第40話 時空管破壊装置
「ビギャー!」
悲鳴が上がったのはあたしの背後。
振り向くとメタンクラゲがのたうちまわっている。
いつの間に、こんな近くに!?
あたしも銃を抜きメタンクラゲに銃を向ける。
神経中枢に狙いをつけてレーザーを撃ち込んだ。
甲高い悲鳴の後メタンクラゲは動かなくなった。
「サーシャありがとう」
「本当に油断のならない星だわ」
「仲間がいるかもしれない。早く戻りましょ」
「ええ」
あたし達はエアロックに戻りかけた。
不意にサーシャが立ち止まる。
「どうしたの?」
彼女は銃を斜め上に向ける。
銃口の先にある空中を見ると、何かが浮いている。
飛行生物? いや違う。
サーシャの銃から細い光の筋が延びて空中の物体に吸い込まれる。
パン!
破裂音が聞こえ何かが落ちてきた。
あたし達は落ちたもののところへ駆け寄る。
サーシャが落ちていたものを拾い上げた。
破裂したバルーン。その先にヒモでつながった機械がぶら下がっている。機械はカメラアイ、集音機、電波受信機などが組み込まれていた。
「美陽。これって一種のプローブじゃないかしら?」
「そのようね。ここでこんな物を飛ばす奴は、あいつしかいないわ」
マーフィ!
やはりあきらめてなかったか。しかも、あたし達がここにいる事を知られてしまった。
すぐに船に戻って場所を移動しないと。
しかし、奴にどんな攻撃手段が残っているんだろう?
ミサイルはすでに撃ちつくした。
《ファイヤー・バード》に大出力のビーム兵器があるのだろうか? ただでさえ狭い時空穿孔船にあれだけの大量のミサイルを搭載したら、あまり大きなレーザー兵器は装備できないと思うけど。
待てよ。
《ファイヤー・バード》にはさっき船外にコンテナが着いてた。あの中に攻撃手段が?
その答えが分かったのは船内に戻ってからだった。
「船長、これを見てくれ」
教授の示すディスプレイを覗き込んだ。
「これは、重力波ですね」
「うむ、例の時空管破壊装置じゃ」
そうか、コンテナに入っていたのはこれだったのか。
「ワームホールはさっきの地点から北へ百キロじゃったな?」
「ええ」
「さっきの地点から、北北東八十キロ地点に装置がある。偶然のようだが、かなり近い位置に置かれたな」
「でも教授」
サーシャが首を捻る。
「この装置は時空管に長時間プレッシャーを与える事によって破壊するんですよね。一瞬でワームホールを抜けてしまう時空穿孔船には、効果はないのではないでしょうか?」
「サーシャ君。普通はそうなんじゃ。だが今の《リゲタネル》は船殻に傷を負っている。このままワームホールを越えると圧壊のリスクがある。そんな時にワームホールの近くでこんな物を使われてはますますリスクが高まるんじゃ」
「でも、これから修理なさるんでしょ?」
「もちろん修理はする。しかし、充填剤をつめるのはあくまでも応急処置じゃ。それと気になるのは重力波の周波数じゃ」
周波数?
「この前、楼蘭で見た装置と比べて遙に周波数が高い。もしかすると周波数を上げる事で短時間での破壊が可能なのかもしれん。もしそうなら時空穿孔船でもやられる危険がある」
「となると、装置を破壊するしかないわね。でもグレーザー砲はなるべく使いたくないわ」
「美陽。なんでグレーザー砲を使ってはいけないのかしら?」
サーシャは不思議そうな顔をして言った。
「グレーザー砲を使ったら、こっちの居場所をまた特定されてしまうわ」
ちなみにさっきの場所からは大分移動した。
「いいじゃない。場所を特定されたところでマーフィに他に攻撃手段はなさそうだし」
「そうかも知れないけど、できればよけいなリスクは……」
あたしが言いかけた言葉を慧がさえぎった。
「急いだ方がいいかもしれない」
「どうして?」
「なんでマーフィがあんな装置を持ってきたか考えたんだ。重いしかさばるし、よほどのメリットがなきゃ持ってこない」
確かに。
「たぶん、マーフィは僕達が逃げる先に未知のワームホールがある事を予測していたんだよ。それを潰すために、あの装置をワザワザ持ってきたんじゃないかな」
なるほど。
「だけど、この濃密な大気の中でワームホールがどこにあるのか分からない。ところが、僕達もワームホールを捜してうろうろしているのにマーフィは気がついた。だから、どこにあるか分からないワームホールを潰すために……」
「でも、あの装置は時空管を破壊する装置よ」
「だから、周波数を上げたんじゃないかな」
あ! じゃあマーフィはあの装置でマーカーを破壊しようとしている? でも……
あたしは教授の方を振り向いた。
「マーカーも破壊できるんですか?」
教授は少し考え込んでから口を開いた。
「分からん。あの装置はわしよりマーフィの方が詳しいからな。だが、その可能性は十分にある」
「じゃあますます急がないと。美陽、グレーザー砲で一気にケリをつけましょう」
サーシャは急かすが、あたしは何か腑に落ちないものを感じた。
「待って、あいつらあたし達を誘き寄せる気じゃないかしら?」
「え?」
「あんな重力波をバンバン出しまくっている装置を使っても『どうぞ壊しに来てください』と言ってるようなものよ。という事はうっかりあれに近づいたら……」
「どっかから狙撃されるってこと?」
「そういう事よ」
「じゃあどうやって破壊するの?」
「爆弾を使いましょう」
「爆弾? そんな物積んであったかしら?」
「反物質運搬容器があるでしょ。あれを使いましょう」
「美陽! あんた怖いこと考えるわね」
「しょうがないでしょ、この場合。でもその前に修理が必要だわ。どっかいい場所はないかしら?」
「あるよ」
慧がディスプレイに地図を表示した。
「島?」
地図に映っていたのは、さっき赤道上を飛行中に見つけた島。
「絶海の孤島てさ、他の大陸や島からの生物が渡って来れないってよく聞くよ。メタンクラゲって言うけど、あれが泳げないとしたらこういう孤島にはいないんじゃないかな?」
「なるほど。一理あるわね」
「じゃあ、島に向かうね」
《リゲタネル》が島に着いたのはそれから三十分後。念のため投光機で照らしてみたが、メタンクラゲが集まってくる様子はない。
慧の推測は正しかったようだ。
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