2話〜蜃気楼

現在

渋谷駅前にて。


「貴方が須藤幻ね。私は未来。柊未来。よろしくね。」

「……は?」


CDショップでCDを買って渋谷駅前でふと、ヘッドフォンを取ってみたら言葉の地獄。その中から見つけた俺の名前。導かれるように向かうとそこには銀髪少女の挨拶がそこにあった。

……訳が分からない。

その少女は凛とした顔つきでジーンズと100年くらい前のバンドのネズミをモチーフにしたイラストが描かれているTシャツを着ているからだろうか、とてもボーイッシュに見える。

っていうかなんでそのTシャツ?


「西川先生の言う通りね。渋谷に行けば幻ちゃんは物思いにふけてヘッドフォン外すと思うから貴方の名前を連呼してれば貴方が見つけてくれるって言ってたの本当だった見たいね。時間も正確だし。」


それに、と柊未来は付け加えた。


「うん!容姿もいいじゃない。私にぴったりのブラッドスミスね。」

「あの……?」

「あ、でも貴方、結構聖玉学園で悪さをしてるらしいわね。おいたはダメよ?ケンカはしてないのかしら?」

「話を聞いてくれ。」

「あ、それに……。」

「話を聞け!」


俺の切実な叫び声に周りの人達はぎょっとして俺たちを見てきた。俺の周りの見える言葉も一瞬消える。そうして残るのはちょっとチャラい少年が年下の幼女に怒鳴るというシチュエーション。

俺ははあ、と何度目かのため息を吐くと柊未来の手を引いた。すると柊未来は顔を少し赤らめて。


「え?いきなりホテル?そんな……私。まだ心の準備が……。」

「違うわ!

……ああ!もう!めんどくさいな!」


俺はそのまま柊未来の手を引くと裏通りの方へと足を駆け出した。











裏通りのさらに裏通り。どんどん人通りが少なくなっていくと目的の店に着いた。


喫茶〜蜃気楼〜


「ここは?」


柊が不思議そうに店をみる。この店の外観はいたって普通なレトロなレンガ調のお店だ。俺はヘッドフォンを取ると迷わず店のドアを開ける。


「あら〜?幻じゃない?どうしたの?」


迎えたのは金髪の厳つい男。だが厳ついのに裏声。それもそのはず。ここのマスターはオネエさんなのだ。

名を西川誠。この喫茶店の店長でもある。

コーヒーメーカーでちょうどコーヒーを作っていたのだろう。コーヒーの香りが入口に届いてきた。

部屋の内装はカウンター席5つと奥にカーテンで仕切られた2人がけのテーブル席がある。


「マスター。ちょっとテーブル席借りる。」

「いいわよ〜。幻の頼みならなんでも……」


そして俺の後ろから付いてきた柊を見るとマスターはうるっと目に涙を浮かべた。そしていきなり俺の手を取ると。


「幻……ついに貴方にも魔女が出来たのね……。よかったわ〜。孤高の1匹狼にもついに……」

「よろしくお願いします。マスターさん。」

「ちげえよ!?どいつもこいつも頭おかしいんじゃないのか!?柊未来だっけ?お前もよろしくお願いしますじゃねえ!」


俺はそう叫んでマスターの手を弾く。するとマスターはチッチッチッと舌を鳴らして。


「いえ、あなた達はいいコンビになると思うわよ。30年この店を続けてきていろんな魔女、ドヴェルグ、ブラッドスミスを見てきたけどあなた達、しっくり来てるわよ。」

「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。」

「だから、なんなの!?

……柊。とりあえずこっちの席だ。こい。」


そう言って2人がけの小さなテーブル席に座る。柊も俺の前の席に座る。

するとマスターはお冷を持ってきて。


「はい、お冷。コーヒーは私の奢りで今日はいいわよ。柊ちゃんはコーヒー飲める?」

「はい、大丈夫です。」

「んじゃ2人分作るわね〜。どうぞごゆっくり〜。」


ふんふんふんと鼻歌を歌いながらマスターはカウンターの方へと歩いていく。俺はお冷を少し飲むと本題に入った。


「それで?お前なんなの?いきなり俺を見つけたと思ったらなんかいろいろ言ってきて。」

「そうね。あまりにも突然だったわね。」


そう言って柊もお冷を少し飲むとゆっくりと話を始めた。


「私、貴方の魔女になりたいの。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る