第18話「イセリナは提案する」

 イセリナたちが約束通り海岸に戻ってきた。

 上陸したのは大きな船から小さな船まで、十二隻の大船団だった。


 乗員合わせて百五十人が、様々な物資を運び出してくる。

 真っ先に駆けてきたのはエリンだ。


「ご主人様ぁぁ!」

「コラ、エリン。ご主人は止めろって言ってるだろ」


 ただでさえ人間は誤解を受けやすいというのに。


「てへ、ごめーん」


 ペロッと舌を出すエリン。

 だいたい口先ではご主人様と言ってるが、敬意のかけらもない。


 どうせエリンはからかってるだけだろうとわかっている。

 別にタダシも本気で怒ってるわけじゃない。嫌な感じがしないのは、明るい性格のエリンの人徳なんだろう。


「タダシ様、おっしゃられてた野菜などを持ち寄りました」

「イセリナありがとう」


 おっと、種で良かったんだけどな。

 ジャガイモ、キャベツ、とうもろこし、人参、トマト、カブ、ブロッコリー、山菜などよく使う野菜はあらかた揃っている。


 大麦にホップもあった、これはビールを作れと言わんばかりだな。


「あとは、小麦に大豆か。これがあるのは本当にありがたい」


 もしかしたら、味噌とか醤油とかも作れるようになるかもしれない。


「小麦と大豆はフロントライン公国が育てろとカンバル諸島に持ち込んだものなのですが、島ではあまり育ちませんでした」


 なるほど。

 土地によって育ちにくいなどはあるだろう。


 だが、俺ならばなんとかできる。

 そして一番嬉しい発見があった。


「おお、サトウキビもあったのか。これもありがたい」


 これは沖縄に行った時に食べたことがあるぞ。

 黒砂糖が作れるはずだ。


 甘味に飢えていたということもあるが、砂糖があれば料理の幅が大きく広がる。

 あとオマケに椰子の実があったのも面白いなと思ってしまった。


 椰子の実ジュースも美味しそうだし、海岸線に植えれば彩りになることだろう。


「今の所はこれだけです。時間の関係上、カンバル諸島の全ての有用な植物を集めるというわけにはいきませんでした」

「いやこれだけあれば十分だ。あまりにたくさんあっても、どれを育てたらいいか迷うからな」


 他の作業は手伝ってもらうことができても、植え付けだけはタダシがやらなければならないからあまり多くあってもどれからいくか目移りしてしまう。


「タダシ様の作業をお手伝いできる人員は十分です」

「多いくらいだな」


「あとは、衣服を使うのに布も足りないだろうと思って道具ごとお持ちしました」


 大量の布を糸車や織機ごと持ってきてくれたので、服を作る問題が一気に解決した。


「おお、助かるよ。パンツ一枚作るのに大変だったから、いつまでかかるかと思ってたんだ」

「私も一国を運営していたこともありますので、この程度のことは抜かりありません!」


 イセリナが連れてきた百五十人の作業員は、荷物を船から運び出したり各地を探索したりと手際よく動いている。

 俺も運ばれてきた作物を調べながら、どこに畑を作ろうかと思案するのだが、何やらアーシャたちエルフ三人娘とイセリナが話しているのが耳に入る。


「アーシャたちの誰かが、タダシ様と男女の仲になってませんか」

「なな、何をおっしゃいます!」


 アーシャが顔を真っ赤にして否定する。


「いいのですよ。もしタダシ様と海エルフ族の血の繋がりができれば、これほど望ましいことはないのですから」

「イセリナ様。タダシ様は紳士であられました!」


「そうですか」


 その会話がタダシにも聞こえているのだが、なんとも言えないしどんな顔をしたらいいのかもわからない。

 ともかくタダシは話を変えるために、イセリナたちに割って入ることにした。


「それにしてもイセリナ。人の数が多すぎないか」

「とりあえず村を作る先遣隊としては、これでギリギリの人員だと思うのですが」


「村を作る?」

「もちろん、私達がここに住んでいいとタダシ様のご許可があればの話ですが」


「別に住むことは反対しない。しかし、急すぎる話だな。豊富な魚介類を取るための漁師小屋でも創るのか」

「いえ、定住施設を造るのです」


 海エルフと獣人は、ここに食糧確保に来ただけじゃなかったのだろうか。

 まあ、ここで増産した椎の実やキノコだけでは倉七つを一杯にしろなんて公国の要望には応えられないだろうから、食糧の増産に人手は必要だが。


「それにしても、急な話だ」

「タダシ様が、森を作って下さっていたのが本当に助かりました。早速木材を切り出して、井戸の辺りに住居の建造にかかりたいと思うのですがよろしいでしょうか?」


「イセリナ!」

「はい」


「木材は乾燥させないと使えない。もしかして、俺がそれも三日でできること。緊急時には木を絞って水分を飛ばせば一瞬で乾燥させられることも知っているのか?」


 木材の乾燥に時間がかかることなど、聡明な元女王イセリナが知らないはずもない。


「一瞬で乾燥させる手段があるのは予想外でしたが、農業の神様の加護の厚いタダシ様なら三日でできるんじゃないかと思ってました。タダシ様のこれまでの行動をかんがみ、私どもがやってくる前に森を作っていただけるのではないかとも予想して、大工道具を準備しておりました」


 手際が良いにも程があるし、あまりにも考えが穿ちすぎている。


「何を考えているんだ。イセリナ?」

「私はここに、タダシ様の王国を創るべきだと考えています」


 何の冗談かと思ったが、イセリナの顔は大真面目であった。

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