第17話「エルフ三人娘の日々」

 ついにガラス炉でのガラス作りが始まった。

 アーシャに何度かポーション瓶を作ってもらって、それを見様見真似で作ってみる。


「できた!」

「上手いですよタダシ様。初めてにしては上出来です!」


 吹きガラスによって、ガラスが形作られるのはとても面白い。


「面白いものだな」

「この魔木というのは火力が上がって助かりますね。ここの砂もガラス作りに適していたようで言うことないです」


「そうだな。ここはガラスを作るにはいい環境だ」

「私としても、この地で仕事ができるのは助かります」


 タダシがエリシア草を供給しているため、今後さらに薬師でもあるイセリナがエリクサーを増産するだろうと予想される。

 そのためにポーション瓶の在庫を作って置かなければならないというのだ。


 さすがにアーシャはガラス職人だけあって、よく先を考えている。

 タダシは、実用的な食器などの他にビー玉なんかを作ってみてとりあえず満足した。


「じゃあ、アーシャはガラス器の増産を進めてくれ。ポーション瓶だけじゃなくて、お皿とか食器もな。土器よりも高級感があっていいし」

「わかりました。他の仕事をお手伝いできないのは残念ですが」


「いや、それぞれ適した仕事をしてくれるほうがいいんだよ」


 ガラス器はいくらあっても困るものではない。

 いずれちゃんとした家を建てたら窓ガラスなんかも作ってもらいたいと思う。


 タダシの言葉に、ベリーも賛同する。


「そうですよアーシャ。タダシ様の畑仕事なら私が手伝いますから」

「そうしてくれるかベリー。治療薬はいくらあってもいいだろうから、今度はエリシア草の畑も広げてみようと思ってな。あとは料理用や照明用の油も欲しいから、菜種の畑も作ってみるか」


「はい、お手伝いいたします!」


 こうして午後も畑仕事を続けて、気がつけば夜になる。

 夜になり食事を終えて汗を流して……。


「俺はクルルと野宿するから」

「何をおっしゃいます!」


 アーシャが腕を引っ張ってテントに招き入れる。


「私達の粗末な天幕で申し訳ないですが!」

「毛布も数が少ないですし、一緒に寝ましょう!」


 三人がかりで、俺はテントへと引っ張り込まれてしまった。

 やっぱりこうなったか。


「タダシ様。そんな端っこに行かずに、どうぞ真ん中でお楽になさってください」


 楽にできないんだよな。


「私、タダシ様が他人と思えません!」

「そう言ってくれるのはありがたいけどね」


「なんだかお父さんみたいな感じがします」

「あらベリー、タダシ様はまだ若いのに失礼よ」


 いや、ベリーの言ってることが正しい。

 タダシは見た目こそ若いが、内面は四十歳のおっさんなのだから。


 だからこそ、娘のような若さのエルフ三人娘の寝床に入り込むのはどうかと思うわけだ。


「タダシ様、どうぞお気になさらず真ん中に……」

「いや、だからね」


 その時だった。


「クルルル!」

「きゃ!」「うわ!」「はわわ!」


 ズボッとテントの中に、クルルが頭を突っ込んできた。


「助かるよクルル」

「クルル……」


 今晩も空気を読んだクルルのおかげで、ゆっくり就寝できるのだった。

 天然の毛布もありがたい。


 次の日は、海木綿と海ゴムの木が採取できるようになったので、ベリーに採取してもらってその間に服作りのための道具作りからやることになった。


「糸を紡ぎ布を作るには、糸車と織り機がいります」

「ああ、なるほど。学校で習ったことがあるな。結構構造が複雑なはずだろう。材料は木材とツタだけでなんとかなるか?」


「はい。ただ設計と組み立てには時間を要します」


 鍛冶の加護☆を持っているアーシャも加わって、糸車と織り機の製造が始まった。

 俺も手伝おうとしたのだが、構造を理解してないし設計図もないので却って邪魔になってしまいそうだ。


 あと服を作るのに何が必要だろうかと考えると、針が必要であることに気がつく。


「俺は、先に針を作ってみる。他にも道具が必要なら言ってくれ」


 ガラス作りの時に鍛冶もできるようにしておいたのが生きてくる。

 針なら作るのは簡単だ。


 色んな大きさの針を作るついでに、興が乗って釣り針なんかも作ってみた。

 糸ができたら釣りもできるからな。


 俺がカンカンやってるところに、糸車の組み立ても終わって一息ついたアーシャがくる。


「タダシ様は、鍛冶仕事も本当にお上手ですね」

「あんまり細密なものはできないんだけど、この程度ならなんとか。こんな針で裁縫さいほうできるかな」


「これで十分ですよ。ただ布を作るのにはかなり時間がかかりそうですが」

「そのようだな。それでも、衣服を作れるのは助かるよ」


「私どもも、タダシ様の服の替えがないというのは気になってました。まず何から作りますか?」

「下着かな。できればゴムで伸縮のあるパンツが欲しい」


 パンツの大きさなら、そんなに時間がかからないだろう。

 普段意識してなかったのだが、布を木綿の繊維から作るのがこんなに大変だとは思っていなかった。


 なんで海エルフも獣人も普段水着でいるのかなと思ったが、なるべく布の使用を少なくしようということなのだと気がついた。

 むしろ海ゴムの木からとった樹液を練ってゴムを作るほうが簡単らしく、エルフが穿いているビーチサンダルなんかも全部ゴム製である。


「ローラ、タダシ様が言ってるようなパンツってできる?」

「少しお時間をいただければ私がタダシ様のサイズに合わせて素晴らしい下着を作って見せます!」


「助かるよ。着たきり雀で、下着の替えすらないからそのうちなんとかしなきゃと思ってたところなんだ。手伝えるところは手伝うからね」


 この海岸で作った布とゴムで初めてのパンツが完成する頃、沖から船がやってきた。


「おーい!」


 先頭の船で手を振っているのは獣人の勇者、エリンである。

 また来るとは約束していたのだから驚きはしないんだが、それにしても……。


「ものすごい船の数だな」


 パッと見て、十艘を越えているように見える。

 こんなに大船団で来るとは聞いてないぞ。

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