終章「頂上決戦」
第129話「大陸各地の戦い」
聖王国軍の統帥権を持つ先の聖王ヒエロス・アヴェスターは、高地より包囲殲滅されて崩れ行く帝国軍を眺めて言った。
「勝ったな」
帝国軍の正面攻撃を受ける事となった聖王国である。
温存していた近代兵器を解禁し、聖王国よりも一段階上の兵装を持った帝国軍に最初は苦戦したものの、聖王国軍には大きく勝っている物があった。
圧倒的な食料と物資である。
そのため、持久戦になればなるほど聖王国軍の兵力は増していき、そのことが帝国の将軍の判断を誤らせた。
攻略を焦る敵軍を自国内に引き込んでじっくりと迎撃し、終始有利に戦いを進めることができた聖王国軍の勝利である。
タダシが短期間に育て上げた、
しかし、この戦争はこれだけでは終わらない。
新たな聖女王となったアナスタシアは、先の聖王ヒエロスに声をかける。
「お父様……」
「アナスタシア、何も言わずともよい。後は我々に任せて、お前はタダシ王を助けに行くのだ」
むしろ、戦いはこれからが大事と言える。
帝国軍に無理やり従わされている属国の民兵は、その多くが大海の神ポセイドンと幸運の女神フォルトゥナの信者だ。
それらの神々は、信者を人質に取られた形で従わされており、
これよりさらに帝国軍を打ち破り帝国の属国の民を救出しつくすことで、ようやくこの戦いが世界を救うことに繋がる。
この地の戦いは大事だ。
だが、それを指揮するのは先の聖王ヒエロスと重臣だけでよい。
先の聖王ヒエロスと、聖女王アナスタシア。
創造神アリア様の加護を受けし代行者が二人いることもまた神意であろうと、先の聖王ヒエロスはわかっていた。
「ではお父様、行ってまいります!」
決意を込めてそう言った聖女王アナスタシアは、お付きの月狼族のルナ達と共に連絡用のドラゴンに飛び乗って一路、決戦の地タダシ王国へと飛び立つ。
それを見送って先の聖王ヒエロスは、世界の危機を前に魔族と人族が共に戦う新しい時代が来たのだと改めて思う。
それもまた、神々のお導きであろう。
「ああ、アリア様。どうか我が娘に、このアヴェスター世界に、ご加護があらんことを……」
創造神アリア様により与えられた聖女王アナスタシアの加護は、必ずやタダシ王の役に立つはず。
立派になった愛娘と、世界の救世主たるその夫タダシを信じて、聖王ヒエロスは静かに祈りを捧げるとこの場で自分のできることを成すのだった。
※※※
聖王国に比べると主戦場ですらない自由都市同盟諸国では、もはやまともな戦にすらならなかった。
物量の差に早々に負けを悟った帝国側の都市同盟は、タダシ王国に内通し帝国軍に対して非協力的な態度を取っている。
おかげで、帝国に無理やり従わされている属国の民兵を救い出し、難民として受け入れる計画がスムーズに進んでいる。
いち早くタダシ王国に臣従し、総軍の大将となったテレサ・ナーセル市長は、勝っているからこそ忙しく指示を飛ばしている。
そこに、公国軍を率いて協力していた公王の娘でありタダシの妻であるマチルダが入ってくる。
「テレサ殿、これまでありがとうございました」
「いやいやこちらこそ。公国軍の協力がなければ、ここまでスムーズに勝ちきれませんでした。それも、マチルダ様の卓越した指揮あってのこと」
そう言いながら、テレサはマチルダが
「まだ、こちらでやることも終わってませんが……」
「わかっております、マチルダ様。あとは、私どもにお任せください」
あくまで、こちらでの戦いは陽動に過ぎない。
帝国の本当の狙いが タダシ王国であることはテレサも百も承知。
そして、聖剣
「では、行かせていただきます!」
連絡用のワイバーンに飛び乗ってタダシの元へと駆ける若々しいマチルダを見送りながら、テレサは「あと自分も十年若ければな……」と少し羨ましくも思うのだった。
※※※
アンブロサム魔王国の側でも、戦は順調に進んでいた。
この戦は、そもそも勝つ必要さえないのだ。
享楽にふけるばかりだったアダル魔王国の軍勢は、この外征において士気が低い。
他の魔族と価値観が違いすぎる、腐れアンデッドの集団であるアージ魔王国の軍勢は連携が上手くない。
それに加えて、タダシに借りを返そうとする暗黒の魔王ヴィランに仕えていた筆頭魔人将魔臣ド・ロアが、敵の間に入って統制をかき乱してくれている。
おかげで、戦力が過小なアンブロサム魔王国の軍勢でも上手く受け流せている。
後方の魔都で全体の統括をしている魔王レナのもとに、アンブロサム魔王軍の総大将をやっているオーガ地竜騎兵団長グリゴリがやってくる。
「魔王レナ陛下、あれをご覧ください」
「フジカ達が、やってくれたようですね……」
魔都の港に、魔族の神ディアベル様の信者である難民達を乗せた大量の船団がやってきた。
この戦いの本当の戦術目標は、敵対した魔王国の領地にて人質となっている魔族の神ディアベル様の信者をどれだけ救えるかにあったのだ。
「これで一安心です。レナ様、あとの戦は我らはお任せください」
「すみません……グリゴリ。貴方もタダシ様のところに行きたいでしょうに……」
グリゴリ達オーガ地竜騎兵団とて、最後の決戦に参加したい気持ちもある。
しかし、故郷を守るのも大事な仕事だ。
「どうか、お気遣いなさらず。父のように魔王国を守って戦えるのも騎士としての誉れです」
「そう言っていただけると、助かります」
「タダシ陛下に必要なのは、我らよりも魔王剣
魔王レナを筆頭に、大任を果たしたタダシの妻である女官達が、次々にドラゴンによって決戦の地タダシ王国へと飛んでいく。
その光景を眺めながらグリゴリは、レナ様も成長されて魔王らしくなったなとしみじみと嬉しく思い、長槍をドンと突き立てると故郷を守る戦いへと身を投じるのであった。
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