第70話「後宮が一気に十倍に」
タダシにはマールの連れ子のプティもいるので厳密にはもう父親ではあるのだが、イセリナに実子が産まれるとなるとまた違うものだ。
「そ、そうか」
「あのすみません。こんな時に」
「いや、マールの言う通りだイセリナ。どんな時だってめでたいものはめでたい! よくやってくれた!」
「は、はい」
初めての経験なので、タダシもイセリナにどう言ってやればいいか少し迷ったのだが、褒めるで正解だったようだ。
そのあたり、それとなくマールが誘導してくれているので助かる。
やることをやっているのだからいずれ子供はできると思っていたが、実際にそうなってみると感慨深いものがある。
「私達も、イセリナ様が最初に懐妊してくれてホッとしてます。これもイセリナ様に一番に
マールがそんなことを言っている。
なんか妙な褒められ方なので、タダシは笑ってしまう。
「いや、それ俺のおかげなのか。うーむ、まあそうか」
タダシとしては序列は特に決めてないつもりなのだが、島の女王であるイセリナが最初にというのはみんな何となく思っていたそうだ。
タダシがそういう風にしてくれたのを、年長者として後宮を取り仕切っているマールは喜んでいる。
「タダシ様、この機会にフジカさん達を後宮に入れましょう」
「またその話か、妻はすでに九人もいる。マチルダとも結婚する予定だから、これ以上は……待て、達ってなんだ?」
フジカが、タダシの前に跪く。
「それについては私からお話させてください。タダシ様の血を一度味わってしまえば、もう他の男とは結婚できません。いっそのこと、タダシ様の血を吸った吸血鬼族の女官は全て後宮で面倒見ていただければと」
「いや、待て待て……」
血を吸わせた女官って、百人単位だろ!
「私を含めて、妙齢の女官が百と四人です。あ、レナ姫様はタダシ様が成人までは手を出さないとのことでしたので、数に入ってないのでご心配なく」
「いや、百人超えてるのは無理があるだろ。常識的に考えて……」
タダシの常識が通用しない世界だとは思っていたが、これほどとは思わなかった。
「しかし、みんなを差し置いて私だけがタダシ様の寵愛を受けるなどと!」
まず、フジカがしれっと後宮入り確定になっているのがおかしい。
確か上手くかわしたはずだったのだが、いやそれどころの話ではないか。
「フジカ、ちょっと待とうか。マール、これは一体どういうことだ……」
「タダシ様のお種はお強いです。イセリナ様が懐妊されたのですから、私達もいずれ懐妊するでしょう。ですから、大幅な増員が必要です」
「だからって、一気に百四人追加ってないだろ! 百歩譲ってフジカはいいよ、まさか血を吸わせた吸血鬼族の女官全員と言われるとは思わなかった」
自分は後宮入り確定だと聞いて、フジカが嬉しそうな顔をする。
言ってしまってからタダシはハッとしたがもう遅い。
マールは真剣な顔で懇願する。
「それくらいの人員が必要だと私は考えます。タダシ様は強すぎます、現状タダシ様の余剰分は私が全部受け入れてるのですが、もう限界です……」
「それは、その……迷惑かけちゃってるけども」
別のことをしている時は問題ないのだが、一度盛り上がってしまうと自分でも止まらない状態になってしまうのだ。
夜の生産王モードは、タダシが神様からもらった健全な身体の副作用みたいなものだ。
さらにマールは言い募る。
「タダシ様、もう限界ですよ。この前なんか、プティにお母さんばっかりお父さんとプロレスしてズルい、私もしたいと強請られまして」
「プティにバレちゃってるのかよ! というか、プロレスってこの世界にあるの?」
転生者が影響を与えてる世界だから、プロレスの興行ぐらいあるのかもしれない。
やたら武闘ばっかり盛んな世界だしな。
「タダシ様、問題はそっちじゃないです」
「そ、そうだよなあ。プティにまで、そんなことを言われる状態はマズい……」
マールに負担をかけすぎているというのも、自覚があるだけに反論できない。
「そこで一気に百四人追加です」
「なんでそうなるんだよ。フジカとマチルダだけでいいだろ」
「もう一人や二人入れて、どうにかなる状態じゃないんですよ!」
「いやでも、百四人はないだろ」
「タダシ様なら、きっと一晩で百四人としちゃえますよ。それくらい居ないと、とてもカバーしきれないんです」
真面目な顔でマールが言うので、これにはタダシが驚く。
あまりにあまりな話なので、さすがに百四人は冗談だと思ってたのだ。
「いや、でも常識的に考えて百四人って……。一晩で百四人はさすがにないだろ。体力的な問題がなかったとしても、時間とか物理的に考えて無理だろ」
「タダシ様は時空を超えます。本当に自覚ないんですか?」
マールにそう言われると、タダシは「むむむ……」と唸ってしまう。
盛り上がっちゃうと記憶が飛ぶから、そんなわけないとも言い難い。
「じゃあこうしましょうタダシ様。とりあえず、仮にでいいから吸血鬼妃百四人と結婚してしまいましょう」
「それ仮にしちゃうものなの?」
「一晩試してみればいいではありませんか。仮にタダシ様の手に余る、多すぎるというのであれば誰も文句は申しません」
「その挑戦は受けなきゃダメなのか、プロレス的に?」
タダシがそう言うと、マールがニッコリと笑って頷く。
「はい、そうしてくださると本当に助かります。私もたっぷりとご寵愛いただいておりますから、いつ懐妊してもおかしくないので、善は急げで今晩からやってみましょう」
マールにそう言われるとタダシは弱いのだ。
「……うーん、わかった!」
タダシが唸るように頷くと、フジカたち吸血鬼の女官が一斉に華やいだ声を出した。
女官を代表してフジカが、恭しく頭を垂れた。
「タダシ様ありがとうございます!」
「お礼を言われるのはまだ早いぞフジカ。実際、百四人は無理に決まってるから試すだけだ!」
フジカは、微笑んで答える。
「では、私は一番最後でいいですよ。夜の生産王たるタダシ様なら、百四人全員を相手にしても余裕だと私も確信しております」
だから何なんだよその信頼は。
「まあいいか。みんながそれでいいんなら、俺だって構わないんだが……」
実際には絶対無理なはずだから、良いところで止めてしまえばいいだけだ。
いくらなんでも百四人はないだろうと思いつつ、タダシは百人乗っても大丈夫な王城のキングベッドへと向かうのだった。
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