第71話「夜の生産王無双!」

 結論から先に言おう。

 一晩で百四人、本当に出来てしまった。


「嘘だろ……」


 しかし、何度見返しても最後に抱かれたフジカがベッドに沈んでいる。


「タダシ様、お疲れ様でした。お疲れでしょう、朝食の用意出来てますよ」


 エプロン姿のマールが、にこやかに頭を下げる。

 窓の外は、まだ薄暗い。


「まだ早朝だよな、我ながらどうやったんだ。自分が怖い」


 流れ作業的に一気にやったわけではない。

 略式とはいえ、手を出したらちゃんと結婚するというルールは守っているので、一人ひとりちゃんと記憶している。


 最初は、金髪のショートカットの活発そうな若い女の子だった。


「カゲツキで~す。フジカ様直属の諜報チーム所属です」

「諜報担当なのに軽いノリなんだな」


「あれ、もっとしっとりした方がタダシ様のお好みでしたか?」

「素でいいよ、素で」


「こっちの方が何かと便利なんですよ」

「なるほど、話しやすいから情報集めにはいいかもな」


「アハハ、お話ばっかりも何なので、こちらの方もよろしくおねがいしますね。王様♥」


 そう言って、百合の花を渡されてタダシは結婚指輪を渡して……。


     ※※※


 二人目は、艷やかな黒髪の女の子だった。綺麗なのだが、少し内気そうな印象だ。


「エリナです。タダシ様に命を助けていただきましたので、全てを捧げたいと思います。担当は経理です」

「うん、よろしく。君はもうちょっと軽めでいいかもしれないね」


 あと前髪が長すぎるので、もうちょっと短くカットした方が良いかもしれない。


「すみません。私、暗いですよね。よく言われます……」

「あー、いやそんなことない。自然でいいよ!」


「ありがとうございます。そう言っていただけると、気持ちが楽になります。まったくこういう経験ないんですが、大丈夫でしょうか!」

「大丈夫だよ。楽にしてくれれば」


 百合の花を手渡されてからはもうこちらのされるがままだったが、それはそれで初々しくてよかった。


     ※※※


 三人目は、細身の子が多い吸血鬼の女官には珍しいぽっちゃりとした健康的な子だった。


「アマミツです。おやつのつまみ食い担当です」

「そんな仕事があるのか」


「やだ、冗談ですよタダシ様。主に後方支援と情報分析担当してます」

「アナリストみたいな仕事かな?」


 魔王の王宮の業務をこなしていた吸血鬼族の女官たちは、役割も細分化されていて先進的だ。

 タダシ王国に不足していた人材なので、ものすごい拾い物だったかもしれない。


「頭脳労働なのでお菓子ばっかり食べてます。基本部屋にこもってのお仕事なので、あんまり運動しないですし、太っちゃいますよね」

「なるほど、それでつまみ食いか」


「私がタダシ様の上に乗ったら重いかもしれませんね」

「いや、アマミツちゃんくらい軽い軽い」


 伊達に神様に強化された肉体ではない。

 程よい荷重は心地よいくらいだ。


「きゃ、タダシ様たくましい。じゃあ、よろしくおねがいします」


 ……と、そんな感じで百四人目のフジカまで、全部記憶がある。

 体感時間では、一人ひとりと何時間もかけてやっているのに、なんで夜が明ける前に終わっているんだ!?


 時空が歪んでいるとしか思えない。

 これも農業神の加護☆☆☆☆☆☆☆セブンスターのおかげなのか?


「タダシ様。今日は、クロワッサンを焼いてみたんですよ。目玉焼きには塩コショウでよかったんですよね」

「ああ、ありがとう。好みの味だよ」


 俺達が朝食を食べていると、ツヤツヤした顔のフジカが起き上がってきた。


「あら、フジカさん凄いですね。もう起きられるんですか!」


 タダシを相手にすると、初回はみんな精も根も尽き果ててぐったりして半日は起き上がれないのにとマールは驚く。


「私にも元魔王の侍従長の意地がありますので、目玉焼きいただけますか、私はソースで」


 フジカも、定番の朝ご飯をバクバク食べている。


「なんか、こうしてみんなでご飯食べてると不思議な感じだな」


 今が戦争中とは思えないほど平穏な日常だ。

 フジカは言う。


「タダシ様、カンバル諸島経由で亡命した魔族が続々とこちらに到着しております。魔教会のシスター様も、程なく王城にこられると思います」

「わかった、丁重に迎えないとな」


 神力が衰えて地上に顕現けんげんできなくなっている魔族の神ディアベル様の復活の鍵を握っている重要人物だ。

 実りのある会見になるといいのだが……。


 タダシがそんな事を考えていると、フジカはマールと何やら相談している。


「マール様は、あのタダシ様の暴走機関をどうやって一人で抑えてらっしゃったんですか?」

「コツがあるのよ。後でフジカさんにも教えておくわね」


「助かります」

「こちらこそ助かるわ。みんなまだ若いから、心もとなくて……。私が懐妊して退場したら、後宮の抑えができるのはフジカさんだけでしょうね」


「実はそう思って最後に回してもらったのです。まずはじっくりとけんに回ろうかと思いまして」

「できるわね」


 この会話、俺が聞いてていいものだろうかなあと思いつつ、タダシはむしゃむしゃとクロワッサンを頬張るのだった。

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