噂シリーズ(五分で読める短編集)
図書館出張所
古い図書館の噂
これは少し昔の遠いどこかのお話です。
昔々あるところに大きな図書館がありました。その地域には学校や集会所というものがなく、図書館には大人から子どもまでたくさんの人が訪れ、皆がそれぞれ好きな本を読み、併設されている談話室ではその日読んだ本について話を弾ませる。図書館はみんなの憩いの場となっていました。
しかし時が流れ、学校や塾、娯楽施設にテレビゲームなど新しい環境へ次々と変わっていき、人々もそちらに移ってしまいました。そのため、図書館に来る人は年々減っていき、ついには閉館となってしまいました。
それからしばらくして、子どもの間で奇妙な噂が広まり始めました。
「ねぇ知ってる?閉館した図書館の噂」
「知ってる!図書館の印がある本がいつの間にか自分の家にあるってやつでしょ」
「そうそう。それでね、この話には続きがあって、何でもその本を読まないで三日間放置すると図書館に連れてかれちゃうんだって」
「本当!?こわーい」
「それでね、隣のクラスのAちゃんのお家にもその本があったんだって」
「え、本当!?」
その噂は瞬く間に学校中に広まりましたが、対処方法が本を読むだけなので最初の内は皆怖がっていましたが次第に怖がられることはなくなりました。
そんなある日、クラスの男の子たちがこんなことを話していました。
「今度、誰かの家に本が置いてあったらそのまま読まないでおこうぜ!」
「いいじゃん! 面白そう」
「よーし、じゃあ約束な。本があったら読まずにみんなの所に持ってくる、そしてそれを読まないままにしておくこと」
「「おう」」
それは単なる子どもの度胸試しのようなもので、皆噂のことはあまり信じておらず、ましてや連れていかれるなんて夢にも思っていませんでした。その後も何が起こることもなく学校中で噂が飽きられてきた頃、約束の言い出しっぺであるB君が足早にクラスにやってきました。
「これ見てみろよ。昨日帰ったら家に置いてあったんだぜ。」
そう言って一冊の本を取り出してみせました。そこには、はっきりとあの閉館した図書館の印が押してありました。クラスの男の子たちが一斉にB君の元に駆け寄ります。
「すげー! 本物じゃん」
「中は読んでないんだよな」
「当たり前だろ」
皆で話し合った結果、三日目の夜にB君の家に皆で泊まることになりました。
「じゃあ皆、泊まりの準備が出来たら家に集合な」
「「おう」」
放課後、それぞれが泊まりの準備を済ませ、B君の家に集まりました。集まってから数時間のうちは、皆がそれぞれ好きな様に遊んでいましたが、時間がたつにつれ、やはり小学生なのか一人また一人と寝てしまい、ついにはB君一人になってしまいました。
(なんだよ。皆寝ちゃったじゃん)
B君はそう思いながら時計を見ると、時計の針は十二時に迫ろうとしています。そのまま、少しワクワクしながらもボーッと時計を見ているとやがて時計は十二時になり、ボーンボーンと音を鳴らしました。
B君がため息をつきそろそろ寝るかと振り替えると部屋全体が薄暗くなっており、更にゆらゆらと歪んでいます。さっきまでいた友達もどこにもいません。B君が慌てて、子供部屋のドアを開けようとしましたが、一向に開く様子はありません。すると突然足をガッと捕まれ床に引きずり倒されました。B君が恐る恐る足の方を見ると、真っ黒い手がB君の足を力強くつかみ暗闇に引きずり込もうとしています。
何か助かる方法はないかと辺りを見渡すと、あの図書館の本がB君の目に留まりました。B君は渾身の力を振り絞って本を手にとると、一心不乱に読み始めました。そして一説読み終わった瞬間、黒い手がフッと消え、部屋も元に戻りました。B君は安心したのかそのまま気絶したように眠ってしまいました。
B君が目を覚ますと既に皆起きており、本はどこにもありませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます