第31話「夜の最強伝説」
結局その日は、夕方までベッドから出なかった。
タダシがやろうと思えば水分補給はその場でできるので、外に出る必要はない。
マールに教えられた通りにタダシは一生懸命やったつもりであるのだが、あれほど体力のあったシップがベッドに倒れ込んだまま死んだように眠っている。
「なあマール。俺のやり方っておかしかったのか」
ちゃんとできたつもりなのだが、眼を泳がせて、少し考えて言う。
「いえ、なんと申し上げたらいいのか」
「まずかったなら言ってくれ」
「まずいといいますか、良すぎたといいますか。タダシ様は危険です」
「え……」
どういう意味だ。
「私も亡くなった夫しか知らないので比較対象がそんなにあるわけではないのですが、獣人の荒々しい戦士と比べてもタダシ様は凄いです」
「そんな実感はまったくないんだが」
「腰が抜けるかと思いましたよ。全然終わらないんですもん。そりゃシップさんがベッドに沈みますよ!」
マールがちょっと涙目になっている。
「すまん。優しくやったつもりなんだが、我慢しすぎてたからなのかな」
「いや、優しかったですよ。でも、そういうレベルじゃないんです。そもそもなんなんですか、あの全身にビリビリって雷みたいに快楽が走る必殺技みたいなの!」
「必殺技なんて使った覚えはないんだが」
「と、ともかく、タダシ様はご自分が危険だということを自覚してください。下手したら相手を殺しかねないですよ!」
「あ、ああ。気をつけるよ」
「気をつけるとか、そういうことで済む話じゃないんです。七人でも回しきれないかもしれない、タダシ様は早急に新しい妻を
「ええー」
大げさすぎだろう。
そこに、イセリナたちがやってくる。
「タダシ様。新しい
「いつの間に建てたんだ」
「だってあそこ普通の平屋ですし、あのベッドでも王の寝床としては手狭ですからね。今度は、もっと広い建物を建てて十人でも一緒に眠れるほどの大きな柔らかいベッドを
「ありがとう」
今の家でも十分だと思うのだが、すでに作ってしまったことだし好意は受け取っておこう。
「それであの……」
イセリナが頬を赤らめてモジモジとしながら言う。
「なんだい?」
「タダシ様は、初めては二人でしたいとおっしゃってましたよね。それでその、次は私と二人で……」
イセリナが全部言い終える前に、その両肩にバシン! と手を乗せてマールが叫んだ。
「大変不敬ながら、死ぬつもりですかイセリナ様!」
「ええーなんでですか!」
「イセリナ。マールが大げさすぎなんだよ」
「大げさじゃありませんよ! ビギナーのイセリナ様たちは、一気に五人でちょうどいいと思います」
「いや、一気でって……。それは俺が困るぞ」
「じゃあ、限界が来たと思ったらギブアップしていただいて、順番に
「わかったそうしよう」
タダシも、確かに昨晩はちょっとやりすぎてしまったが、凄く我慢していた結果だったので本日はセーブできると思っていた……はずだった。
※※※
十人も一緒に眠れるような新しい巨大なキングベッドに、イセリナ、リサ、アーシャ、ローラ、ベリーのエルフ五人娘が沈んでいる。
部屋の外で待機していたマールは言う。
「ほら、だから言ったじゃないですか!」
「あ、ああ……」
こうもセーブが効かなくなるとは自分でも思わなかった。
農業神の加護
一度やりだすと止まらない感じがある。
クロノス様が結婚式にそのようなことを言っていたが、まさか子孫繁栄にも農業神の加護は効く?
だとすると、農業神の加護
「私一人で耐えられるかしら。体力のありそうな、リサさんやシップさんに経験を積んでもらって……」
「キツイなら俺が我慢したら良いと思うんだが」
「それは絶対ダメです。思ったんですが、これまでずっと溜め込まれていたことが良くなかったんじゃないでしょうか」
「そうなのかな、自覚はないんだが」
「相手を増やすのは無理なんでしょうか。タダシ様と
「……それはダメだ」
「わかりました。ここは私が頑張ります」
「無理はするなよ」
そう言うと、マールは笑い出した。
「それをタダシ様がおっしゃられるんですね。王の愛を一身に受けるというのも光栄なことです。なんとか頑張ってみます」
「俺も無理はさせないようにするからな……」
まさかこんなことになろうとは、思いもよらなかったタダシである。
そんなこんながありつつ、神を降ろしたタダシの伝説はカンバル諸島の方でも評判を呼び、移住者が殺到して浜辺にもたくさん漁村ができて、タダシの王国の人口は増加の一途をたどる。
そうして、そうなればカンバル諸島を管理するフロントライン公国の上層部にも報告が上がらないはずもなかった。
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