第二章「世界最終戦争」
第117話「アラフ砂漠の大開拓」
巨大な岩山の前に立ったタダシは、精神を研ぎ澄ませてすっと鍬を一閃する。
ジャキンッ! ジャキン! ジャキジャキジャキジャキンッ!
「おおー!」
「生産王様の奇跡ツノ!」
作業を手伝っているツノトカゲ族が、驚愕の叫びを上げた。
大きな岩山が、一瞬にして綺麗なブロック状に切断されたのだ。
あとは、これもまたタダシが生やしたヒノキの木の畑から木材を切り出して組み建てれば、立派な建物が建ってしまうのだ。
聖王国からは、食料と交換にひっきりなしに資材と人員を運ぶ猫耳商会の幌馬車が行き交い、タダシが地形改善して交通の要衝となったアラフ砂漠の中央に一万人規模の食糧生産都市が出来上がっていた。
「うわわ! ドラゴンだツノ!」
「ハハハッ、何も驚くことはないツノ。あれはタダシ王に従うドラゴンだそうだツノ」
「ほんとかツノ?」
「それどころか、生産王様はフェンリルという巨大な魔獣も乗り物にしてたそうだツノ」
タダシ王国は、空中輸送にドラゴンやワイバーンを使うので驚きも起こったりしたが、それもタダシ王の奇跡と知り喜びを持って迎えられる。
行き交う幌馬車を見て、人口が増えた分の畑が要るなと行きがけの駄賃とばかりにタダシが鍬を振るう。
すると、ズババババッと土が裏返って畑ができる。
そこにタダシが小麦の種を蒔くと、即座にニョキッと芽が出る。
タダシの後についていく農業チームが、畑に水と肥料をやり柵を立てて次々に農場へと変えていく。
農業神の加護がパワーアップしたことにより、半日もしないうちにこれで穀物が収穫できる。
こんな調子で、この街では食糧生産が倍増し続けているのだ。
まさに奇跡の
アラフ砂漠に隠れ住んでいた
「みんな元気でやってるかい?」
今日の作業を終えて、新しく作った農業都市の広場にタダシがやってくると、アラフ砂漠の全ての
そのまま酒が振る舞われて、ささやかな酒宴となった。
タダシは、この土地で採れる一番のごちそうであるナツメヤシの実や、サボテンのステーキなど珍しい料理をいただいて舌鼓を打つ。
特に、乾燥地帯でも生えるソルガム(
この地でしか手に入らない新しい食材を入手できたことは、タダシにとっても大きな収穫であった。
情けは人の為ならずとはよく言ったもので、人のために動けばこういう恩恵もあるものなのだ。
ここに来てよかったなとタダシは思い、
一番数の多いツノトカゲ族の族長が、喜び勇んで話す。
「なんとお礼を言ってよいやら、タダシ様のおかげでわしらは救われましたツノ!」
次に数の多い、牛のような二本ツノの生えたモロクトカゲ族の族長も言う。
「最初に聞いた時は耳を疑いましたが、この様なことがホントに起こるとはと驚いておりますモロ」
最後に身体が黒々としたドクトカゲ族の族長が言う。
「まさに、生産王様は我らの救世主ドク!」
この三種の
ちなみに、族長達は長く生きている
いい機会だと思って、タダシは言う。
「俺は、この土地を聖王国より正式に譲り受けた。そこで、ここに
そう言われて、
「ありがたいお言葉ですが、我々はたかだか三千人程度。ここには、他に多くの獣人達も移り棲んでおり我らだけの国というわけにもいきますまいツノ」
ツノトカゲ族の族長の言う通りだった。
タダシが農業都市を建てるというので、聖王国軍もこの地で再編成しようと次々に移住してきているのだ。
街の建設の役にも立つし、聖王国軍もあらたに増強できて一石二鳥となっているが、すでに
「タダシ様のお膝元を離れるのも不安モロ。我々も、ぜひタダシ王国の民として欲しいモロ」
「この街の各種族の代表を集めて、こうして話し合って自治をするまではできると思うドク」
なるほどとタダシは頷く。
環境の変化にもみんなついてこれていない。
みんなバラバラだったのを集めて生活できるようにはしてみたが、いきなり建国するのも時期尚早だったか。
「では、しばらくは自治区として、みんなが独立したくなったらまた相談することにしよう」
「ハハッ!」
あと、もう一つの懸念事項がある。
砂漠の
タダシが軍を作るといえば、喜んで協力したいと軍事教練にも参加している。
移り住んで来た獣人達も上手くやっているとも聞くが、聖王国の人間とは
「聖王国の人間との融和はどうだろうか」
「それは、少し諍いもありますツノ」
言いよどむツノトカゲ族の族長に変わって、
「聖王国の騎士が、我らを獣人よりもさらに下等な魔族だと言いやがったドク!」
「これ、タダシ陛下の前でよさぬかツノ」
「しかしドク!」
タダシは、聖姫アナスタシアに、「どういうことなんだ」と聞く。
言いにくそうにしてる聖姫アナスタシアの代わりに、商人賢者のシンクーがすかさず言う。
「神聖騎士団が各地で分断工作をやってるニャー! 白騎士だけじゃなく聖王国の保守派は他の街でも募兵の邪魔もやってるニャ。聖姫様、隠してもしょうがないニャよ」
「……そうなのです。お恥ずかしい限りですが、そのような
タダシは、聖姫アナスタシアに優しく言う。
「教えてくれてよかったよ。大きな国には、いろんな考えの人がいるからね。もともと、すぐに全部上手く行くとは思ってなかった」
「タダシ様! この聖王国は私の国です。シンクー様の知恵も借りて、この問題は私がなんとかしてみせます!」
タダシは期待していると頷いて、今度は
「このように、聖王国の側も事情がある。だが、こうして聖姫アナスタシアも過去を悔いて仲良くしたいと言ってる。そこも含めて、
「お話はよく理解したしましたツノ。タダシ様の意を汲んで、なんとか仲間を説得してみますツノ」
「タダシ陛下の救いがなければ、砂漠に埋もれていた我らモロ。その陛下がそう言われるのだから、従うまでモロ。なあドクトカゲ?」
「……生産王様も人間ドク。過去のことは水に流すことは難しいドクが、人間全てが悪いわけではないと知ってるドク。恨みは飲み込んで、ともにがんばってみるドク」
タダシもタダシなりの考えというものがあるのだ。
この農業都市を、タダシはハーモニアと名付けた。
その思いは、協調と平和である。
人には様々な思いがあり、種族や風習の違いはある。
それでも、ともに協力して新しい街を作る中で徐々に相互理解を深めて
口当たりよく爽やかな味のソルガムの発泡酒を呑みながら、砂漠に沈む美しい夕日を眺めて、明日も頑張ろうと思うのだった。
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