第16話 懐かしい星

 どうやら、生きているらしい。

 でも、ここはどこなんだろう?

「みんな無事?」

 あたしはFMDを外してみた。

 仮想操縦室ではなく、本来の操縦室がどうなったか見たかったのだ。

 どこも壊れている様子はないし、誰も怪我をしている様子もない。

 それを確認して、あたしはもう一度FMDをつけた。

「教授。船は無事ですか?」

「大丈夫じゃ。船体はどこにも損傷はない」

 どうやら、グレーザー砲が発射される直前にワームホールを抜けたらしい。

「で、結局私達はどこに着いたの?」

「サーシャさん。あせらんでも今コンピューターが天測をやってる。もうすぐ結果が出るはずじゃ」

「ねえ、サーシャ」

「なに?」

「あたし達、十時間後に向こうに戻っても、大丈夫だと思う?」

「すぐに狙われる事はないと思うわ。ただ」

「ただ?」

「シリンダータイプの方は、たぶんワームホールの前にずっと陣取っていると思う」

「あちゃー! じゃあ戻ってもどうにもならないわね」

「戦う方法はあるわ」

「どうするの?」

「シリンダータイプは、核グレーザー砲以外何も武器を持っていないわ。つまり、この船に積んであるプローブを、ミサイル代わりに使えば破壊できると思う」

「でも、円盤タイプが守っているでしょ?」

「そう。だから、円盤タイプをグレーザー砲の射程外におびき出すのよ。円盤タイプの武器はフッ化水素レーザー砲だけ。射程はせいぜい五百~六百キロ。《リゲタネル》のグレーザー砲で各個撃破できるわ」

「どうやっておびき出すの?」

「まず、向こうに出たら《リゲタネル》を射程外に逃がすのよ。そして十時間待って反物質を蓄積する。それが終わったら三機のプローブのうち一機をどちらかのワームホールに向かわせる」

「囮にするのね」

「そう。奴はワームホールに近づく物体を攻撃する。ただしシリンダータイプはワームホールの前から動かないから、円盤タイプが迎撃にくる。円盤タイプはブロープを撃破したら、次は母艦の《リゲタネル》を叩きにやってくる」

「そこを返り討ちにするのね」

「だけど問題は三つあるわ」

「なに?」

「第一はシリンダータイプの数。この作戦はシリンダータイプが二機と仮定した場合のみ成立する。さっきは三機いたけど、そのうち一機は恐らくグレーザー砲を撃っているはず。だけど、私達はそれを確認していない。もし、グレーザー砲を撃ってないで奴が生き残っているとしたら」

「それは大丈夫じゃ」

 サーシャは教授の方を振り向く。

「どうしてですか?」

「レーダーの記録から、奴の推進剤消費量を計算してみた。ワシらに向かってきた奴には、もう減速するだけの推進剤はないはずじゃ。グレーザー砲を撃とうが撃つまいが、もう戦線には復帰できん」

「じゃあ、問題の一つはなくなったわね。後の二つは何?」

「二つ目の問題は、五機の円盤タイプが全てこっちへ向かってくるかどうか。三機だけ向かってきて、二機はそれぞれのシリンダータイプの護衛に残ったら、プローブで攻撃する手段は使えないわ」

「なるほど。それで三つ目は?」

「キラー衛星が、本来の役目を果たしてしまう状況が起きてしまうこと」

 そうだった。あたし達が本来恐れていたのはそっちだったんだ。

 グズクズしている間にCFCがワームホールを開いてしまったら……

「二つ目の問題は悪くないかもしれんぞ」

「教授。二つ目の問題がどうして悪くないのよ?」

「二つ目の状況が起きた場合、キラー衛星はワームホールの防衛に専念して《リゲタネル》を攻撃する余裕はなくなる。そうなるとワシらは帰ることはできなくなるが、惑星の調査に専念できる」

「一生、いるつもりですか!?」

「まさか。待っていれば、そのうちCFCがワームホールを開くじゃろう」

「あ!」

「そうなったら、CFCとキラー衛星の戦闘になる。ワシらはそのドサクサに紛れて逃げればよいのじゃ」

「そうか、なるほど! 毒をもって毒を征するのですね」

「でも、それじゃあ私達は逃げられるけど、あの惑星をCFCに占領されちゃうじゃないですか?」

「大丈夫じゃ。知的生命体がいる以上手が出せん」

「CFCは邪悪な拝金主義の会社ですよ。ネコちゃん達を抹殺して、文明はなかったと発表して開発を始めるかもしれませんよ」


 おまえだろ。先にそれを考えたのは……


「だから、ワシらがなんとしても逃げ帰らなきゃならん。ここに文明を持った猫がいる事を国連に報告すれば、奴らも惑星に手を出せなくなるじゃろう」

「しかし……」

「サーシャ。そこから先はあたし達が議論しても意味ないわよ。今、あたし達がすべき事は文明を持った猫がいる証拠を持って《楼蘭》まで逃げる事。その先は、政府に任せるしかないわ」

「そうね。今は十時間の間に、私達ができる事を考えるべきね」

 それにしても、これだけあたし達が議論しているのに、慧はなんで議論に参加して来ないんだろう?

 元々、口数の少ない奴ではあるけど静かすぎる。

 慧は呆然とした表情で何かを見つめていた。

 視線の先には恒星がある。

 G型の恒星が二つ、互いの周りを回っている二重恒星系のようだけど……この星って!?


 まさか!? そんな!? 偶然が?


 あたしは慧の肩に手を置く。

 慧は振り向いて呟く。

「美陽。この星って……」

 ディスプレイには、すでに天測の結果は出ていた。

 『赤経〇五h 一六m 四一s

  赤緯四五度五九分

  御者座

  恒星名  カペラ   』


 帰ってきたんだ……


 あたし達は……

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