第118話「抵抗する保守派」
聖王国の北方、帝国との国境にもほど近いダカラン大司祭領の城。
ここは、聖姫アナスタシアの改革に抵抗する保守派の巣窟となっている。
「聞いたかダカラン大司教! あいつらは、また軍を増やしよったそうだぞ!」
神聖騎士団団長マズローは、慌ててダカラン大司祭の元にやってきた。
ダカラン大司祭は忌々しげに応える。
「報告は受けておる。まったく、困ったことになった」
マズロー率いる神聖騎士団は、聖姫アナスタシアの改革に抵抗して各地で募兵を妨害したりしていたが、それは大火にコップの水をかけるが如く、何の効果もなかった。
なにせ貧しい平民やこれまで差別されていた獣人達まで聖王国の兵隊として迎えるというのだ。
新兵の訓練など時間がかかりそうなものだが、タダシ王国が持ち込んだ銃や大砲を中心として軍を編成すれば、問題ないという。
平民上がりの兵士など役に立つかとバカにしてやろうと行ってみたが、マズロー自身もプロの軍人であり一軍を指揮するベテランの上級士官である。
冷静に見て、新戦法を使った新しい兵団が戦力となることを認めざるを得なかった。
むしろ、タダシ達は工兵という土木作業ができる兵科を重視しており、そういう生活の技を持っている平民の方が良いというのだ。
プロの軍人として、それは有効な戦術であることを認めざるを得ないが、それでも……。
「これでは、我らの騎士の誇りはどうなる!」
「我ら教会貴族とて思いは同じよ。聖姫様はなんと、魔族が作った街で結婚式と聖王の即位式をやるというのだ。このままでは、もはや我らの立場がないわ」
聖姫アナスタシアは、帝国への牽制としてタダシ王の結婚と聖王への即位を早めるという。
そうなれば、もはや保守派に勝ち目はない。
「ならば、やるか!」
「うむ……」
「ダカラン大司祭。保守派のトップであるお前が決断しろ! 立つならば、今しかないのだぞ!」
タダシ王の作ったアラフ砂漠に作った農業都市ハーモニアで編制された軍勢は、この短期間にもはや三万に達しているという。
それも、毎日増え続けるのだ。
マズロー達保守派の息のかかっているのは先の戦いでの聖王国軍の残存だが、その勢力が逆転するのも目前であった。
「マズロー、暗黒騎士グレイブの持ってきた例の丸薬を使うのか?」
帝国に寝返ったという暗黒騎士グレイブが、怪しげな丸薬を届けてきたのだ。
それを使えば、暗黒神ヤルダバオトの加護を得られて凄まじいパワーが得られるという。
「ああ、暗黒神ヤルダバオトの力が得られるというこの丸薬か。こんなものは、こうだ!」
しかし、マズロー騎士団長はその丸薬を投げ捨てた。
「マズロー、いいのか?」
ダカラン大司祭は、新しい加護の力や、帝国のバックアップなくしては勝てるものも勝てないのではないかと心配する。
しかし、マズロー騎士団長は涙を流しながら力強く叫ぶ。
「我らは、あいつのような裏切り者ではないぞ! 聖王陛下に目を覚ましていただくために挙兵するのだ!」
「そ、そうか……」
このまま座して没落していくのを待つのか、帝国の側につくのか。
そんなことを思い悩んでいたダカラン大司祭にとって、その言葉は目から鱗が落ちるような思いであった。
「これは決して裏切りではない。結婚式をぶち壊して、聖姫様にも目を覚ましていただこう。そして、その上で正しい聖王国のあり方を取り戻すのだ!」
「そうだ、それだ! 我らが求めているのは……よし、私は立つぞマズロー!」
こうして、神聖騎士団と教会貴族の保守派がタッグを組んでのクーデター計画が練られるのだった。
※※※
その会議の様子を、カーテンの後ろに潜み
「チッ、何が誇りだ。愚かで頭の固い白騎士に
そうつぶやくのは、暗黒騎士グレイブであった。
「まあいいか。クックックッ……どっちにしろ、結果は変わらん」
裏切れば、帝国での地位を約束するなど大嘘だった。
暗黒騎士として汚れ仕事をこなしてきたグレイブを今日まで蔑んできた白騎士や教会貴族どもなど、最初から生かすつもりなどない。
保守派も改革派も関係ない。
暗黒騎士グレイブの実力を認めなかった連中は、全員まとめて潰すのだ。
聖王国も、帝国も、みんなみんな俺の手のひらで踊るがいい!
そうして最後に、自分こそが聖王国の主として君臨してやる。
暗黒騎士グレイブがうちに秘めた暗い感情を燃やすと、その眼は怪しく輝き、腕の暗黒神ヤルダバオトの禍々しき加護の星
半生を闇に生きてきた自分こそが、この世界を統べる暗黒神ヤルダバオトの代行者としてふさわしい。
運命のイタズラとはいえここまで生き残り、限界まで暗黒神の加護の力を得たが故に、たかが一介の暗殺者に過ぎなかった暗黒騎士グレイブの野望はそこまで大きくなっていた。
「せいぜい派手に潰し合うがいい。俺の未来の栄光ために……」
そうつぶやいて、再び暗黒騎士グレイブは暗闇へと消えた。
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