ペチカ

藤ともみ

ぺチカ

昔々ある小さな町に一人のお金持ちの紳士が住んでいました。彼はハンサムで慈悲深い貴族でしたが、若い頃に妻に先立たれ、子どもがありませんでした。紳士は毎日熱心に教会に通い、どうか私にかわいい子どもを授けてくださいと祈ります。

ある日のこと、紳士が幼い少女をつれているのを見て、町の人々はびっくり仰天しました。聞けば、道端で寒そうに震えているのを、彼が見つけて拾ったのだそうです。その少女の肌は雪のように白く透き通っていて、やせっぽちでした。これから大きな街に馬車で出かけて、この子の為の洋服を買いに行くのだという紳士を人々は笑顔で見送りました。ようやく紳士の願いが神様に届いたのだろう、あの娘さんも幸せ者だねと町の人々は喜びました。


それから、時が流れ、春が来て夏と秋が過ぎ、寒い寒い冬がやってきました。町にはたくさん雪が降りました。


雪掻きをしていた果物屋のおばさんが、例の紳士が一人で歩いているのを見かけました。「ところで、お嬢様はお元気ですか?」と尋ねると、紳士は悲しそうに首を振りました。寒さが祟って病気にでもなったのかと尋ねると、なんと、ペチカの炎で溶けてしまったと泣くのです。おばさんはびっくりして詳しく話を訊きました。


紳士の語るところによると、急に寒くなりましたのでペチカに火をつけてやろうとすると、娘は嫌がって泣いたのだと言います。それでも、寒いのだからと火をつけると、部屋が暖かくなるにつれ、娘はあっという間に溶けて消えてしまったのだそうです。


紳士はたいそう悲しみました

町の人々も、紳士をかわいそうに思いました。きっと紳士を憐れんだ神様が、雪人形に命を吹き込んで彼のもとに遣わしたのに違いない。しかし彼はそれを知らなかったのだから、ペチカに火を焚いたことを誰も責めることはできないと、人々は噂したのでした。


しかし、中央警察がこの報告を聞いて黙っていませんでした。彼らが紳士の家をくまなく家宅捜索したところ、ペチカの灰の燃えかすから小さな骨が発見されたのです。紳士は、羊肉の骨が落ちたのだろうと言いましたが、警察は、「やましいことがないなら調べても問題ありませんね?」と証拠として骨を持ちかえり、鑑定した結果、人間の子供の骨の一部であることを突きとめたのです。


紳士……いや、男は観念してお縄につきました


警察が事情聴取をしたところによると、男は元々年若い少年少女を手懐けた後に乱暴し、最後には火にくべて食べてしまうという恐ろしい趣味嗜好の持ち主だったのです。

今回わかった少女の他にも、過去に何人も子をさらってはこっそり食べていたと男は言いました。

以来、この屋敷は誰も住み着かなくなりました。取り壊してしまおうという話もあったのですが、この恐ろしい事件を後世に伝えるために、屋敷を保存することに決めたのです。

以上ような経緯があって、このペチカは現在「悪魔のペチカ」と呼ばれています。





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ペチカ 藤ともみ @fuji_T0m0m1

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