永遠の時
この城は時が止まっているように、民衆に襲われた時のままそのまま放置してある……と自警団の連中に取っ捕まり、バードは長いお説教を聞いていた。エミリもいた。盗賊稼業を知られたらただではすまない、長居はできないなとエミリに言い、ものぐさな台所やダニの居る布団を干したりして、二人で幸せな時を過ごしていた。でもこの生活も長くは続かない。バードはエミリにここを離れても平気かと尋ねた。
「私お姉ちゃんがいればどこでも平気よ」
そういってニコニコと笑顔を作ったエミリである。
「あんたともお別れだな王子様」
肖像画に佇む美しい貴公子に別れを告げて、バードは身支度をしていた。
城の外に少女がいる。修道女だ。
「なんで修道女がこんな物騒なところに……?」
その時は気にも留めなかったバードである。花壇の花に水やりをしていたエミリに何か話しかけていたようだった。
窓の奥からその様子を眺めているとその目の大きな小柄な修道女と目が合った。
修道女は軽く会釈しバードは物陰に隠れた。
何を戸惑う必要がある……
バードは少し考えて修道女の居る方向へと足を伸ばした、三階のフロアからは結構な距離がある、長い階段をバタバタと降りてエントランスから見える話しているエミリと修道女を一旦足を止めて眺めていた。修道女は腰をおとし、エミリの話に耳を傾けていた様子である。いい奴そうだ。バードはなんとなくそう思った。
二人のそばまで駆け足で行くと、修道女はにっこりと微笑んで頭を下げた。
「あなたがここの家主ですか?」
「いや居候みたいなもんさ」
「私たち勝手に住んでるのだから今日怒られたのよ」
エミリが余計なことを言ったものだから修道女は笑っていた。
「私はファティナと言います、邪悪な気配を感じ立ち寄らせてもらったのです、ここは何かいわくがありますね?」
「まあ昔……なんかあったぽいけどよくは知らねえ」
「ここには亡くなった魂が残されています、悲しいくらい悔いの残る死に方をした方々がたくさん、私が除霊をしても?」
「幽霊がいるってのかよ」
「おねえちゃんは神様も幽霊もいないって言ってた」
「神は存在するのですよ?」
気品にあふれた様子で修道女がもっともらしく言うと、バードはそんなわけないと呟いた。
「なぜいないと言えるのですか?」
「神様が本当にいるのならなぜ俺やエミリを放置しているんだ」
震えて最後は声にならなかった。そうだ神が本当にいるのだとしたらあのような悲劇が起きるはずないではないか、なぜ自分の家族を殺さなければならなかったのか、なぜ裸足でここまで逃げ出さなくてはならなかったのか。
「神は試練を与えるときもあります、でも乗り越えたからこそ、あなたはこうして生きているのでしょう?」
「あんたに何がわかる……」
「行こうかエミリ」
「お姉ちゃん私は信じるよ神様?」
「あなたが信じなくても奇跡はおきます、今日はこの城をみてまわります」
「……勝手にしろよ」
「エミリ、今日はアジトに泊まるから」
「ここを離れるの?怒られたから?」
「長居はできねえんだ」
長く住んでいた城を離れるのは少し寂しかった。その奇跡とやらが本当に存在するなら自分たちに何も奇跡が起こらなかったはずはない。自分しか信用ならない。行動するしかなかったのだ。あんな育ちのよさそうなお嬢さんに何がわかるというのか、少しいらだちを覚えながら荷物をまとめてアジトのほうへと移動するエミリとバードである。
「あらいらっしゃい可愛いわねそれが例の妹さん?」
フェルマが出迎えてくれて、アジトの隅に荷物を置き、これがフェルマだよとバードがエミリに紹介すると、エミリは綺麗なお姉ちゃん!と言ってすぐになついた様子だった。おかしらも現れてエミリの頭を撫でたりして可愛がってくれた。
「あの子ストリートチルドレンだったんだ」
バードがダイニングの椅子に座り事情をフェルマに語るとそうなのと言って紅茶のおかわりを注いだ。
「なあフェルマお前神様って信じる?」
「どうして?」
「俺は……信じてないから」
「何か特別な力はね多分存在すると思うのそれが神様のせいかはわからないわ
不思議なことってあるものよこうして私、こうやって幸せにお茶を飲んでいることだってきっと神様のめぐりあわせだと思う、私だってもっと幸運に恵まれていたらって思うことあるわ、でもこうしてバードとお茶が飲めるの今幸せならきっと神様のおかげなのよ」
「フェルマは信じるんだ」
「一応ね、でも信仰心が強いとかじゃないから」
そう言って紅茶の缶の蓋を開けて茶の葉を足すフェルマである。それを啜ってバードは次のねぐらを探さなくてはならないなと呟いて、アジトの隅のほうで寝かせてもらった。
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