第130話「帝国艦隊来襲」

 皇帝フリードリヒは、超弩級戦艦ヤマトの艦橋ブリッジに設えられた玉座で手を組みながら言う。


「無人の野を行くが如しか」


 途中、聖王国の艦隊が阻止に現れたが、超弩級戦艦ヤマトと一千隻を数える帝国艦隊の前には鎧袖一触がいしゅういっしょく

 散り散りとなった聖王国の艦隊の中央を突き抜けて、一路タダシ王国の領海へと入る。


「陛下、前方に敵影がございます」


 皇帝の傍らに立つヤマモト提督が、自ら双眼鏡で確認して言う。

 見る見る大きくなった黒い敵影が、艦橋ブリッジからも多数確認できた。


 ドラゴンに率いられたワイバーン部隊である。

 おそらく先鋒か、偵察の部隊であろう。


 当然ながら、爆撃のための爆弾を抱えていると予想された。

 だがこちらには、そのための対空砲がある。


「ヤマモト提督。新兵器ならば、ドラゴンなど敵ではないのだったな。期待しておるぞ」

「ハッ! 拡散超弩級砲、発射準備!」


 ヤマモト提督の合図で、超弩級砲がシュンシュンシュンシュンと音を立てて青白い光を収束させる。


「提督、発射準備完了しました!」

「よし、皇帝陛下に我らの力をご覧入れよ! 前方の敵ドラゴン群に向けて拡散超弩級砲、発射!」

 

 ドシュウウズゴゴゴゴゴゴオオオオオン!


 青白い閃光が前方の砲門から発射される、そのビームは敵を前にして散弾状に拡散して、分散しているドラゴン群を全て爆散させた。

 凄まじい威力に、発射した海軍士官は、思わずグッと手を握って喜びの声をあげる。


「やったぁああ! し、失礼しました! 敵ドラゴン軍全滅!」


 嬉々として戦況報告する海軍士官が振り返ると、玉座にある皇帝もそれを見て満足げに頷いた。


「見事だ。ヤマモト提督、よくやってくれた」

「なにせ、五百年近く前に封印されていた秘密兵器です。私よりも、ここまで使えるようにしてくれたクルーのみんなを褒めてやってください」


 皇帝が厳かに頷いてから玉座から立ち上がると、海軍士官達は一斉に頭を下げた。


「皆の奮励努力のおかげで空の脅威はなくなった、本当によくやってくれた。帝国海軍は、今この瞬間を持って再び世界最強の艦隊と返り咲いた。いざ、辺獄へんごくに向け全速前進!」


 皇帝フリードリヒのお褒めの言葉に、士気上がる海軍士官達は「よーそろ!」と声を張り上げて突き進む。

 その働きを満足に眺めて、皇帝フリードリヒは再び玉座へと座った。


 そうして、辺獄にあるシンクーの港がその眼に見えてくるかと思ったその時だった。

 ゴゴゴゴッと、不気味な異音が鳴り響いた。


「提督、この音は……」


 皇帝に言われるまでもない、ヤマモト提督が「どうなっている!」と声を張り上げたその時だった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 凄まじい海鳴りとともに、超弩級戦艦ヤマトの目の前に黒い柱のようなものが地中から出現する。

 それは、一本では済まなかった。


 ズシャァ! ズシャァア! ズシャッ! ズシャァ! ズシャァ! ズシャァア!


 次々に、禍々しい黒い柱が海底から出現し、幾重にも折り重なったそれは黒い壁となって帝国艦隊の行く手を遮った。

 あれにぶつかれば、艦隊も損傷しかねない。


「取舵いっぱい! 急速旋回急げぇえええ!」


 突如現れた黒い壁を避けようと、フルスピードで舵を切り、左へと急速旋回する超弩級戦艦ヤマト。

 練度の高い帝国艦隊も慣れたもので、その動きに合わせて綺麗に前方の壁を避けようとした。


 大きく船を傾けながらも、なんとか黒い壁をかわそうとしたその時。


「ダメです! 提督! 前方にも柱ァ!」


 かわした先にも次々に出現する禍々しき黒い柱。


「ならば、柱を破壊するしかない! 拡散超弩級砲、発射準備!」


 この状況でも冷静だったヤマモト提督の合図で、超弩級砲がシュンシュンシュンシュンと音を立てて青白い光を収束させる。


「発射準備完了!」

「よし、あの黒い柱を全て焼き尽くせ! 拡散超弩級砲、発射!」

 

 ドシュウウズゴゴゴゴゴゴオオオオオン!


 至近距離で拡散した青白いビームの帯が黒い柱にぶつかり、ギギギギギギッと耳を突き刺すような轟音とともに、まばゆいプラズマが発生する。

 拡散超弩級砲のビームは、見事に黒い柱を焼き尽くしたかに見えた。


 ドゴンッ! メキメキメキメキッ!


 しかし、嫌な音を立てて、超弩級戦艦ヤマトが大きく揺れて機関を停止する。

 海中の黒い柱までは焼き切れず、残骸に大きく乗り上げて座礁してしまったのだ。


 下から突き上げる凄まじい衝撃で、クルーの多くが投げ出される。

 そのまま船が転覆しなかったのは奇跡であったかもしれない。艦橋ブリッジは大混乱に陥った。


「き、機関停止!」

「一体、何が起こった!」


 皆が大騒ぎして事態を調べに走る中で、いち早く事態を悟った皇帝フリードリヒは玉座の肘掛けをドンッ! と、悔しげに叩きつけた。


「ええい、おのれタダシめ! 海中からの攻撃とは、ぬかったわ!」


     ※※※


 帝国艦隊が黒い壁に囲まれて座礁する少し前。

 海底を、一隻の巨大な潜水艦が進んでいた。


 いやそれはもはや、潜水艦と言うべきではないのかもしれない。

 なぜなら、その巨大なマシンにはタイヤが付いており、海底を疾走していたからだ。


 海底を走るその姿は大きさこそはるかに巨大ではあるが、日本人であれば誰もが一度は見たことがある赤いフォルムの……農業用のトラクターであった。


 海中を行く巨大な赤いトラクター。

 それはまさに、世界を耕転こうてんさせる生産王タダシの名にふさわしいマシン。


「なんという快速! なんというパワー! 海底を自由に走り、耕運し、種を撒く船とは……さすが王様の考えた船じゃな!」


 ドワーフの名工オベロンは、ハイテンションになってトラクターのハンドルをグルグルと回転させながら嬉々として叫ぶ。

 タダシは、これはもう船じゃなくて車だけどなと笑う。


「ハハッ、海中を走るトラクターなんて、ホントにできると俺も思ってなかったけど」


 タダシの自由闊達じゆうかったつなアイデア。

 ドワーフの名工オベロン率いるスタッフの技術力。


 そして、動力源となっているファンタジーすぎる人工遺物アーティファクト、超巨大魔導珠の凄まじい力がこの無茶を可能にした。


「タダシ様、そろそろ帝国の艦隊が頭上に来るそうです!」


 オペレーターを務める、アーシャ、ローラ、ベリーの海エルフ三人娘は、決死の覚悟で偵察任務を終えたドラゴン達からの情報を通達する。

 それにうなずき、タダシも後方のマシンに農業神の加護の神力を全力で込める。


 トラクター後方には、タダシが農業の加護で大量に増やした魔木の種を組み込んだマシンがある。

 オベロンにより開発されたそれは、鋭い爪で海底の土を耕し肥料を地中に埋め込み、同時に種を埋め込む機能も兼ね備えている播種機はしゅきであった。


「よし、イセリナ。酸素を頼めるか」

「はい! 癒やしの神エリシア様、水の中でも大気の恵みを空気の泡バブル・チャーム


 海エルフで最も強い魔力を持つイセリナが、海エルフが海中を泳ぐために使う空気の泡の魔法をかける。

 この魔法があるために潜水艇でも呼吸ができているわけだが、これによって海中でも植物を育てるための酸素も供給できる。


 タダシとイセリナが手を合わせて、後方の機械にフルブーストで神力と魔力を送る。

 それは、一つとなり究極の魔法を完成させる。


「農業の神クロノス様、どうか天まで届くほどの大樹を育てる力をここに、植物超進化アルティメット・グロウブースト!」


 ザシュ! ザシュ! ザシュ!


 鋭い爪で地底に魔木の種が埋め込まれた。

 それらは肥料と空気の力、そしてタダシの究極的とも呼べる農業の加護の神業によって、海底にもかかわらずまたたく間に巨大な大木へと成長していく。


 鋼鉄よりも硬い魔木を育て、帝国艦隊を囲む鉄壁の壁を作ること。

 これこそが、この戦争での被害を最小限にするためにタダシが考え出した秘策だった。


「私達も!」

「力を合わせて!」

「タダシ様!」


 いまやタダシの子を産み、一児の母となったアーシャ、ローラ、ベリーの海エルフ三人娘もタダシに駆け寄って、それぞれに神々から受けた☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆テンスターの加護の力を結集する。

 さらに神力は、フルブーストして巨大な農業用トラクターを走り回される。


 こうして、帝国艦隊を囲むように作られた魔木の壁によってタダシは帝国軍の侵攻を喰い止めることに成功したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る