第115話「セブンティースター」

 大陸を二分する世界最終戦争ラグナロクに備えなければならない。

 作戦会議をかねた神々の酒宴もたけなわとなったが、創造神アリア様は最後にタダシの手を取っていった。


「全ての因果は、私の罪です。タダシ、貴方に全てをお任せすることになり心苦しいことこの上ない。せめて、私達にできる最大の加護を貴方達に与えましょう」


 いつもは慎重論を唱える知恵の神ミヤ様ですら、反対しなかった。

 それどころか、それに大いに賛同して言う。


「もはや世界最終戦争ラグナロクともなれば、総力戦や! 敵は最大限の加護を与えてくるはず。ここは大奮発して、ウチらもタダシや自分の信者に最大限の☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆テンスターを授けようやないか!」


 それぞれの信者に最大の加護を与える神々。

 そして、主戦力となるタダシには、なんと創世神アリアと六神の加護が重なる七十個にも及ぶ加護が与えられることになる。


 もはや手の甲だけでは足りず、☆を付ける場所にも困るくらいの前代未聞の加護だ。


「一つお願いがあるのですが……」


 タダシの提案に農業の神クロノス様は驚く。


「なんと! 追加で与えられる加護を、全てを農業神の加護にしてくれというのか?」

「はい」


「そう言ってもらえてワシは嬉しい。しかし、ワシの加護は戦闘向きではないと思うのじゃが……」


 自分の加護に自信がない農業の神クロノス様は迷っている。

 その背中を、知恵の神ミヤ様がぽんと叩いて言った。


「ウチはこの話乗ったわ。ウチの分の加護も、クロノスの爺さんに預けたで、みんなもそれでええな!」


 そう言って、加護の力をクロノス様に託してくれる。


「ミヤ、本当にワシの加護で大丈夫じゃろか?」

「これまでの戦い、タダシは農業の力で勝ってきてるんや。タダシは爺さんの信徒なんやろ。そんな自信のないことでどうするんや」


 これまで散々言い争いをしてきた知恵の神ミヤの意外な言葉に、農業の神クロノス様も涙ぐんで言う。


「なんとありがたいことを言ってくれるんじゃ。ミヤは、いちいち神力を出し惜しみするケチンボなだけの神じゃなかったんじゃのう……」

「誰がケチンボや! それ以上言ったら、ウチの加護の力返してもらうぞ!」


 そう怒るミヤに神々は大いに笑い、皆が農業の神クロノス様に加護の力を預けて、タダシは前代未聞の加護の力を与えられることとなった。

 農業の神クロノス様と固く握手したタダシは言う。


「クロノス様、俺は大地を豊かにする農業の力こそ、世界を平和に導くと信じてます」

「タダシまで……。本当に嬉しいことを言ってくれるのう! よし、ワシらの願い。お前に託すぞ!」


 その瞬間、その場は七色の輝きに包まれた。

 農業の神クロノス様から、タダシに莫大な量の神々の加護の力が託された。


「神様達、行っちゃいましたね……」


 そう言う聖姫アナスタシアに、神々の加護を受けまくって光り輝いているタダシはその手に受けた加護の力を握りしめる。


「ああ、俺達もこれから頑張らなきゃならない」


 その後、各国首脳の間でも相談が持たれて、各地で世界最終戦争ラグナロクに備えて動くこととなった。

 一番張り切っているのが、魔族の神を奉ずるサキュバス、シスターバンクシアである。


「この戦いは神々の戦いでもあります。早速、魔王国より大理石を切り出し、戦いの中心となるタダシ王国の中心に神々を讃える神殿を造りましょう」


 聖姫アナスタシアもそれに声を合わせる。


「バンクシアさん。神殿の建造であれば、我が国の大理石と技術者も使ってください。よろしいですね、お父様?」


 その言葉に聖王ヒエロスも、一も二もなく頷き言う。


「神力による戦いとなれば、我ら聖王家の出番だ。あらゆる協力を惜しまんぞ。余も、神々への祈りに、この身を捧げる覚悟はできている」


 それに続いて、アンブロサム魔王国の魔王レナが言う。


「我々、アンブロサム魔王国も早速対処に出ようかと思います」


 商人賢者のシンクーが尋ねる。


「レナ姫様、じゃなかった新しい魔王様は、どう動くつもりニャー」

「簡単なことです。魔族の神ディアベル様の信徒が人質に取られているというなら、それを奪い返すまでのこと!」


 アダル魔王国とアージ魔王国の二国から、信徒を亡命させようというのだ。

 以前の戦いで、タダシ王国にディアベル様を奉じる魔族の難民を受け入れた。


 それと同じことをやるつもりなのだ。

 シンクーにもそれはなかなかいい作戦に思えたが、腕を組んで猫の尻尾をくねくねさせながら言う。


「うーん。それならいっそのこと、こちらから先制攻撃を仕掛けてみてはどうかニャー」


 帝国軍の威信は崩れ、属領には動揺が広がっているという。

 今ならこっちの方が有利だ。


 向こうの神々には、信徒を人質に取られて仕方なく従っている神もいる。

 それならば、避難民の保護を名目として一大攻勢を仕掛けるという策もなくはない。


 しかし、それにタダシは反対する。


「それはダメだシンクー。こちらが望んでいるのは、あくまで平和なんだ。こちらから、乱を起こすような真似はできない」


 そう反論されるのを予想してもいたシンクーは、嬉しそうに言う。


「さすがはタダシ陛下ニャ! それでこそ大義が立つというものニャー。タダシ陛下の平和を望む意思は民にも伝わるだろうニャー」

「うん。こちらからやるのは難民の受け入れだけにしておこう。あくまでも平和を勝ち取るために、みんなの知恵を貸して欲しい」


 シンクーは言う。


「ただ、少なくとも北の帝国と国境を接している聖王国の戦力強化は必要ニャぞ」

「それは、そうだね」


 タダシは、テーブルの上にある聖王国の地図を見つめて何やら考えている。


「タダシ陛下は、神々に農業の力を願ったニャ。ということは、もう心に決めた腹案はあるんじゃないかニャ?」

「シンクーにはかなわないな。もちろん、俺が考えている作戦はある」


 そう言って、タダシは聖王国の中央を指差す。


「ここは、アラフ砂漠かニャ?」


 聖姫アナスタシアが言う。


「タダシ様、ここは一応聖王国の領地ということにはなってますが……」


 険しい渓谷のある未開の砂漠であり、聖王国の民は近づかない地域だ。

 聖王国に迫害されて追いやられた、魔族である蜥蜴人リザードマンが少数隠れ住むだけの不毛の土地だという。


「うん、どういう場所かはすでに聞いている。この土地を俺達にもらえないだろうか」

「聖王国にとっては無用の地です。もちろんそれはかまいません」


 聖姫アナスタシアがそう言うのを聞いて、タダシは笑顔で言う。


「それは良かった。現地に住んでいるという蜥蜴人リザードマン達とも協力して、ここに豊かな農業都市が作れたら聖王国の全てに食べ物を届けることができると思わないか?」

「それは、大変良いお考えかと!」


 海岸沿いの都市には、食糧生産が豊かなタダシ王国から食糧を送ることもできるが、輸送手段の乏しい内地においてはそうではない。

 神々の加護の力でアラフ砂漠を大開拓することができれば、聖王国の国力が何倍にも強くなるに違いない。


 久々に腕がなると、タダシは手に持った魔鋼鉄のくわを握りしめた。

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