第18話 相手小学校

 教室の前であたしは緊張していた。

 落ち着け。落ち着くんだ。

 扉の向こうから吉良きら先生の声が聞こえてくる。

「それでは皆さんに、新しいお友達を紹介します。佐竹さたけ美陽みはるさん。入ってらっしゃい」

 扉が開く。

 あたしはぎこちない足取りで教室に入っていく。

「ども、ども」

 あたしは教壇に立ちクラスのみんなに手をふってから、黒板に名前を書いた。

「横浜から転校してきた佐竹美陽です」

「みよう」

 一人の男の子が、からかうように叫んだ。

「みようじゃなくて、みはるよ!」

「わわい!! ブスが怒った!」

 吉良先生つかつかと歩いていき、男の子の頭を叩く。

 吉良先生は教壇に戻ってきた。

「佐竹さんのお父さんは、宇宙省のお仕事でカペラ第四惑星に来ました。そんな事情で佐竹さんも今日から相手ええて小学校のお友達です。まだ相手ええて町のこともよく分からないと思うので、みなさんで教えてあげて下さい」

「ハーイ!!」

 放課後になった。

「ねえねえ、佐竹さん」

 帰り支度をしているあたしに話しかけてきたのは、おさげ髪の女の子。

「あのね、今日神社でお祭りがあるの。みんなで行くんだけど、佐竹さんも一緒にどう?」

「行く行く」

 女の子は、洋子ちゃんと言った。

 一時間後、あたしは洋子ちゃんをはじめクラスの女子数名と町に出た。

 町には、あまり高い建物はない。

 木造の建物も多い。

 遠く離れた異星というよりも、日本の田舎町と言った感じだ。

 でも、歩いてると嫌でもここが地球じゃないと分かる。

 重力がほんの少しだけ地球より強いのだ。

 あたしはみんなに連れられて相手ええて通りに出た。ちょうどお祭りをやってるところだった。

 この通りは町の中心を南北に貫く大通り。

 通りの北は日本につながっているワームホール、南には宇宙港がある。

 ヨーヨー釣りの屋台の前で、あたしはふと疑問に思ったことを口にした。

「ねえ、洋子ちゃん。なんで「相手」って書いて「ええて」て読むの?」

「どっかの方言なんだって。昔の人はカペラの事を相手星ええてぼして呼んでたの」

「ええてぼし?」

「すばるの相手星という意味だって」

「すばるって何?」

「プレアデス星団の事よ」

「ふうん」

 お神輿があたし達の前を通り過ぎる。

 洋子ちゃんがリンゴ飴のような物を売ってる屋台に立ち止った。

 よく見るとリンゴ飴じゃない。

 看板には「みるみる」と書いてある。

 果物を何の加工もしないで串に刺しただけのようだ。

 洋子ちゃんに勧められるままに口にしてみた。

 あれ? 味がしない?

 ああ、そうか……

 これは……

 町も人も色を失い消えていく。

 あたしがこれを夢と気がついてしまったために……

 でも、たしかあの時、初めて食べたミルミルの味に感動したはず……

 なのに、忘れちゃったのかな? ミルミルの味を……

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