【お正月特別版】お年玉
お正月って、大人と子供で全然違ってきますよね
今年もこの季節が来てしまった。子供にとっては最高のイベントかもしれんが、今の俺にとっては避けたいイベントの1つになってしまった。
かつての俺はこのイベントを最高に楽しんでいた。しかし立場が変わった瞬間このざまだ。先人達もきっと今の俺と同じ気持ちだったんだろう。
顔色1つ変えずに何年もこれを乗り越えてきた人々に敬意を表したいくらいだ。
それでも時の流れは残酷で、今1番聞きたくない音が聞こえてくる。
♪〜♪〜
「もしもし、あぁ母さんか。大丈夫正月には帰るよ」
俺は電話を手短に済ますと、机の上に置いてある通帳を開いた。
「お年玉どうしよ」
そう、お年玉である。子供のころはとても楽しみにしていた年明けの一大イベントも今では憎くすら感じる。社会人2年目、社会人といっても2年目の給料はまだまだ余裕があるのものではなく、たった数日で数万単位で飛んでいくのはかなり痛い。
大体お年玉はただ渡せば良い訳ではないのだ。お年玉を渡すにもお年玉袋が必要になってくる。たかだか数百円だが、親戚が多い人間にとってはこれが地味に重しになってくる。
さらには時間を要するのだ。年末の忙しい時期にわざわざ銀行へ行き、ピン札を用意しなくてはならないのだ。
子供はこういったことは気にはしないだろう、しかしその親は気にするのだ。不用意にしわくちゃのお札を渡そうものなら、親からたちまち常識がない社会人のレッテルを貼られ、お酒の際のお小言が増えてしまう。そんな面倒なことは避けなければないらないのだ。
「子供達のお年玉よし、お年玉袋よし、ピン札よし」
よし準備は完璧だ。俺は覚悟を決め、実家へと向かった。
実家へと着くと親戚が既に集まっており、家中から子供のはしゃぎ声が聞こえる。
俺は手短に親を済ますと、皆がいる大広間へ向かった。
大広間では新年の挨拶とは名ばかりのお年玉交換会が行われている。子供達は両親の後ろで大人しくしているが、それでもソワソワが隠しきれておらず、期待しているのが丸わかりである。
普段俺が挨拶しても適当にしか返事をしない子供達が、この時ばかりは目をキラキラさせ元気よく挨拶してくる。俺と親戚が挨拶をしている間ずっと後ろでソワソワしている子供を見ると自分もそうだったのかと少しだけ面白く感じる。
挨拶が終わると子供達がいっせいに俺に集まって来て、お年玉をせがんでくる。随分ストレートな奴らだ。これが子供の時はもう少ししおらしがったぞ。
俺が懐から人数分のお年玉袋を取り出し全員に渡す。
子供達はありがとうと言うと、その場で中を確認し始める。だからその場で開けるなよ。もう少し礼儀というものが わからんのか。
しかし中身を確認した途端に子供達の表情が途端に変わる。
あぁ、この瞬間が最高に居心地が悪いのだ。子供は残酷である。お年玉の金額が自分の予想より少ないと直ぐに顔を曇らせる。まるでお前の給料はそんなに少ないのかと言われている気分である。おい、顔に出すな、少しは気を使うことを覚えろよ。悲しくなるだろ。
それでも直ぐに笑顔でありがとうと、言ってくるものだから余計に気まづくなる。
俺はどうしたらいいんだよ。少なくて悪いな位言えばいいのか。
こうして、新年の挨拶という名のお年玉渡しと新年会が終わり、正月は俺の財布の中身とメンタルを削るだけ削っていった。
大人の正月はもう散々である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます