第7話「農業の神と鍛冶の神は未来を語る」

 結局タダシは、鍛冶の神バルカンと一緒に道具作りを延々と二日も続けてようやく力尽きたように眠った。

 枯れ草のベッドでこんこんと眠るタダシを見て、農業の神クロノスはつぶやく。


「さて、上手く種は蒔けたというところかの」


 それを聞いてバルカンが面白そうに言う。


「いかにも農業神らしいものいいじゃな」

「豊かな土地に種を蒔けば芽はすくすくと育ち、花を咲かせ、やがて何千倍、何万倍もの実りをつけることができる」


「この男も、やがて花を咲かせるのか?」

「さあてな。ワシにわかることは、この数日一緒に過ごしてタダシが命を慈しむことのできる善き人間じゃということだけじゃ」


「大した働きものであることは確かじゃの。ワシも多くの名工を育てたが、こんなにやる気のある弟子を取ったのは初めてじゃわい」


 まるで砂が水を吸うようにバルカンの教えを吸収し、ただ真似るだけではなく創意工夫まで加えてくる。

 何よりそれを楽しんでいるのが一番いい。


 タダシが試行錯誤して作り上げた青く輝く惚れ惚れする出来の魔鋼鉄のくわを眺めて、バルカンはつぶやく。


「この男ならば、与えた加護を正しく使ってくれるであろう。だが、これでこの痩せ細った世界も少しはマシになるか?」


 この荒れ果てた辺獄は、アヴェスター世界のかかえる歪みそのものだ。

 そこにタダシが降り立ったのも、全ては意味あること。


 だが、その先は神々にすらわからない。

 バルカンの問いかけにクロノスは静かに首を横に振る。


「どちらにせよ、ワシら神にできることは今を生きる人にきっかけを与えることだけ。どのような花を咲かせ、実りをもたらすかはタダシ次第じゃ」

「ふむ……」


 二人の神は、静かに夜空を見上げる。

 やがて空は白みだし、山の向こうから朝日が昇る。


 タダシが作った畑を見れば、朝日に照らされた木々が実りをもたらしているところだった。

 手で髭をしごきながら、バルカンは「……それで良いか」とつぶやく。


「そうじゃ、それが良いんじゃ。おお、タダシ起きたか!」

「……神様、おはようございます」


 目を覚ましたタダシに、クロノスは優しく微笑む。


「チュートリアルはこれで終わりじゃ。ワシらが教えたことを元に、自分なりにこの土地を切りひらいていくがよい!」

「はい、ありがとうございます」


 丸太の椅子に座り込んでいたバルカンも、やれやれと腰を上げる。


「タダシ、久々に楽しい仕事じゃった。なにか困ったことがあれば、また呼び出すがよい。助けてやらんこともないぞ」


 美味いお供えがあればだがなと、バルカンは髭を揺らして笑う。


「はい、そのうちお酒も作ってみます」

「楽しみにしておるが、無理はせんでいいからな」


「そうじゃ、最初は生活の基盤を整えるのが先じゃぞ。お供えなんぞは余裕が出てからで良い」

「はい、お気遣いありがとうございます」


「さて、それじゃいくぞクロノス」

「名残惜しいが、あまり天上を不在にするわけにもいかんしのう。タダシ、身体に気をつけてのう」


「はい、お世話になりました!」


 天へと上っていく二人の神を見送って、それじゃ初めての収穫をしてみるかとタダシは畑に歩いていくのだった。

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