第30話「初夜の会話」

 結婚式も滞りなく終わった深夜。

 いや、祭りが盛り上がってしまって神様が帰るまで付き合っていたら、深夜というよりそろそろ明け方の時刻になってしまった。


 ともかく結婚式の夜はこれでは終わらない。

 寝室に帰ると、妻となった七人に囲まれてタダシはモジモジとしていた。


 四人でも余裕のキングベッドとは言え、タダシも含めて八人ではかなり手狭である。


「今日はみんな疲れただろうから、大人しく寝るというのはどうかな」

「却下ですね」


 代表してイセリナが言うのだが、他の五人もうんうんと頷いている。

 おかしい、王様なのに意見が通らない。


 こういうのは男の意見は通らないようだ。

 順番について、あーでもないこーでもないと相談している。


 最初は地位の高いイセリナが会話をリードしていたのだが、すでに子供も一人いるマールの意見が強くなってきた。


「タダシ様は、経験はございますか」


 ここで、マールから急にタダシに質問が飛んできてびっくりする。


「ええー、俺か? 俺はうーんそのなんというか」


 ここで無いと即答できないのが男のプライドだ。

 あれは経験に入れるべきなのか?


 それともあれは?

 思い起こしていくと、本当に女性にあまり縁がなかった人生を送ってきたものだ。


「私以外に経験者がいません。未経験者同士相手だとトラブルが起こることもあります。これは、結構大事なことなので」

「あーわかった! あんまりないと思ってくれていいかな」


 ぜんぜんないというのは、プライドが許さなかった。

 特に今世に限定すればあるわけないのだ。


「わかりました。人間と獣人、エルフの違いもあると思いますのでやはり年長者である私がリードして差し上げるということにします」

「気遣い痛み入る」


「それで方法なのですが、まず私とつがってそれを他の者が観察しながらやり方を覚えるという……」

「マール」


「はい」

「それはさすがに厳しい。できれば二人だけでお願いできないか」


 観察されながらは、ちょっとタダシの精神が持つとは思えない。


「うーんでは、私と同じ獣人であり年が近いシップと一緒でどうでしょう」

「最初から二人相手をするのか」


「七人いますから、私はリード役に回りますのでいないものと考えていただければ」

「……わかった。お手やわらかに頼む」


 順番が決まると、マールとシップ以外は寝室を出ていった。


「それじゃ王様。よろしくお願いしやす」

「シップ。もうタダシでいいよ。結婚したんだから」


「そうですか。へへ、どうも慣れなくて……」

「ところでシップは本当に初めてなのか」


 シップの年は二十六歳だそうだ。

 大工の棟梁にまでなったにしては若いと思うが、だいたい十六、七歳くらいで結婚して子供まで作ってしまうカンバル諸島出身者としては珍しい。


「あっしは仕事の方は得意なんですが、そっちの方はからっきしでして」

「そうなのか。魅力的だと思うがな」


 よく引き締まった健康的な肉体だし、きちんと出るところは出ている。

 獣人といっても犬耳と尻尾がついてる人間みたいなものだし、女盛りといったところだ。


「そんな風に言われたのは初めてでさ、ああ! 抱かれるのは覚悟してきたのに、なんか小っ恥ずかしくなってきやがった!」


 シップが顔を真っ赤にしているのも、なんだか可愛らしい。

 それを見てマールもくすりと笑う。


「ふふ、早速仲良くなられましたね。つがうスキンシップをはかるのも大事なことだと思います」

「マール。この際だから正直に言うが、どうしたらいいかわからん」


 怖気づいたタダシがそう言っても、マールは笑わなかった。


「はい。そのために私がいます。まず私と十分に練習して、それからシップさんに素晴らしい経験をさせてあげてください」


 そうすれば、他の妻とも上手くできるはずだという。


「マール。気遣いはありがたいんだが……」

「なんでしょう」


「練習という言い方は好きじゃない。俺はそうは思わない」

「そのお言葉はとっても優しくて、本当に嬉しいです。タダシ様の初めての相手になれるのは、とても光栄なことだと思います」


「ああ、俺も嬉しいよ。その……」

「はい。最初はどうぞご無理なさらずに、私に全てお任せいただければと……」


 こうしてタダシは、いきなり獣人の妻二人を相手にゴソゴソとねやに入っていくのだった。

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