第31話 返して!!

「ちょっと待ってください」

『なにか?』

「こちらの船にマーフィさんと、お話したい方がいらっしゃいます」

『どなたですか?』

「マーフィさんの古いお知り合いの方です」

『はて? どなたかな。では出してください』

「教授、どうぞ」

 あたしは通信を教授と変わった。

「久しぶりだね。マーフィ君」

 マーフィの顔に驚愕が走った。

『せ……先生お久しぶりです。お元気でしたか?』

「君こそ元気そうだね。ところで今、聞き捨てならない事が聞こえたのだが、時空穿孔船の特許を誰が持っているって?」

『も……もちろん先生です』

「そうなのか。まるで今の口ぶりだと、君が持っているように聞こえたのだが」


 あたしもそう聞こえた。


『いえ……私はただ、日本の宇宙省が先生の特許を侵害したのかな? と思いまして……』

「なるほど、私の特許権を心配してくれたのか。ありがとう」

『いえ、滅相もない』

「ところでマーフィ君。君の乗っている船は、誰がどこで造ったのかね?」

『はい。これは私の設計を元に、CFCの造船所で建造いたしました』

「はて、おかしいな? CFCの方からは、特許料の支払いがないのだが」

『なんと! これは失礼をいたしました。会社に戻りましたら直ちに事実関係を確認しまして、特許料を振り込ませていただきます』

「まあいいだろう。ところで君の例の研究はどうなったのだね?」

『例の研究と申しますと?』

「時空管共鳴通信のことだよ。どうなったのだね?」

 一瞬、マーフィの顔が引きつった。

『ああ! あれは先生のおっしゃるとおり、使い物になりませんでしたので……』

「通信とは違う別の使い方を見つけたのだろう。ワームホールを破壊する兵器としての使い方を」

『な……なんのことでしょうか?』

「地球と《楼蘭》のワームホールが圧壊した現場に、あの装置があったのはどういうことかね?」

『いやですねえ、先生。私も迷惑しているんですよ。誰かが私の研究を見て、あの装置を作ったんですよ』

「ではあの装置にワームホールを破壊する能力があることは認めるんだね。ただし君は使っていないが」

『もちろんです。私は使っていません』

「では、その少し前に《楼蘭》で七つのワームホールが圧壊した事件があった時、君は現場で何をやっていたんだね?」

『いえ、私はそんなところには……』

「いただろう。君はそこで佐竹船長と会ってるはずだ」

『ああ、そうでした!! 思い出しました。あの時は《ファイヤー・バード》の性能試験をあの場所で……』

「なるほど、あそこにいたのは偶然か」

『もちろんです』

「では十六年前にカペラ第四惑星の相手空港に、君の操縦する貨物船が停泊している時、相手町のワームホールが圧壊したのも偶然かね?」

『な……なぜそれを……』

「偶然ではないだろう。あの船を臨検した《オオトリ》の乗組員が、例の装置を目撃している」

『先生……まさか……カペラに……』

「ああ行って来たよ。この《リゲタネル》が、ついにカペラへのワームホールを開いたんだ。そこに行って、君のやった悪行の全てを知ったよ」

『そんな……』

「そして君が、なぜそんな事をやったのかもね。エキゾチック物資を手に入れるために、どこかの惑星で知的生命体を抹殺したそうだな」

『待って下さい。それは私がやったわけではありません。CFCの一部の者が、功を焦ってやったのです。私はただ、会社から隠蔽工作を依頼されて仕方なくやっただけです』


 仕方ないだって?


 なぜ、そんな事が言えるの?


 相手町を消し去ったのが、仕方なかったなんて……


 だめだ。怒りが止まらない。


 許せない。この男だけは許せない。


 だめよ、落ち着いて。


 気がつくと、あたしは教授からマイクをひったくっていた。


「ふざけんじゃないわよ!! 何が仕方ないよ!! あんたが仕方なくやったことのために、どれだけの人が死んだと思っているのよ!!」

『どうしたんです? 佐竹さん』

「返してよ」

『返してって、何を?』

「洋子ちゃんを返してよ」

『誰ですか?』

「優しかった吉良先生を返してよ」

『だから誰ですか?』

「知らないで済ますつもり? あんたが殺した人よ!!」

『私が、殺した?』

「さあ返してよ。あたしの友達を返してよ。先生を返してよ。近所の人達を返してよ。学校を返してよ! 公園を返してよ! お父さんと過ごせなかった十六年を返してよ! あんたがあたしから奪い取ったものを全て返してよ!! 返してったら、返してよ!!」

「船長落ち着くんじゃ」「美陽。落ち着いて」

「みんな美陽を押さえつけて!! 鎮静剤を打つわよ」

 腕にチクリとした痛みを感じた。

 意識が遠くなっていく。

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