クリスマスの父の噂

父親は娘のためならなんだってする覚悟があるんですよね

 

「そろそろ準備するか」


12月24日、男はソファーから根を張っていたかの様な重い腰をようやく上げた。時計を見ると夜中の2時を少し過ぎた辺りである。男は洗面台に向かい顔を洗うと倉庫へと向かった。 


 倉庫へ着くと、男は作業台の一番目立つ所に置いてある娘の写真が入った写真立てに目を向けた。


「待ってろよ。子供たち」


男は嬉しそうに笑うと早速作業に取りかかった。


 たくさんのプレゼントを運ぶには大きな車が必要だ。絵本のサンタクロースのような空を飛ぶ大きなソリとトナカイが入れば別だが、現実はそうもいかない。

たくさんのプレゼントを運び、町中を移動するには大きな車が必要なのだ。男はこの日のために知り合いからほぼほぼ動かなくなったハイエース位の大きさの車を格安で買った。


「修理に時間が掛かったが何とか間に合わせることは出来たな」


男が確認のためにエンジンを掛けると車はブーンと軽快な音をたてた。


「多少傷があるが、それでもこれは私の立派なソリだ」


男は嬉しくなり、つい顔をほころばせる。


「今日はよろしくたのむぞ」


男は車を優しくなでた後エンジンを切ると次の作業へと向かった。


 作業台に向かうと男は机に置いてある子供のリストに目を通した。そこには近隣の幼稚園や小学校で行われるクリスマスパーティーの日程と参加する子供の名前が一覧になっている。たくさんある小学校や幼稚園を効率的に回るにはルート作成を大事な作業である。


「意外と多いな。もう少し早めにやるべきだったか。」


男は頭を掻きながらリストとにらめっこをしている。

何回も何回も作り直しようやくルートが決まった頃には5時を過ぎていた。


「もうこんな時間か。一旦休憩にするか」


男はキッチンに行きインスタントコーヒーを作るとソファーに腰掛けた。


「早く娘の喜ぶ顔が見たいものだ」


男はコーヒーをすすりながら娘の喜ぶ顔を想像していた。娘は毎年、プレゼントを渡すと中身を確認する前にありがとうと抱きついてきてくれる。

それだけで嬉しいし、だからこそ娘が喜ぶ飛びっ切りのプレゼントを渡したくなる。

今年はどんなプレゼントを渡そうか。それを考えるだけで男は幸せに満ちあふれてくる。


「よし!今年も娘が喜ぶ最高のプレゼントを渡すぞ」


男は残っていたコーヒーを飲み干すと作業場へと戻っていった。


「さて残す作業といっても後はプレゼントの準備と衣装を着るだけなんだが・・・」


 男が作業場の端に目をやるとそこには丁寧に置かれた物ときれいに畳まれた包装紙がある。

物の1つ1つに付箋が貼られており、ひと目でどんな物か分かるようにしてある。男は簡単に包装が外せる様に一個一個包む方法を変えながら丁寧に包んでいった。


「こういう小さな工夫がタイムロスをなくすんだよな」


物を全て包装し終えると、男はそれらを全て袋に詰めリボンで結んだ。


 男が作業を終え、時計を見ると針が7時を指している。


「そろそろ着替えるか」


男はクローゼットからサンタ服を取り出し着替えると、洗面台に行きメイクをし始めた。眉毛を白く染め頬を少し赤くし、付けひげを付けれ、帽子をかぶればサンタの完成である。


「よし、完成だ」


男は鏡の前で一周すると満足げに頷き、出発の準備をするために車の所へ向かった。


 車に荷物を詰め終わると男は運転席に乗り込んだ。


「待ってろよ。今からプレゼントを集めてくるからな」


男は財布にしまってある病衣姿の娘の写真につぶやくと財布をしまい、エンジンをかけた。


「お前が生きていたら今年で7回目のクリスマスか。お前よく言っていたもんな。早く良くなって、学校に行って友達が欲しいって」


男は車を学校に向けて走らせていく。愛する娘のためのプレゼントを集めに。


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