第一章「亜大陸探索」

第8話「変わった子犬を拾う」

 異世界生活一週間。

 タダシは、二度目の収穫を終えて畑も大きく広がった。


 ヒノキや椎の木の畑は、ちょっとした森みたいになっている。

 畑の横に掘っ立て小屋を建てて、挽き臼やたる、貯蔵箱などの木工製品なども作り、当面の生活には困らなくなってきた。


「でも、一人はちょっとさみしいかもね」


 こうして有用な物を探して魔木の森を歩いていても、ついつい独り言が多くなってしまう。

 前から言っているが別にタダシはサバイバル生活がしたいわけではないのだ。


 話し相手になるような人か。

 せめて家畜か、ペットになるような動物がいれば、寂しくないかもしれない。


「……といっても、この森は魔獣がいるんだっけ」


 夜に奇妙な叫び声が聞こえることもある。

 寂しいなんて贅沢な話かもしれない、おっかない魔獣に遭わないだけ幸運だとは言える。


 タダシも用心して、あんまり森の方には入らないようにしている。


 ヴギャァアアア! ヴギャァアアア!


「怖! またあの鳴き声か……」


 凶暴そうな怪鳥の鳴き声が森の奥から響き渡った。

 おそらく神様が言っていた魔獣ってやつだろう。とてもじゃないが、ああいうのは相手にしたくない。


 すぐ引き返そうとしたのだが、その後で聞こえた鳴き声に足を止めた。


 キャウン! キャウン!


「犬の鳴き声?」


 しかも、子犬の鳴き声だ。

 少し迷って、タダシはそっと森の奥に行ってみることにした。


「うわ」


 でっかい禿鷹はげたかみたいな魔獣が、真っ白い子犬を襲っている。

 このままでは子犬が食われてしまう。


 クソ、どうしたらいいんだ。


 そうだ。

 タダシには、農業の加護がある。


「おい、これでも喰らえ!」


 タダシは、手に持った魔鋼鉄のくわを思いっきり地面に叩きつけた。

 ザクッザクッ、ザクザクサクザクグシャァアアア!


 地中に衝撃波が走って、周りが耕される。

 威嚇耕しだ。


 正直、タダシもあんな巨大な魔獣と戦うのは怖い。

 これで、びっくりして逃げてくれるといいのだが。


 ヴギャァアアア! ヴギャァアアア!


 しかし、白い犬を襲っていた巨大な禿鷹は、空にバサバサ羽ばたいて、タダシをバカにしたように叫んでまた子犬を攻撃し始めた。


 キャイン! キャイン!


 子犬は、怪鳥についばまれて痛そうに泣く。


「くそ、どうしたら……。そうだ飛んでる相手には、土を掘り上げる。ディグアップショット!」


 勇気を振り絞ったタダシの手に英雄の星が輝く。

 タダシはくわをフルスイングすると、地中の土をズシャ! っと思いっきり掘り上げて、それをそのまま禿鷹に向かってショット!


 青い衝撃波とともに放たれた硬い土の塊は、禿鷹に見事に直撃した。


「どりゃぁああ! これ以上乱暴するなら、お前ごと耕すぞ!」


 ヴギェェエエエエ! ヴギャァアアア!


 弾き飛ばされた禿鷹は苦しんでいるが、怒りの声を上げてこっちに向かってくる。


「まだやるか! ディグアップショット! ディグアップショット! ディグアップショット!」


 タダシはくわを何度もフルスイング。

 凄まじい量の土砂が衝撃波とともに降り注ぎ、ドスンと禿鷹は地面へと叩きつけられた!


 ウギェェエエエエエ!


「どうだ!」


 のたうち回った禿鷹は、起き上がると慌てて逃げ出していく。

 あとには、傷ついた白い犬が残された。


「なんとかよかった。大丈夫だったか?」

「くぅん……」


 よく見てみると本当に可愛い子犬だ。

 ふわふわで真っ白の毛。


 可哀想に。

 あの禿鷹につつかれたせいで、胴体にかなり酷い怪我をしていて血で赤く染まっている。


「どうしたら、そうだ! ちょっと待ってろよ」

「くるる」


 こういう時、エリシア草を使って治療する方法を学んでいたのだ。

 すり鉢でこねて傷口に塗るだけだが、こういう時に包帯があればもっとよかった。


 包帯作りは今後の課題として、薬を塗ったあとに葉っぱを貼り付けてツタを巻きなんとか応急処置をしてみる。


「よーし、大人しい。いい子だな」

「きゃう!」


 傷に染みたのか、痛そうな顔をした。


「痛かったか。ごめんな」

「くるるる……」


 この子は賢いな。

 ちゃんと治療してるってわかっているようだ。


「お前どこから来たんだ。親はどこかにいるのか?」

「くるるる」


 親がいたらこんな場所で禿鷹に襲われているわけがないか。

 家族とはぐれたのだろうか、それとも一人なのか。


 よくよくみれば、酷く痩せている。


「ん、この骨が欲しいのか?」

「くるる!」


 こんなんじゃ腹の足しにもならんだろうと思ったが、犬が骨を欲しがるのはわかるので与えてみると、バリバリっと食べてしまった。


「ちょっと、お前こんな硬いもの食べたらお腹壊すよ」

「くぅんくぅん」


 もっとないのかと言っているのか。

 こんなところに住んでるんだから、ただの犬じゃないのかもな。


 骨でも食えるならと、俺はマジックバッグから茹でた椎の実を取り出した。

 鍋で茹でただけだからあんまり美味しくはないだろうけど、腹が膨れそうなものはこれくらいしかない。


「美味しいか?」

「くぅん」


 頭を擦り付けてくる。

 可愛い。


「こんなところにいてもしょうがないから、一緒にいくか」

「くるる!」


 子犬の頭を撫でてやると、もふもふで気持ちよかった。

 田舎で犬を飼うのが夢だったから、ちょうどいいなと思う。


「そうだ、お前って名前はあるのか?」

「くるる……」


「なるほど。じゃあお前の名前はクルルな!」

「くるるる!」


 嬉しそうにタダシの周りを駆け回るクルル。


「よーし。じゃあ帰るか」

「くるるるる」


 こうしてタダシの生活に新しい家族が加わったのだった。

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