振り子時計
小学生の頃、私は夏休みの数日を田舎にある祖父の家で過ごしていた。毎年のように行くこともあってか友達もおり、祖父の家に泊まっている間は彼らと遊ぶのが毎年の恒例となっていた。
その日も私は彼らと遊んだ後、一人で帰路についていた。日はすでに傾いており、田んぼが綺麗な赤色に染まり光っている。
門限はとうに過ぎており、私は祖父に怒られたくない一心で虫かごをガチャガチャと揺らしながら走っていた。
すると、後ろの方から振り子時計の針が動く音が聞こえてきた。不思議に思い振り返ると、私は思わず腰を抜かし、地面にへたり込んでしまった。
そこには三十代くらいの男性が立っており、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきている。しかしその男の首はまるで振り子時計の様に左右に揺れており、口からは針の動く音が聞こえてくる。
私が恐怖の余り動けないでいると、男は私の横を通り過ぎるとそのまま消えていった。家に付く頃には日はすっかり落ちており、祖父は家の前で待っていた。私は怒られながらも今日あったことについて話したが、取り合ってもらえず父と母も笑っているだけだった。
その日以降も私が一人でその道を通るとき決まって振り子時計の音が聞こえるようになり、振り返ると首を振った男が立っているようになった。
しかし男は何か危害を与える訳でもなく、ただ横を通り過ぎるだけなので、私はいつしか慣れてしまい男が通り過ぎるまで動かないでやり過ごすのが恒例となっていた。
しかし数日が過ぎ私はおかしな事に気がついた。男が祖父の家に段々と向かってきているのだ。最初は家から二十分位離れた田んぼで見た男が、今は家から十分程度にまで近づいてきている。
私はこのことに気がついて以降、外に出るのが恐くなってしまい、家から出られなくなってしまった。
そうして祖父の家から帰る前日、夕飯を食べていると、あの時計の音が聞こえていた。その音は玄関の方から聞こえてきて、後少しまで迫っていた。私は恐くなって、食事中にも関わらず無意識のうちに震えながら母の服をちぎれんとばかりに引っ張っていた。
その様子を見ていた祖父たちは流石に心配になったのか、電話を掛けると私を連れて近所にあるお寺へと向かった。
お寺の入り口には和尚さんが待っており、私を見ると
「あぁ」
と一言呟き本堂に招き入れてくれた。
和尚さんは念仏を唱え出すと、途端に部屋中から振り子時計の音が響き渡り、振動で本堂の柱が軋んでいる。祖父にも聞こえているのか、怯えた顔をしながら周りを見回している。和尚さんは変わらず念仏を唱えているが、それに合わせて時計の音も大きくなっている。夏だというのに、体中から嫌な汗が噴き出し、震えが止まらない。時計の音がどんどん近づいてくる感覚に襲われ、その音が耳元まで迫ったとき、和尚さんが念仏を唱え終えた。
その瞬間、木製の何かが崩れる音がし、それっきり何も聞こえることはなかった。
私が落ち着いた頃、和尚さんが
「あれは付喪神というお化けだよ」
と教えてくれた。
それは古くなって捨てられた物が変化したお化けで基本的に人間に危害を加えることはないそうだが、時たま今回の様に人間に危害を加えるのがいるそうだ。
和尚さんは帰り際に
「君との相性がよほど良かったんだね。付喪神の正体が気になるならここに行ってみるといいよ」
と言って、ペンが印が書いてある地図をくれた。
翌朝、祖父と一緒にその地図を見ながら印の場所に向かうと、大きな木の下に粉々に砕けた振り子時計が転がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます