第25話「家畜を探す」☆

 お風呂のお湯を何度も入れ替えて、村の住民全部を風呂に入れてやるのに手間がかかった。


「もっと自動で給水できるシステムを考えないとな」


 大釜に水を入れるのが面倒なので、マジックバッグを使っていたのだ。

 タダシが大変そうだからエリンが代わろうと言ってくれたのだが、マジックバッグはタダシにしか使えないアイテムになっていた。


 生体認証みたいなものがあるのかもしれない。

 セキリュティーは万全だが、こういう時は少し不便だ。


 まあともかく、今朝もキングベッドで目覚めたタダシは、ギギギギッと強烈な力でまとわりついてくるイセリナの手足を離して。

 キュッポン。


 なんだキュッポンってと、鏡に写してみたら首元にキスマークがついている。


「イセリナは、キス魔でもあるのか」

「タダシしゃまぁ……」


 ともかく、寝ぼけてさらに吸い付いてこようとするイセリナを強引に外して仕事スタートだ。

 結婚式という新しい目標ができて、タダシは更にやる気になっている。


「酒造りはもうマールに頼んでるだろう。花嫁衣装はお針子のローラに頼んでおけば間違いはない。あとは、結婚指輪とウエディングケーキづくりか」


 リングをつくるのは簡単そうだが、宝石なんてどこで手に入れればいいのだろう。


「タダシ様! 大変です!」


 ハァハァと息をきらして走ってくるアーシャ。


「俺に働きすぎとか言う前に、アーシャも休んだほうが良いと思うぞ」

「それどころじゃないんですよ。これを見てください」


 アーシャが袋から取り出したのは、輝きを秘めた宝石の原石の数々。


「これはダイヤモンドにルビーに、サファイアもあるのか」

「タダシ様は、宝石にお詳しいんですね」


「島にはなかったのか」

「宝石なんて高価なもの、イセリナ様くらいしか持ってません」


「それで、どうしてこんな物が沢山あったんだ」

「タダシ様が持ってきた魔鉱石に混じってたんですよ」


 あーあれか。

 吸い込んだ時になんか違うものも混じってたなと思ってたけど、これだったか。


 あの鉱山は魔鉱石を掘っていくと奥に宝石の鉱床もあるのかもしれない。

 結婚指輪以外にも、いずれ何かには使えそうだ。


「ともかく、よく見つけてくれたアーシャ。結婚指輪をどうしようか悩んでたんだ。ダイヤモンドの指輪は、特に結婚にふさわしいといえる」

「いや、タダシ様が持ってきたんですよ」


「じゃあ、神様の恵みだな。後はこれを指輪に加工すれば……」


 タダシがそう言うと、アーシャは宝石の原石をひょいと袋にしまってしまう。


「アーシャ」

「タダシ様。指輪作り私に任せてもらえませんか」


 タダシには他にも仕事があるから、そう言ってくれると助かりはする。


「頼めるか?」

「はい、宝石のカッティングはガラス職人の私には専門外ですが、レンズ加工もしていたので磨くことはできると思います。何より私も、タダシ様のお役に立ちたいです!」


「……わかったアーシャの腕を信じる。足りなくなったらまた取ってくるから、失敗して使い潰しても構わない。その宝石は全部、アーシャの自由に使ってくれ」

「ありがとうございます。職人の誇りにかけてやります」


 アーシャが燃えている。


「さて、俺も考えないとな。あとは、ケーキを作るためには卵とミルクがいる。家畜か」


 海岸線を見れば、新しくできた村とカンバル諸島を往復する船が出ていた。

 向こうに食糧を送ると同時に、こちらには物資と人員が届く。


 さながら交易船であり、村の規模は徐々に拡大し続けている。

 だが、カンバル諸島には鶏や牛などの家畜に当たるものはいないらしく、その点がネックとなっている。


 鶏、牛、鶏、牛とつぶやきながら海岸線を歩いているとクルルがやってきた。


「クルル」

「どうした、クルル。おおう!」


 クルルは、タダシを背中に乗せて走り出す。

 慌ててたてがみに捕まると、モフモフの毛に身を伏せる。


「どこに連れて行くつもりなんだ」

「クルルルル!」

 

 凄まじいスピードで疾走するクルルは、そのまま北の森へと入っていく。


「おい、あんまり奥に行くと」


 ヴギャァアアア! ヴギャァアアア!


 恐ろしげな怪鳥の鳴き声が聞こえる。

 でたぁ! 例の巨大な禿鷲が二羽も現れた!


 ……って、えっ?


「グギャァァアア!」


 クルルは冷静にジャンプすると、空を疾走する禿鷲をそのまま踏み潰した。


「強くなったなクルル。よし、それなら俺も、ディグアップショット!」

「グギャァァアア!」


 タダシはくわをフルスイングすると、碧い衝撃波とともに向かってきたもう一羽の禿鷹の首を落とした。

 タダシもだんだん、農業神の加護☆☆☆☆☆☆☆セブンスターの使い方を覚えてきたのだ。


「一応、死体をマジックバッグに入れておくか」


 マジックバッグに入れると、アイテムとしての名前がわかる。

 デビルヴァルチャーという名前らしい。


 魔獣ということなのだろう。

 続けて何匹かでてきたが、意外と賢いらしく敵わないと見たのかタダシたちの顔を見ると即座に飛んで逃げた。


 デビルサーモンも食べられたし、きっとこれも食べられるだろう。貴重な鳥肉。

 あとは羽毛が取れるかも。


 そう考えている間に、クルルは森の奥へと進む。

 どんどん魔木の背が高くなって、暗い雰囲気になってきた。


「グルルルル」


 なんだか、クルルが激しく興奮して吠えている。

 タダシはよーしよしと、頭を撫でてやる。


「この辺りに、何かあるのか」


 森がちょっと開けた土地に出る。

 小さな水場があり、そこではたくさんの魔獣たちが血で血を洗う戦いを繰り広げていた。


「ゴゲー!」

「グモォオオオオ!」


 地獄のような光景だが、タダシはそこに希望を見出す。

 こいつらは牧場に使えるという農家の直感があった。


「ちょっとでっかいけど、牛に鶏もいっぱいいるな。よし!」


 タダシは、クルルから降りると呼びかけた。


「おーいお前ら、俺に飼われないか?」


「ゴゲー!」

「グモォオオオオ!」


 反応なし。

 それを見たクルルが、凄い勢いで吠えた。


「ガルルルルルルルッ!」


 辺りがビリビリと震撼し、タダシも、「おおう」とびっくりするぐらいの唸り声である。

 クルルの身体がバチバチと帯電し、紫色のプラズマみたいなのが辺りに広がる。


 あれほど叫びまわって戦っていた魔獣たちが、ピタッと動きを止めた。

 なるほど、こうやって動物を飼いならすのか。


 クルルには学ぶことが多い。

 よしと思ったタダシは、牧場に使う魔木を取るついでだと、くわを振り回して水場の周りの魔木をズババババッとひっくり返して、マジックバッグに収納した。


 これでもう逃げられないから、ゆっくり説得できるぞ。

 辺りがシンと静まり返る。


「よーし、これで話ができるな。お前ら、ここよりも美味しい水と美味しい餌をやるから俺に卵とミルクをくれ。わかるか?」


 タダシは、巨大鶏の群れに歩いていって言う。


「お前ら鶏は卵だ」

「ギョゲー!?」


 そう言って群れのリーダーっぽい鶏を撫でてやると、ブルブルと震えて頭を下げた。

 どうやらわかってくれたようだ。


 ほれ、椎の実をやるから食え。

 次に巨大牛のところに言って言う。


「お前らはミルクな」

「ギョモォオオオオ!?」


 同じように撫でると、やはり牛たちもブルブルと震えて膝をつく。

 こっちには大量の牧草を積んでやった。


 おー、食べてる食べてる。


「クルル、テイムってやってみたら簡単だな」


 タダシの言葉に、クルルも上機嫌で可愛らしく「キュゥ」鳴いて、巨大鶏と牛に「ガルルルルルルルッ!」と唸った。

 ビリッとした空気が走って、巨大な鶏と牛が整列する。


「よーし、じゃあみんなついてこい。美味しい餌が待ってるぞ」


 タダシは再びクルルにまたがると、巨大な鶏と牛の群れを連れて村へと帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る