第24話「お風呂回」☆
いきなり裸の女たちが来たので、慌てて風呂から出ようとする俺をエリンが捕まえた。
「いいじゃん。水着なんて付けないほうが気持ちいいよ」
「そういうもんだいじゃねえよ」
「ねー、ご主人様も脱いじゃいなよ」
「パンツ引っ張んな!」
エリンが、全力で海水パンツを脱がそうとしてくる。
何がご主人様だ。敬意がなさすぎる。
今脱がされたらマズイのに、エリンがぬるっと絡みついて離れねえ。
どういう体術だと思ったが、忘れてたけどこいつ英雄の加護
「いずれそういう関係になるわけですし、お互いに親睦を深めるちょうどよい機会かと思いまして、タダシ様もそうおっしゃってましたよね」
イセリナが凶悪なたわわをぶるんぶるん揺らしながらのんきにそんなことを言っているが、タダシはもう、それはそういう意味じゃないと突っ込む余裕もない。
全力でパンツを脱がそうとするエリンに抵抗していたタダシであったが、やっぱりエリンには勝てなかった。
こいつ何の勇者なんだよ、パンツレスリングのか?
女達から、きゃーと声援が上がる。
スイスイ走り回るエリンは、タダシの海水パンツを脱がすと今度はイセリナに襲いかかる。
「そういうイセリナも、タオルで隠してるのはダメだよ!」
「や、やめ! タダシ様見ないでください」
言われるまでもない、タダシは健康的に弾むイセリナの胸など見ていない。
慌てて目を背けて言う。
「それだイセリナ」
「はい?」
「タオルだ! もう水着を着ろとは言わんが、みんなにタオル巻くくらいのことはしろ!」
タダシも慌てて股間を隠しながら、脱衣所の方に行ってタオルを腰に巻く。
「えーつまんない。裸のお付き合いしようよー」
「エリン、はしゃぎすぎだ。それ以上やったら飯抜きにするからな」
「いやー! ごめんごめんごめん!」
エリンは大飯食らいだから、食糧を断つのが一番効く。
「まったく……」
タダシは、湯船に入る前にみんなに液体石鹸を使用して身体を洗うように言う。
この世界にこういう石鹸がないなら、村の名物になるかもしれない。
「タダシ様、ほんとに素晴らしいものをお作りになりましたね」
「身体がピカピカになりますよ」
アーシャとローラが褒めてくれるが、そちらを直視できないタダシは生返事を返す。
目に毒すぎる光景だった。
「まったく」
湯船に戻ると、手早く身体を洗ったリサがすっとよってきた。
「タダシ様、エリン様を許してあげてください。ずっと気を張り詰めだったので、楽しくてしょうがないんですよ」
ちゃんとタオルを巻いているなと目で確認する。
リサは、なんというかスリムだからまだあんまり目に毒ではない。
ホッとさせられる。
「俺も本気で怒ってるわけじゃない。エリンはまだ子供だしな」
十五歳で勇者だの族長だのと責任を押し付けられて、泣くほど辛い思いをしていたのは知っている。
はしゃぐくらいはしょうがないかと思う。
しかし、次々に湯船に入ってくる見目麗しい女性たちを見て、タダシは感嘆のため息を吐くしかない。
エルフも魅力的だし、獣人の女の子も可愛いものだなとは思う。
「なあ、リサ。あんまり話したくない話ならいいんだが」
「なんでしょう」
「人間がエルフを奴隷にしようと狙っていると言ったな。乱暴はされなかったのか?」
あまり聞きたくもない話だが、そういう脅威があるならば知って置かなければならない。
タダシはもう、彼女らを守る王としての責務があるのだから。
「ああ、それでしたら大丈夫でした。人間の指揮官は女でしたから」
「ほう、フロントライン公国だったか。その国軍の指導者が女だったのか」
この世界は、割と女性がトップに立つことが普通なのかな。
中世レベルの文明だと思うんだが、聞けば聞くほど意外に感じる。
「私達にも兵力がないわけではありませんでしたし必死に抵抗もしました。そもそも公国軍は、カンバル諸島の向こう側にある魔王国を攻撃するために占領したのです。それを考えれば戦を長引かせるわけにもいかなかったのでしょう」
「なるほど、無条件降伏ではなかったわけだな」
それなら交渉のしようもある。
「敵の女性指揮官は恐ろしい人でした。王族でありながら自ら前線に立ち、一撃で多くの兵士をなぎ倒したのです。私もその時に利き腕を失いました」
辛そうな顔を見せるリサ。
相当な苦労があったのだろう。
「しかし、一撃でか」
信じられない話だが、この世界は加護や魔法があるからそういうこともあるのだろう。
あまり敵にしたくない相手だ。
「公国が欲していたのは駐屯する軍の補給に使う食糧でした。だから全ての島民を全滅させようとはしなかったのでしょう」
「それは不幸中の幸いだったのかもな」
「そこで先の女王であるイセリナ様が、公国軍の指導者と約束を交わして民の安全を保証する代わりに公国の属領となり食糧を税として納めるという約束をしたわけです」
「なるほど。だいたいの経緯はわかった」
それで税が払えずに奴隷にされそうになってたわけか。
あるいは、公国の狙いは最初からそれだったのだろうか。
武装解除させてから、重税でいためつけて奴隷化していく。
卑劣なやり口だ。
タダシはいまだに王国を創るなんて半信半疑なのだが、もし創れるなら税金のない国にしたい。
「あのタダシ様。私からもお尋ねしてよろしいでしょうか」
「なんだ」
「よく我慢できますね」
耳元でそんなことを囁かれるのでびっくりする。
「リサは、そういうことを言うんだな……」
我慢というのは、もちろんそっちの話だろう。
真面目な印象だったんだが、結構攻めてくる。
「お気に障られたら申し訳ありません。ですが、私のような女として魅力のない者はともかくとしても、イセリナ様と
「いや、俺はリサも魅力的だと思うよ」
よく引き締まった身体だ。
胸は小ぶりだが、スタイルはとてもいい。
黒髪はタダシにとっても馴染みが深いし、凛とした雰囲気でとてもいいと思う。
「そう言っていただけると、とても嬉しいです。イセリナ様の護衛として一緒にいることが多かったので、男性にそんな風に褒めていただいたのは初めてです」
リサの頬が赤く染まっているのは、湯にのぼせただけではないだろう。
「そうか、確かにあれと一緒にいれば比べられてしまうか」
「はい」
「凄いもんな」
「はい……」
うーんなんというか、大きなおっぱいって湯に浮かぶんだな。
あーいかんいかんとタダシは頭を振る。
「リサたちの事情はわかった。俺も求められれば、受け入れる覚悟はした。ただケジメは付けなきゃならん」
「ケジメですか?」
「ああ、酒ができたら神様に供物を捧げる祭りをやる。その時に神前結婚式をやろうかなと」
「なるほど、
「エルフにも結婚式があるのか」
「はい、島の娘は年頃になると春の祭りの日に意中の男性に花を送るのです」
それを受け取ったら結婚成立だそうだ。
今はもう初花の儀なんて言ってる余裕もなく、生き残っている数少ない島の男性に四人も五人も女性が群がってる状況らしいが。
ふーむ、島では女性から男性にプロポーズする風習なのか。
「それくらい女性がたくましくないと、生き残っていけない環境なのかな」
「女性から申し出るのはおかしいんでしょうか?」
「いや、それは良いことだと思うけどね」
自分の意思でしっかり相手を選んだということなのだから。
「結婚式というのは、そういうお祭りなのですね」
「ああウエディングケーキを作って、華やかな花嫁衣装を着て、結婚指輪を送るのだ」
「ちゃんと初花の儀をやろうなんて、タダシ様はやっぱり素敵だと思います」
「それは、ありがとうと言えばいいのかな」
「でも我慢できなくなったら言ってくださいね。私も、一回ぐらいイセリナ様に勝ってみたいなと思いますので」
そう言ってお湯の中でそっと手を握ってくる。
ここまで誘惑が多いと、ほんとに笑ってしまうしかない。
「そうならないように、結婚式の準備を急ぐとするよ」
普段タダシの農作業を手伝ってくれているベリーが話しかけてきた。
「なになにリサ。一人で王様と話しててずるい」
みんなチラチラと、タダシの方を気にしていたようだ。
リサは楽しそうに笑うと言う。
「タダシ様が、みんなと結婚してくれるって」
「きゃー!」
「おい、みんなとは言ってないぞ!」
誰も聞いてないな……。
一体何人になるんだろう。
「結婚式って、タダシ様から花嫁に贈り物をくれるんですか」
「王様は、さすがに気前がいいですね」
アーシャも、ローラも俺と結婚するつもりなのかな。
「まあ、みんなにも世話になってるから、それに応えられたらとは思うけど」
「凄く嬉しいです」
「ローラ。花嫁衣装を用意したいから、その辺りの取りまとめを頼めるか」
「はい。喜んでお手伝いいたします」
結婚指輪もその数用意しなきゃならんし、ケーキはどう作ったら良いだろう。
これはまた、タダシは結婚式に向けて走り回ることになりそうだった。
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