そのあとわたしは港街まで走った。
港街に着くと、商店街の中は夕方のセールで混み合いをみせていた。
その中を進み子犬ちゃんの飼い主を探した。
「この子の飼い主さんいませんか?」
どの店の主人やお客さんに聞いてみたけど、どれも空振り、子犬ちゃんの飼い主さんは見つからなかった。
どうして?
こんなに可愛い子を探さないの? 商店街の中を往復したけど飼い主さんはいない。
まさかとは思うけど港から船に乗った? それだともう探せない。
「ごめんね、子犬ちゃん」
「キューン」
もうすぐ日が暮れる。商店街のお店も店じまいを始めていた。
仕方がない。明日になったら、女将さんに頼んで早めに上がらせてもらおう。
「帰ろうか子犬ちゃん」
「キャン」
商店街を抜けて元の来た道を帰っていた、頭上の方で羽音がして、空を見上げると大きな影が見えた。
(なに?)
「ホーホー」
「え、福ちゃん⁉︎」
この時間に福ちゃんに会うのは初めてだ、福ちゃんは降りてわたしの肩に止まった。
その余りの軽さに驚く。
「福ちゃんて、見た目よりも軽いんだね」
「ホッホー、ホッホー」
「えぇ、わたしは太ったぁ? 福ちゃん気付いたの? そうなの最近になってお腹の辺りがねぇーって、女の子に失礼よ、ねぇー子犬ちゃん」
「キャンキャン」
「ホーホー」
「まぁ女の子じゃないですって! 子犬ちゃん負けちゃダメよ。もっと言って、わたしは女の子なんだからって!」
一羽と一匹に一人。
みんなでわーわー言いながら坂道を上り、食堂が見えて来ると、福ちゃんはわたしの肩から飛び立つ。
「ホー」
「福ちゃん帰るの? 送ってくれてありがとう、またね」
「ホーホー」
「キャン、キャン」
空高く飛び上がった福ちゃんを見送った。
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