第30話 あ! 教授怒ってる。
「あたし達が取る道は二つ」
《オオトリ》のブリッジと通信を繋いだ状態であたしは話した。
「一つはここに残ってワームホールを閉じる」
あたしは全員の顔を見まわしてから続ける。
みんなあきらめ顔だ。
「もう一つは強行突破してロシア側の出口から逃げる」
あたしはサーシャの顔を見る。
「無理ね。ワームホールを突破して東トロヤに出ても、そこから日本かロシアの勢力圏内に逃げ込むのは絶望的よ。下手をしたらワームホールを抜けた途端に十字砲火を浴びることになるわ」
「となると、ここに残るしかないわね」
『そうしなさいよ、美陽ちゃん。《リゲタネル》と《オオトリ》があれば、この先いくらでもワームホールは開けるわよ。そうすれば、いつかは地球につながる道が見つかるわ』
慧のお母さんはああ言ってくれてる。
でも……あたしはまだ何かを見落としているような気がした。
「美陽! 通信が」
あたしは慧の方を見た。
「どこから?」
「《ファイヤー・バード》だよ。さっきからすべての周波数で僕らに呼び掛けてる」
「スピーカーにつないで」
スピーカーからマーフィの声が流れ出す。
『こちらは調査船 《ファイアー・バード》です。日露共同調査隊の方。いらっしゃいましたらご連絡ください』
「どうする? 無視する?」
「この場所を知られるわけには行かないわ。でも、せっかく呼びかけてくれてるし、プロープを経由して連絡を取りましょう」
ワームホールの外には中継器が置いてある。あたし達はさっきからそれを使って各プローブから情報を集めていた。
今度はこちらからの通信を、レーザー通信で複数のプローブを経由して《ファイヤー・バード》に送るのだ。
こっちの位置を特定ではないように。
準備が整いあたしはマイクを取った。
「こちらは日本国宇宙省所属工作船 《リゲタネル》。私は船長の佐竹美陽です。《ファイヤー・バード》聞こえますか?」
少しタイムラグを置いて応答が帰ってきた。
『おや? 誰かと思えば佐竹さんではないですか。お久しぶりです。私ですよ。ジョン・マーフィです』
マーフィの映像が現れる。相変わらす紳士顔をしている。
でも、この男が相手町を消し去った犯人なんだ。
いけない。怒りを顔に出すな。
「マーフィさん。お久しぶりです。妙なところでお会いしますね」
『いや、本当に妙にところでお会いしますね。ところでお聞きしたいのですが、こちらの情報によれば、この恒星系で日本とロシアの調査隊が共同調査を行っていると聞きましたが事実ですか?』
「事実です。それが何か?」
『ではお聞きしますが、我々の先遣隊がこの恒星系に入ったとたん、キラー衛星の攻撃を受けました。あなた方の仕業ですか?』
「違います。あたし達もあれに攻撃されて、困っていたところでした」
『そうでしたか。あなたがたも被害者でしたか。しかし、あれはロシア製でしたよ。そちらにロシアの方がいらっしゃるのでは?』
「いることはいますが、彼女もキラー衛星の事は知らなかったのです」
『ほう。そうでしたか。では事情聴取のために、その方の身柄を引き渡していただけますか』
サーシャの顔が一瞬強張った。
「お断りします。彼女はあたしの大事な友人です。あなたに引き渡すわけにはいきません」
『なぜです? 私はただその方が本当にこの事と関係ないか知りたいだけです』
「あたしの言う事が信用できないんですか? あたしが無関係だと言ったら無関係です」
『では、仕方ありません。あなたの船を拿捕します』
「交渉決裂ということですか?」
『そういう事です』
「でも、あたしは捕まる気はありませんよ」
『あなたに捕まる気があろうがなかろうが関係ありません。私が捕えるんです』
「不可能です。その前にあたし達はワームホールを抜けて、この恒星系から出て行きますから」
もっとも、最初からいないんだけどね。
『無理です。《楼蘭》につながるワームホールは潰しました。それとも《リゲタネル》はどこにでもワームホールを開けるから逃げられると思っているんですか?』
こいつ、はやり《リゲタネル》の性能を知っていたか?
「それが分かっていて、どうして捕まえられると思います?」
『すでにお気づきかと思いますが《ファイヤー・バード》も同じ性能を持っています。どこへ逃げても追いかけますよ。まあ、あなた方が地球へ帰れないのを覚悟でマーカーを外して逃げるなら話は別ですが、その覚悟はありますか?』
「それは……」
『それにして日本の宇宙省は、いつそんな船を造ったんです? 困りますな。人の特許を侵害されては』
「え? 特許」
『そうですよ。時空穿孔船の特許は誰が持っていると思っているんですか?』
あたしは教授の方を振り向いた。
あ! 教授怒ってる。
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