第六部 大陸安定編 序章「続、生産王の活躍」
第161話「161.続、昼と夜の生産王タダシ。」
生産革命コミック2巻発売、再スタートを記念して第六部始めていきます。
――
大陸平定の戦より数ヶ月。
タダシ王国には平和な日々が続いている。
「タダシ様!」
金髪紅眼の少女。
吸血鬼族の長にして、アンブロサム魔王国の魔王レナちゃんが、長いドレスの裾をたなびかせてパタパタと走り込んできた。
「おいおい、そんなに慌てたら転ぶよ」
レナちゃんは、手になにか細長い棒状でカラフルな果物をいくつか抱えている。
「旧帝国のクリオロ島より、待望のカカオ豆が届きました」
「おお、するとこれは……」
「チョコレートの原料である、カカオの果実だそうです」
赤や黄色や白い果実がある。
カカオの果実を渡されたタダシは、色によって種類が違うのだろうかと調べてみる。
良く熟しているらしい果実は、花のような香りがした。
これ自体も食べられると聞いたことがある。
タダシ王国でも生産に回すつもりだから、あとで果実も味わってみるか。
「うーむ、良い香りだ」
「これで、結婚できますね」
満面の笑みでそういうレナちゃん。
もう十五歳なので、結婚できる年である。
婚約して一年以上ほったらかしてしまった負い目はあるのだが……。
どうも可愛らしいレナちゃんと結婚は、なんか二の足を踏んでしまうタダシである。
そのため、レナちゃんとの結婚式にはチョコレートケーキを作りたいから、帝国の皇帝家がクリオロ島に所有していた最高のカカオ農園から材料が届くまで待ってくれと言い訳してきたのだ。
「カカオの果実は、確かこのままではチョコレートにならないはずだ」
神様レベルの農業の加護を持つタダシには、手に取るようにわかる。
カカオ豆を麻袋にいれて一週間程度熟成させてから、乾燥させてようやくチョコレートの原料になるはずだ。
往生際の悪いタダシは、カカオ豆を熟成させるまで待ってくれというつもりだったのだが。
レナちゃんは、いそいそと麻袋を持ってくる。
まさか……。
「はい、熟成させて乾燥させたものがこちらになります。まだあっちの箱にたくさんありますよ」
どうやら、カカオの実はサンプルとしてわざわざ新鮮なまま保存していただけらしい。
見に行ってみると、たくさんのカカオ豆が用意されていた。
輸送を考えると、乾燥させてカカオ豆にしたほうが運びやすいので、当然の結果であった。
料理長であるマールを始めとしたタダシの奥様方が、待っていてここぞとばかりに言う。
「早速、チョコレートの大量生産にかかります。タダシ様、よろしいですね」
これ以上逃げられないぞと、マールはタダシに言っているのだ。
「ああ、わかった。チョコレートケーキができ次第、レナちゃんとの婚姻を執り行う」
そう言うと、レナちゃんと同じ吸血鬼族である侍従長のフジカが「うううっ……」と、泣き出す
フジカは、長らくレナちゃんの後見人を務めてきたので、感極まっているのだろう。
「フジカさん」
マールに、ハンカチを渡されて涙を拭くと、フジカが言った。
「これで、レナ様との間に子供ができれば、アンブロサム魔王国は安泰です。私も肩の荷が降りた気分です」
さすがに、これにはタダシが突っ込む。
「子供って、気が早すぎるだろう」
「あら、これだけ短い期間に子を成したタダシ様が言うんですか」
奥方の間から、ツッコミが飛ぶ。
豊穣も司る農業の神の加護を受けているタダシは、三百人以上の奥方全員と子供を成しているのだ。
百発百中を誇るその精力は、夜の生産王と言われているほどだ。
ちなみに、近頃奥方の中に加わった紅帝竜キトラも、里帰りしているところである。
タダシは、恥ずかしそうに咳払いして言った。
「コホン。初めて作るチョコレートだから、失敗しないように気をつけないと」
タダシの照れ隠しに、みんな笑いながらチョコレートケーキ作りを始めるのだった。
※※※
結婚式当日。
呼び出した神様たちが、早くケーキを食べさせてくれというので、結婚式の前にチョコレートケーキが振る舞われることとなった。
神前に備えられた巨大なチョコレートケーキをレナちゃんと二人で切り分ける。
神様たちからは、「美味い!」と賞賛の声があがる。
「俺たちも食べてみようか」
マールは味見していたようだが、タダシたちは本番まで口にする機会がなかったのだ。
神様たちにこれほど好評だと、タダシも我慢できなくて、チョコレートケーキを食べてみることにした。
「美味い」
さすが皇帝家お墨付き、クリオロ島産のカカオ豆だ。
クリオロ島のカカオは、初代皇帝が必死に探し出した最高のカカオだという。
「美味しいですねタダシ様、口の中に甘く蕩けるみたい」
「そうだなこんなに甘いのに、それでいて上品な口当たりだ」
甘いのに、どこかほろ苦い口当たりのチョコレートは、やはり大人の味だ。
媚薬と呼ばれることがあるほど、心躍る味である。
吸血鬼族の伝統衣装でもある黒のウエディングドレスに身を包んだレナちゃんが、頬を赤らめてタダシにすり寄りキスする。
まったくの不意打ちだった。
「レナちゃん……」
なんでも面白がる神様たちは、結婚式の前に誓いの口付けをしてしまったと囃し立てる。
キスは、まだ止まらない。
一度ならず、レナちゃんは積極的にキスしてきて、なんと不意打ちで、大人のキスまでかましてくる。
これには、タダシが驚いた。
この前まで引っ込み思案で、室内で本を読むのが好きな子だったのに。
「どうですか? 私はまだこれでも子供に見えますか?」
なんと、この日に備えてレナちゃんは、キスの練習をしてきたのだ。
本当に驚かされることばかり。
「いや、大人だな……」
レナちゃんとのキスは、チョコレートの味がした。
思えば、以前だってここぞという時ではレナちゃんは積極的だったのだ。
これこそが、吸血鬼族の長たる魔王の血筋なのであろう。
ここまでされては、もはや是非もない。
早々に結婚式を終えたタダシは、存分に夜の生産王モード発動する!
………
……
…
次の日、キングベッドの上で腰砕けに蕩けているレナちゃんがいた。
「やってしまった……」
部屋を出ると、侍従長のフジカがグッ! と親指を立ててくる。
それに無言で「うるさいわ」とツッコミを入れながら、タダシはそのまま散歩に出る。
すでに、時刻はお昼ごろである。
賑やかな喧騒に包まれている王都を出て、そのままそぞろ歩いているとシンクーの港にまで来てしまった。
シンクーの港には、巨大なドラゴン空母が止まっている。
「ああそうだ、空母を見学したいと思ってたとこだ」
考えればちょうどいい機会である。
この船は、旧帝国の
シナノは、もともと戦艦として作られていたのだが、ドラゴンが発着できる航空母艦が必要とのタダシの要請により途中で航空甲板を増設して空母に改修された。
さらに、複数の空母を建造する予定である。
タダシ王国は、海エルフや獣人が住むカルバン諸島も領土にしているため、何か事が起こった時に基地を作るより空母のほうが機動的に防衛できる。
普段は、大規模輸送船としても役立つので、今回は旧帝国領から鉄鋼をたくさん積んでやってきている。
カカオ豆もこの船で一緒に運ばれてきたのだが、それはまあおまけのようなものだ。
積み下ろしが終わって空になったシナノは、タダシ王国の食料をたくさん積んで帰る予定である。
船に近づいてみると、ドワーフの名工オベロンがいた。
「オベロン、こんなところでどうしたんだ」
「こういう船、ワシも作って見たかったわい」
長いヒゲをさすりながら、オベロンは言う。
「あれだけ鉄道を創りまくっておいて、まだ飽き足らないのか」
ここ数ヶ月の間に、冥神アヌビス様の神官フネフィルの作り出した無限の労働力がタダシ王国にも導入されて、昼夜を問わず王国全土に線路を敷設する作業が進んでいる。
国中に鉄道を敷きまくり、公国まで線路をつなげてしまうと、名工オベロンは鉄道に飽きたのか、仕事の続きを他の鍛冶屋に任せた。
そして、今度は駅舎造りに凝り始めて、王都に中央駅として、赤レンガ造りの東京駅のような立派な駅舎を建造し始めている。
タダシが、東京駅の話をしたからじゃあ造ってみようと本気でやり始めた結果だった。
暇ができたタダシが、赤レンガを作ってみたものの、特に使い道がなかったのでちょうど需要と供給がマッチした形と言える。
面白いし、観光源にもなるだろうけど……。
ドワーフ達はまったく休むことを知らず、本当に働くのが好きなんだなあとタダシは呆れてしまう。
「他人が作った良い物の話を聞けば、自分でもこの手で作って見たいと思うのはドワーフの本能よ」
「船造りも、いつかはやってもいいと思うが、旧帝国……今はヴェルダン民主国だったか。あの国にも、役割を持たせてやってくれ」
タダシ王国は、普通に貿易すると儲けすぎるのだ。
他所からの産物もすぐ自国生産できるようになってしまう、とんでもない農業大国なのだ。
本気でやると、他国は太刀打ちできない。
大陸南部のタダシ王国が鉄道で陸路をつなげていき、大陸北部のヴェルダン民主国が船を作って海路をつなげるなら、ちょうどいい感じになるのではないか。
タダシ達が話しているのを見かけて、空母シナノからヤマモト提督が降りてきた。
「おおタダシ陛下! ちょうど、ご相談したいことがあったところです」
ヤマモト提督によると、大陸西部の海路に、海賊が出没して被害が続出しているという。
占領して間もないアダル魔王国や、アージ魔王国では、いまだタダシに服属していない魔族が出没している。
それらが、大海賊団を組織して輸送にダメージを与えているそうだ。
別に、ヤマモト提督の輸送艦隊は、東側の聖王国の海路を通っていけば退治する必要すらないが……。
「ここは、新しく造ったドラゴン航空母艦シナノの性能を試したく思いますが、いかがでしょうか!」
ヤマモト提督は、新型空母の威力を確かめるついでに、海賊の殲滅をしようというのだ。
軍人の血が騒ぐのだろう。
「そうか、その提案はこちらとしてもよかったな……。海賊の話は、こちらも報告を受けているのだ」
タダシがそう言いかけた時、物陰から魔人族の男が姿を表した。
「タダシ王、それは私から説明しよう」
突如現れた魔人に、ヤマモト提督が警戒する。
「いや、ヤマモト提督。彼は良いんだ」
魔臣ド・ロアは、あえてタダシに敵対して、敵対勢力の情報を流している男である。
タダシに仕えこそしていないが、助けられた借りを返すために、タダシに陰ながら協力している。
「ヤマモト提督。私は、魔臣ド・ロアと申す」
「知っている。魔族でも随一と言われる将軍として、有名だからな」
「ならば、話が早い。ヤマモト提督は、海賊退治と言うが、魔界の海賊は神出鬼没。負けはしないだろうが、全てを叩くのは一筋縄ではいかないぞ」
「ならば、どうする?」
魔臣ド・ロアは、その場で魔界の地図を広げて言う。
「タダシ王。ここに、大海賊団の隠し砦がある」
「海図には、乗っていない島があったのか!」
海賊の話は、すでに魔臣ド・ロアからタダシに報告があったのだ。
いくら暴れ回ったところで、海賊団は遅かれ早かれ、どうせタダシに成敗されるのは目に見えている。
その時に、魔族の被害を最小限に喰い止めたいというのが、魔界の将来を案じる魔臣ド・ロアの願いである。
魔臣ド・ロアは心配して言う。
「ただ、海賊の勢力が急に強まったのは妙だ。今回の話、何やら裏があるかもしれないので注意して行ってくれ」
その言葉に、タダシは少し考えたように唸る。
これまで魔臣ド・ロアにはずっと助けられてきた。
その男が気をつけろというのだから、警戒の必要性はある。
ヤマモト提督は、意気軒昂に言う。
「敵の本拠地さえわかっていれば、叩くのは簡単です!」
タダシは、ヤマモト提督に言った。
「わかった、海賊退治は提督に任せる。しかし、島の制圧は俺に任せてくれ。ちょっとやってみたいことがある」
「承知いたしました!」
いつも通り殲滅ではなく圧倒して、なるべく犠牲少なく服属させたい。
タダシには、その方策が見えていた。
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