大人になった少年の噂

 少年はその日少しだけ大人になった


 少年は焦っていた。誰にばれることもなくこの状況を打破しなくてはならないからだ。日曜日の午後、誰にもばれずに事を解決するチャンスは今しかないのだ。少年は自分が知っている解決方法を全て試した。しかし、忌々しいその存在は未だ健在である。そもそも少年はこの様な状況になった事がなかったので自力解決するすべを持っていないのである。


(くそ、どうすればいい。他のやつに頼るか、いや記録が見つかる可能性があるものは避けたい)


少年の焦りは段々と強くなっていった。


(落ち着け、一旦落ち着くんだ。戦場では焦ったやつから死んでいくと相場が決まっているじゃないか)


 少年は深呼吸をニ、三回するとこれまでの経緯を振り替えるとこにした。


(最初はいつものようにしていただけだった。それだけだったはずだ。選択を誤ったとしたら、間違いなくあの部分だろう。ちょっとした興味があんなことになるなんて。でも仕方ないだろう。誰だってあの状況になれば挑戦しようとするに決まっている。それが罠だったとしても行くのが日夜宝を追い求める者の性だろう。もしここで行かないやつがいるとしたら、俺はそいつを臆病者と罵ってやる)


 気がついたら少年は自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。心の中では強がっているものの、まだ中学生にも満たない年齢である。少年はこの日初めて本当の意味での後悔というものがなんなのか、身を持って感じるだろう。好奇心は猫を殺す、雉も鳴かずば打たれまいとはよく言ったものだ。


(なさがら俺は調子にのった雉そのものだろう。)


少年の頭は真っ白になり、弱々しい笑い声と共に笑みがこぼれてきている。もう諦めて大人しく怒られてしまおうか、そう考えた時、ぼーんぼーんという時計の音が鳴った。少年の意識が時計の音で連れ戻される。慌てて、時計を見ると針は一時半を指している。


(まずい、奴らが戻って来るまで後の少ししかない。)


少年は両手で、バチンと力強く自分の頬を叩くともう一度覚悟を決め、その存在と向き合うべくパソコンの画面に目を向けた。


(もう一度冷静に考えろ。こいつは表面上だけ消しても、何度でも蘇ってくる。根本から消し去るしかないのだ。そのためには先ずは際深部へ行く必要がある…仕方がない)


 少年は、他の者に頼ることに決め、早速キーボードを打ちならした。


(必要なのは最深部へ行く方法と不正なプログラムの見つけ方だ)


集まった情報を精査していく内に深部への行き方と不正なプログラムの見つけ方を集めることが出来た少年は早速その方法を試してみることにした。


(最深部への侵入には成功した。ずいぶんと時間が掛かってしまったが後は不正なプログラムを見つけるだけだ)


ガタガタという音だけが部屋に響き渡り、キーボードを打つのと同じくらい少年の心臓の鼓動が早くなる。制限時間は刻一刻と迫っていた


(あった!・・・)


 ついに件の不正プログラムを見つけた。少年の心臓がドクンと躍動し、顔には喜びが窺える。


(あと少し・・・あと少しだ・・・)


少年は震える指で不正プログラムの削除コマンドと打ち込みエンターキーを押した。


(やった!終わった!後は再起動して確認するだけだ)


 疲れが一気に襲ってき重くなった体を背もたれに預けながら再起動したパソコンを見た。しかし少年の眼前には先ほどと変わらない画面が映し出されていた。唖然としていると、玄関の方から「ただいまー」という声が聞こえてきた。 


 少年は机をドンッと強く叩きながら大声で叫んだ。

「くそ!・・・どうしたらエロサイトのブラクラは消えるんだよ!」

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