孤独の噂

動物以外にも感情ってあるのかな。


 燦々と太陽が照りつける夏の昼頃、私は一人思いにふけっていた。私が生まれてから何年がたったのであろうか。共に生まれた仲間達はとうの昔にどこかへ行ってしまった。昔は私を慕って毎日集まってくれる人々が何人もいたが、次第に数が減っていき今は週に一、二回数人来てくれる程になってしまった。


しかし私は、何もすることが出来ずにただ立ち尽くすことしか出来なかった。いや、出来なかったは間違いだろうか。私はしなかったのだ。時間が解決してくれるだろう、いつかは皆が戻って来るであろうと考えて、時の流れに身を任せ過ぎたのだ。きっとこれは、何もせずにのうのうと生きてきた私への罰だろう。


あぁ過去へ戻れたなら昔の自分に「自ら動け、でないと後悔するぞ」と言ってやりたい。そうでなくとも、もし私が動けたのなら、これまで来てくれた人々に手土産の一つも持って礼をしに行きたい。孤独と絶望がこれからも私を蝕んでいくだろう。


こんなことを考えていると向こうの方から老人が一人こちらに向かってきた。その老人を見ながら私はこうして来てくれる人は後何人残っているのだろうかと考えていた。この老人も私に会いたくて来ているのではなく、単なる惰性で来ているのではないか。このようなことでいちいち浮かれていては、本当に一人になった時の孤独さが増すだけだ。そう考えれば考えるほど、思考が悪い方向に向かってしまう。そんな考えを振り払うように私は頭を大きく振った。

私は何を考えてるんだ。先ほど、自ら動かなければならないと考えたばかりではないか。せっかく訪ねて来てくれた人がいるのなら、まずはもてなすべきではないか。

私がそう考えていると、老人がぽつりぽつりとしゃべりだした。


「お久しぶりでございます。ご気分はどうですか」


「私は元気だ。そっちはどうだ。」


「お互い随分年を取りました」


「あぁ本当に長く生きたものだ」


「おかげで腰も膝も悪くなりました」


「はは、二人してぼろぼろか」


「また、こうして来ることができるのもいつになるかわかりませんが、足が動く間はお訪ねしたいと思います。それでは」


「それでは今度はこちらからお訪ねしよう」


こちらが言い終わらないうちに老人はゆっくりと去って行った。

私は去って行く老人の背中を見ながら奥の方から溢れ出てくる幸福感に浸っていた。

人と話せるということはこれほどまでに心を満たしてくれるのだろうか。


 それからの私は人が訪ねて来る度に話しかけた。皆一通り話終わると顔に笑みを浮かべて帰っていく。その度に私の心が澄んでいく感じ、それを実感する度に喜びに身を震えさせた。


 暑い夏が過ぎ去り、季節は秋になった。足元には落ち葉が散らばり後少しで布団が出来そうなくらい、積もっていた。


「落ち葉がこんなにも積もってしまった。掃除をしなければ」


秋の涼しさに身を任せながらぼーっとしていると、夏以降もたびたび訪ねてくる老人がやってきた。


「ご無沙汰しております。今日は報告があって参りました」


「報告とな」


「実は今度、息子と住むことになりまして。近いうちに引っ越すことになりました」


「つまり遠くに行ってしまうのか」


「つきましてはお別れのご挨拶に伺いました」


「そうか、寂しくなるな」


「それではご神木様もお元気で」


老人は木に対し一礼するとゆっくりとかえっていった。


 あぁ、なぜ私は木なのだろうか。老人に言われ、自分の中で必死に誤魔化してきた何かがはじける、人だったのならばあの老人にもてなしの一つもできただろうに。(自ら動け)といくら自分に言ったところで私は何もできないではないか。所詮は木なのだから。

 老人がいなくなってから数年、木は変わらずにそこにいる。特に何をするわけでもなく何もできることはなく。


だから木は語り掛けるだろう「自ら動け、でないと後悔するぞ」と

 

「これがおじいちゃんの言ってたご神木さんだね」

 遠くから、子供の声と複数の足音が聞こえる。

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