第39話 どこまで行っても海ばかり
地上から見たときは分からなかったが、この衛星の表面のほとんどは海だった。
もちろん水ではなく液化メタンの海だ。
海陸比は今のところ不明だが、さっきから衛星大気圏内を飛行している《リゲタネル》が陸地にさっぱり遭遇しないところ見ると海のほうが大きいようだ。
しかし、これはある意味……
「幸運だったわね」
悔しいがサーシャに皮肉を言われても、あたしはまったく反論できない。
言われる事、ごもっとも。
正直自分を叩きたいぐらいだわ。
あたしの馬鹿!
ここまでみんなを引っ張ってきておきながら、ワームホールの開いた場所がこの広大な衛星のどこなのかさっぱり分からないなんて。
一応、地図は作ってあったが、それはあくまでもワームホール周辺とロケットを打上げた地点の周辺だけ。
衛星全体の地図なんて作ってる暇はなかった。あの時打ち上げたプローブは天測用であって地上探査機能はなかった。
「なんで地上探査用のプローブを先に打ち上げなかったのよ?」
「しょうがないでしょう。あの時はバギーには積みきれなかったのよ」
「普通、天測より地上探査が先でしょ。まず、自分の足元を確かめなきゃだめじゃない」
「いいえ、天測が先。自分の現在位置を把握しなきゃだめでしょ」
「現に把握できてないじゃない」
「う、それは」
反論したいが今はサーシャと喧嘩している場合じゃない。
それでなくても、狭苦しい船に何日も押し込められているので四人ともいい加減フラストレーションが溜まっている。ここは我慢しないと。
ところでなんで海が多くて幸運かというと、それだけ捜索する面積を減らせるからだ。
あの時、ワームホールから南へ百キロいったところが赤道だった。そこからロケットを打ち上げたわけだが、その時の使った発射台がまだそこに残っているはず。
赤道上の陸地で金属反応を探していけば見付かるはずだが、そのためには金属反応を捕えられる高度を低速で飛び続けなければならない。
もし、この衛星が陸地ばかりだったら何日かかったことやら。
海が多くて幸運というのはそういう事だった。とりあえず、海の上は探さなくてもいいので、高速で通り過ぎてもかまわない。
それにしても、この海はどこまで続くんだろう? もう赤道を半周しているけど、まだ陸地にぶつからない。
もしかすると一ヵ月半の間に海面上昇で陸地が全て沈んだのか?
なんて妄想が湧いてきた時、ようやく陸地が見付かった。
「ねえ、これはどう?」
サーシャは陸地を指差す。
「ううん。こんな小さな島じゃなかったな。少なくとも北に百キロは陸地があるはず」
「そう。じゃあ次いきましょう」
《リゲタネル》は再び動き出した。
次の陸地があったのはそこから西へ百キロいったところだった。
「これはどうかしら?」
「これかもしれない」
その陸地は北へも南へも地平線の彼方まで続いていた。
早速 《リゲタネル》は高度を下げ金属探知を開始した。
それにしても気になるのはマーフィの動きだ。あきらめて帰ったとは思えない。
しかし、この濃密な雲に覆われた衛星にいる《リゲタネル》を宇宙から見つけられるとは思えない。
となると《ファイヤー・バード》もこの衛星の大気圏に下りて来て、あたし達を探してるのだろうか?
しかし例え降りてきたとしても、この広い衛星を《ファイヤー・バード》一隻で闇雲に探し回っても、あたし達を見つけることはほとんど無理。
奴の増援が第五惑星に近づいてるのは、この衛星に降りる前にやっておいた赤外線観測で分かっていた。しかし、それの到着は三十時間後。
三十時間も奴は待ってるのだろうか?
希望的観測を言うなら、奴はすでにこっちがワームホールを抜けてしまった後と、誤解していてくれればいいんだが。
「金属反応だ」
慧が叫ぶ。
あたしは反応のあった辺りを拡大してみた。
金属のやぐらのような物が見える。
ただし横倒しになって。
「直接行って見てみるわ」
あたしはFMDを外して席を立った。
「私も行くわ」
サーシャも席を立つ。
あたし達は狭い通路を通ってエアロックへ向かう。
エアロックの中で気密服に着替える。
あたしは武器ロッカーを開け、レーザー銃を出し一丁をサーシャに渡す。
「そんなに危険なところなの?」
「ええ。決して、油断しないでね」
エアロック内の増圧が終わりあたし達は外へ出る。
氷りついた有機物の大地を踏みしめ、あたし達は金属やぐらに歩み寄った。
「どう?」
屈みこんでやぐらに書いてあるマークを探す。
あった! 宇宙省のマーク。
「間違えないわ。これよ」
視線を前に戻す。
え? サーシャ!? なんであたしに銃を向けるの!?
いきなりサーシャはトリガーを引く。
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